うちにいるミステリアスおねえさん
ボクのうちにはミステリアスおねえさんがいる。
おねえさんが来たのはボクがまだ小さかったころのことだ。正確にはおぼえていないけれど初対面のことはよくおぼえている。あるとき『お母さん』より若い女の人がやってきた。
「やあやあチヒロくんだね。私は〇〇。ただのミステリアスおねえさんだよ」
子供ながら変な人だとおもった。お父さんにもそういうと困った顔をされた。
「彼女はいつもあんな感じなんだけど、チヒロはどう思う? 一緒におうちに住んでもいいと思うかな?」
ボクはうなずいた。変な人だけど、嫌じゃないと思った。
一か月後、ミステリアスおねえさんと一緒に住むようになった。
「おねえさんはね魔法使いなんだよ。なんていってもミステリアスだからね」
おねえさんはそういってボクの好物をたくさんつくってくれた。嫌いだったニンジンやピーマンもこっそりとハンバーグに混ぜていたのは知っていた。でも、おいしかった。苦手なものも食べられるようになるとおねえさんはニコニコと笑っていた。
小学校に行くようになった。初めての場所だし知らない子たちばっかりで緊張した。
「何か悩んでいるみたいだね? それじゃあいい方法を教えてあげよう」
そういって公園の砂場にボクを連れていくと泥団子をこねだした。それから砂をかけながら表面をみがいていく。だんだんと表面がつるつるになっていってピカピカになった。
「この魔法の玉をつくってみせればたちどころに友達がよってくるよ。ミステリアスボールと名付けよう」
なじめなかったクラスの友達とも仲よくなることができた。友達と遊んできた帰りに服を泥だらけにしてもおねえさんは「よく遊んできたね」といってきれいにしてくれた。
あるときから家族が増えた。女の子の赤ん坊だ。その赤ちゃんはボクの妹と呼ばれていた。
家の中に泣き声が響くようになった。赤ん坊はいろいろな理由で泣いた。お腹が空いた。おしめがぬれた。寂しい。いろいろだ。
赤ん坊が泣くたびにお父さんとおねえさんは忙しくする。それでも理由がわからず泣き続けるときがある。親でも子供の気持ちはわからないのだろう。そんなときはおねえさんはタンバリンを鳴らしだす。そして踊りだす。
赤ちゃんの泣き声が聞こえたと思ったら、お姉さんが片手にタンバリンをもって赤ん坊の前で打ち鳴らしていた。
「んふふ、こうやって洗脳しているんだよ。これが呪術ってやつだ、ミステリアスでしょ?」
リズミカルにたたくたびに赤ちゃんの小さい手足もリズムに合わせて動いていた。
妹の背が伸びてしゃべるようになった。
妹は当然のようにおねえさんのことを『おかあさん』と呼んでいる。
お父さんもおねえさんのことを『母さん』と呼んでいる。
おねえさんに聞いてみた。ボクも『おかあさん』と呼んだ方がいいのかって。
「いいんだよ。チヒロくんのお母さんは一人だけなんだから」
ボクはいままでのように『おねえさん』と呼んだ。
この日、ボクは『お母さん』に会うことになっていた。おねえさんは笑顔で送り出してくれた。
久しぶりに会った『お母さん』は高そうな服を着ていた。会う場所も高そうなレストランだった。
「えっと、おおきくなったわね」
お父さんと一緒じゃなくなっても『お母さん』はお母さんのままらしい。
『お母さん』は今の生活を色々聞いてきた。最後に聞いてきたのは「いっしょに住まないか」っていうことだった。そこには新しい『お父さん』もいるらしい。新しい『お父さん』にも会おうと誘われた。
お父さんの運転する車に乗っておうちに帰った。
「おかえり、チヒロくん」
おねえさんはいつものように笑顔で出迎えてくれた。リビングからはタンバリンの音がする。さらに背が伸びた妹がタンバリンを鳴らしていた。妹も大きくなったらきっとミステリアスおねえさんになるのだろう。
ボクはソファに座る。ソファの右端、それがいつものボクの場所だった。
おねえさんは何かをいいかけてはボクの顔をちらちらとみている。いつも楽しそうに話しかけてくるときと違っていた。
ボクは『お母さん』とのことを話した。
「へ、へー、そっか。よかったね。うん……」
おねえさんはどこか元気がなさそうだった。
この家がぼくのおうちだというといつもの笑顔に戻った。
「よかったの? お母さんと同じ家じゃなくて」
ボクは思い出す。『お母さん』と会ったとき最後に聞いたことがあった。
―――お母さん、そこにおねえさんはいる?
魔法みたいな料理をつくったり、泥団子つくったり、タンバリンを叩いて踊ったりするおねえさんだ。
もちろんいないと答えられた。自分のことをミステリアスおねえさんなんていうのはこの人だけなんだろう。
おねえさんはニコニコしながらボクの隣に座った。それがいつもの位置。妹とお父さんもソファに座ってみんなでテレビを見た。
ボクのうちにはミステリアスおねえさんがいる。




