薩長合コン
【登場人物】
[薩摩藩の面々]
・西郷…薩摩藩士。堂々とした豪胆な人物だが…。
・大久保…薩摩藩士。女性耐性が無い。
・コマチ…薩摩藩の女性。高貴な家の出身。
・キヨカ…薩摩藩の女性。言動がなにやら怪しい。
・小松…薩摩藩家老。
[長州藩の面々]
・木戸…長州藩士。化けの皮が剥がれる…?
・ミヨ…長州藩の女性。焼き揚げ豆腐屋の娘。
[土佐藩の面々]
・坂本…土佐脱藩浪人。商業活動を行う「亀山社中」を率いる。薩長融和の話し合いの間に立つが…。
慶応二年一月二十一日(新暦:1866年3月7日)、京都・御花畑屋敷にて、幕末の混乱によって犬猿の仲となっていた薩摩藩と長州藩の双方の代表者が対面。その間に土佐脱藩浪人の坂本が居た。
坂本「方々、いつまでにらみ合っとるんじゃ?」
西郷&大久保「………」
木戸「………」
坂本「日が暮れてしまう。」
西郷&大久保「………」
木戸「………」
坂本「これでは双方ともになんにも成し遂げられんぜよ!」
木戸「…あ、来た。」
坂本「何?」
木戸「皆様、お待ちかね…。」
坂本「なんじゃ!?」
(警戒して立ち上がる坂本)
ースーッ(障子が開く)
ミヨ「お待たせしました~」
坂本「…?」
(会合の場に突如現れた若い女子に目を丸くする坂本)
木戸「待っとったぞ。こちらミヨと言います。」
ミヨ「お初にお目にかかります。ミヨにございます。」
(正座をして行儀よく頭を下げるミヨ)
坂本「な…? ん…?」
西郷「"ミヨ"か…良い響きだ。」
大久保「かわいい声…」
坂本「何を言っとるんじゃ?」
西郷「あ、こちら側の女子も来たみたいでごわす"ぜ"。」
坂本「薩摩弁おかしくね?」
ースーッ(障子が開く)
コマチ&キヨカ「お待たせしました。」
坂本「…??」
西郷「よう来たな!さ、ここへここへ!」
坂本「なにをそんな易々と…」
コマチ「お初にお目にかかります。コマチと申します。」
(正座をして行儀よく頭を下げるコマチ)
キヨカ「…キヨカと申します。」
(コマチを真似るように挨拶するキヨカ)
坂本「本当に誰?」
木戸「キヨカ殿、さては天然気質じゃな~?」
坂本「あんた本当にいつもの木戸さんか?」
西郷「では揃ったところで始め"ごわすぞ"。」
坂本「変な薩摩弁…。」
(西郷、大久保、木戸ら男性陣とミヨ、コマチ、キヨカら女性陣が向かい合うように座りなおす一同)
坂本「なんの席替えぜよ!」
(間でその様子をわけもわからず見ていた坂本)
西郷「では改めて、自己紹介から。」
坂本「あ、わしも知りたいわこの女子たちが何者か。」
ミヨ「では私から。私は、長州は防府にある焼き揚げ豆腐屋の娘です。普段は朝から晩まで豆腐を焼いて揚げていますが、本日は長州を挙げてこの男女の会合に臨みに来ました。」
坂本「"男女の会合"じゃと!?」
ミヨ「長州では昨年に反乱があったのですが、反乱軍を率いた方々の猛々しさを聞いて私の心が"揚がり"ました!」
坂本「仕事ネタで目立とうとしてる…?」
ミヨ「今回はそんな反乱軍の方々に負けないくらいの薩摩の殿方が藩を挙げて男女の会合に臨むと木戸さんからお聞きして、思わず来てしまいました~!」
坂本「男女の会合に藩を挙げるのやめてー。あと木戸さんこんなことで奇兵隊謙遜せんでー。」
西郷「ミヨ殿のもとににいれば毎日焼き挙げ豆腐を食えるっちゅうことか、それはいい"じゃねーかでごわすぜ"!」
坂本「あんた本当に西郷どんか!?」
ミヨ「目覚ましは熱した油ですよ~」(ニコニコ笑顔)
西郷「それは良いの~」
坂本「西郷さん、あんたそっち側か。」
西郷「大久保はどうだ?」
大久保「悪くない…(ニヤリ)」
坂本「薩摩はそういうヤツばっかりか?」
コマチ「では続いて私が自己紹介させていただきます。私は薩摩藩主家の分家の娘にございます。」
坂本「なんて人連れてきてんだ…」
コマチ「今回の男女会合は、この西郷の誘いを受けて参りました。当初はあの"長州"も交わるとのことで忌避しようと思うておりました。しかし、長州の武士は美形が多かったということで、"見聞広め"と思えば、まぁいいかな~と思い、行くことを決意しました。」
坂本「軽い…」
コマチ「長州の殿方らは、私に良きものを着せ、良きものを見せ、良き家を用意することを期待しております。」
坂本「ちゃんと姫君じゃ…」
コマチ「あと、薩摩芋も毎日用意願います。」
坂本「ちゃんと薩摩人じゃ…」
木戸「コマチ殿…いやコマチ様、私は医者の子として生まれましてな、善玉菌ならたくさんご用意できますぞい。」
坂本「なんじゃそのちんけな売り込みは…」
コマチ「………」
木戸「………」
(挑戦的な目で見つめあうコマチと木戸)
坂本「なんの駆け引きじゃ!」
コマチ「ほれキヨカ、あなたも自己紹介なさい。」
キヨカ「あ…キヨカと申します…」
(ぎこちなくお辞儀するキヨカ)
木戸「キヨカちゃん、もしかして緊張してる~?」
坂本「まさかの"ちゃん"付けぜよ…。」
キヨカ「家族以外の男と会うのは…半年ぶりで…」
坂本「筋金入りの箱入り娘か?」
木戸「そうか~そりゃ緊張しちゃうよね~」
坂本「今までの木戸さんは化けの皮だったのか…」
木戸「因みに薩摩のどこ出身?」
キヨカ「桜島の山頂。」
坂本「あ、設定で目立とうとしておるの!」
木戸「え?え?え?どうやって生まれたの?」
キヨカ「卵から生まれた。」
坂本「山頂の卵から生まれた…」
木戸「最高に奇抜な女子じゃ。」
坂本「やっぱり長州はヤバいやつが多いな。」
キヨカ「私と一緒になる殿方は薩摩芋を育てる肥料になる…。」
坂本「どういう目立ち方をしたいんじゃ…?」
木戸「私なら良い肥料になる自信があります。」
坂本「どういう生き方をしたらこの女子を受け入れられるんじゃ…?」
西郷「それではいよいよおいどんが自己紹介する"です"ごわす!」
坂本「薩摩弁忘れた?」
西郷「私は薩摩の侍として生まれた。その腕を見込まれ、先代の薩摩の殿様に信を置かれていたでごわす!」
(胸を張る西郷)
西郷「京での戦では薩摩の仲間たちを奮い立たせ見事に敵の長州を打ち破ったでごわす!」
坂本「よくここで言えたな!その打ち破った長州の代表(木戸)が今ここにいるというのに!」
木戸「………」(無表情で虚空を見つめる)
西郷「今、幕府から薩摩に『また長州を打ち破れ』という頼みが来ていましてな、その時はまた薩摩隼人の根性見せるつもりでごわす!!」
坂本「何言ってんだアンタ!!」
木戸「………」(鳥肌が立つ)
西郷「ほれ大久保次はお前じゃ!」
坂本「もう見てられんて…」
大久保「あ、あ、あ…ど、どうも…。」
西郷「大久保、何をもごもご話しておる。」
大久保「あー、まぁー、いやー、今日は良い天気で…はい…。」
坂本「女子と話せないんか。」
大久保「そういうわけではない!」
坂本「矜持強いのぉ。」
大久保「わ、わしの名は大久保、薩摩藩士。実務をやってます。」
ミヨ「へぇ~確かに頭良さそう!」
大久保「はっ!? えっ…エヘヘ…」
坂本「あー好きになっとる。」
大久保「この会合で我々薩摩男児と長州の女子の交流が深まることを願っておりまする!」
坂本「わしの描いていた会合の意義がもう跡形も無い!!」
木戸「はいはいはーい!次は拙者じゃ!」
坂本「頼む木戸さん、一回頭冷やしてくれ…。」
木戸「長州の荒ぶる武士たちを束ねております、木戸と申します。木戸は三つ目の苗字で前は桂、その前は和田が苗字でした。」
坂本「あ、桂の前も違う苗字だったんだ…どうでもいいよ今は!」
木戸「先ほども言った通り、自分、親が藩医です。」
坂本「あんたは医者じゃないだろー。」
コマチ「医者の家系とは立派じゃ。しかし、わらわにはお抱えの名高い医師が付いておるからのう…」
木戸「くうぅ~…逃げ足は速いです!」
坂本「ほら対等な駆け引き出来んじゃろ。」
西郷「ではこれにて全員の自己紹介が終わった!それではここからはなにかささやかな遊戯といきましょうぞ!!」
坂本「は!?本当にここ真面目な会合…というか会談の場だよ!?」
大久保「で、では…私から一つ…」
西郷「おう!なんじゃ大久保!」
大久保「『公方様遊戯』…」
一同「……………」
坂本「なにを言ってん…」
大久保「歴代の徳川将軍を一人につき一人ずつ言っていく遊戯…」
坂本「あっ…そういうこと…変なこと考えちゃった。」
西郷「それは良いのう!皆様も良いか!」
ミヨ「いいですね!」
コマチ「悪くない。」
キヨカ「やろう。」
木戸「これは負けられん!」
西郷「よし!わしからいくぞ!家康公!」
(手拍子)
大久保「秀忠公。」
(手拍子)
木戸「家光公!」
(手拍子)
キヨカ「家綱公!」
(手拍子)
コマチ「綱吉公。」
(手拍子)
ミヨ「家宣公!」
(手拍子)
一同「………」
(坂本に注目が集まる)
坂本「…あ、わしも?」
西郷「ぜひご一緒に!」
坂本「い、家継公。」
(手拍子)
西郷「吉宗公!」
(手拍子)
大久保「家重公。」
(手拍子)
木戸「家治公!」
(手拍子)
キヨカ「家斉公!」
(手拍子)
コマチ「家慶公。」
(手拍子)
ミヨ「家定公!」
(手拍子)
坂本「家茂公!」
(手拍子)
西郷「次は無い!!」
一同「幕府崩壊!ウオーーーーー!!!」
坂本「やめとけって!!」
西郷「あ~熱くなってきたの~!」
坂本「背筋が凍るわ!」
木戸「よーし!この勢いでお庭で蹴鞠でもやりましょうか!」
ミヨ「あ!私やってみたいです!」
コマチ「この高貴な足には勝てんぞ。」
西郷「そうと決まれば皆様お庭へ行き"ごわ"しょうぞ!」
坂本「みるみるうちに語尾が崩壊してるぞ!」
(庭へと急ぐ一同、坂本だけが部屋に残る)
坂本「西郷さんも大久保さんも妻おるよな…」
ースーッ…(ゆっくり障子が開く)
小松「上手くいったか?」
坂本「あ、小松様! もう滅茶苦茶ですぞ!」
小松「そうか! それは良かった!」
坂本「何が良いんじゃ!」
(立ち上がる坂本)
小松「今の薩長ではああでもしないと場が和まないであろう。」
坂本「わしら『亀山社中』がやったことは!? 薩長間での米と武器の交換手伝ってあげたよね!?」
小松「あー!! それ"も"!それ"も"しないといけなかった!!」
坂本「何を言うてるぜよ!! おかげで変な方向に話が進んでいってしまったぜよ!」
小松「落ち着け落ち着け! それじゃ、京の美しい女を何人か紹介しよう!」
坂本「………頼むぜよ!!」
その後、なんだかんだ薩摩と長州は手を組むことが決定!「次は無い!!」の精神で幕府へと挑んでいくことになる。そして"男女の会合"の結末は………知らないし、興味も無い。
「薩長合コン」ー完ー
※史実を基にしたフィクションです。
※登場する歴史上の人物の人格・行動・言動はすべて作者の空想であり、ご本人様とは関係ありません。




