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3話 オリビアの曾孫

「私は——」


一瞬、言葉を選ぶように間を置く。


「私は——ただの旅の魔導師だよ」


「へぇーって納得するわけないだろ」


鋭い眼差しが、まっすぐこちらに突き刺さっている。疑いを隠そうともしていない。


……うん、知ってた。


そんな簡単に信じてもらえるとは思っていない。でも大丈夫。

これくらい、どうってことない。


だって私は、あの子たちの師匠なんだから。


『師匠ならこれくらい死なないでしょ!』


なんて笑いながら、平気で魔法を撃ってくる弟子たちに比べれば こんな睨みくらい、正直可愛いもんだ。


……とはいえ。


このままでは埒があかない。


さて、どうしたものか。


私はボロボロのローブのポケットを探り、

中から一枚のカードを取り出した。


そして三人に気付かれないよう、

こっそりと魔力を流し込む。

よし、これならいける。


私はカードを軽く掲げ、にっこりと微笑んだ。


「実は私——」


少し声の調子を変える。


「占い師をしながら旅をしているんです」


そう言うと、青年はさらに眉をひそめた。


「……占い師?」


隣にいた自警団の男が、面白そうに笑う。


「へぇ、占い師ねぇ」


腕を組みながら、にやにやと近づいてきた。


「じゃあさ——」


男は口元を歪めて言う。


「俺の秘密を言ってみな」


もう一人の自警団が肩をすくめた。


「おいおい、いきなり無茶振りだろ」


男はニヤリと笑う。


「当てられたら信じてやってもいいぜ」


どうせ無理だろ、と言わんばかりの態度だった。


……申し訳ないが。


魔女を舐めないで欲しい。


これでも私は、七人の弟子を育てた師匠なのだ。


私はカードを指で軽く弾き、

小さく呟いた。


「ノクス・イノン」


精神魔法

ノクス・イノン


相手の表層意識に触れ、

今まさに考えている思考を読み取る魔法。

ただし深層意識までは覗けないため、

読み取れるのは断片的な情報のみ。


……まあ、これで十分だろう。


私は男の思考に、そっと触れた。

すると、ぽつりぽつりと考えが浮かんでくる。


「チッ、占いなんて馬鹿馬鹿しい」


「どうせハッタリだろ」


……ふむ。


そして次の瞬間


「昨日酒場の娘のスカート覗いた事なんてバレたら大変だ」


……うわ、最低だ。


思わず小さくため息をつく。

よりによって、そんなことを考えているとは。

私はカードを指で弾きながら。


「あなた、昨日酒場で……」


「ちょっ!?」


男の顔が一瞬で固まる。

その反応をみた横の自警団が首を傾げた。


「どうした?」


私はゆっくりと言葉を続ける。


「若い女性の後ろを——」


「わー!!待て待て待て!!」


男は慌てて両手を振り回した。

顔は真っ赤で

さっきまでの余裕は、完全に消えていた。


「言うな!それ以上言うな!!」


もう一人の自警団が吹き出す。


「お前……何やったんだよ」


「うるせぇ!!」


男は慌てて振り向き、叫んだ。


「こ、こいつぁ本物だぜ!」


鋭い目をしていた青年が、初めて少し驚いた顔をする。


「……本当に当てたのか?」


私はにっこりと微笑んだ。


「わかっていただけたなら嬉しいです」


男は気まずそうに頭を掻いている。

……まあ、少し可哀想なことをしたかもしれない。でも、自分から言い出したことだ。

私は軽くローブを整え、改めて頭を下げた。


「すみません、挨拶が遅れました」


そして柔らかく微笑む。


「私の名前はエリールと言います」


そう 癖で偽名を名乗った瞬間。

また青年の眉がぴくりと動く。


「……エリール?」


その目が、じっとこちらを見据える。


「さっきもそうだけど」


青年はゆっくりと言った。


「なんで、ひいばあちゃんの名前を知ってる?」


……あ。

やっぱり、そこは見逃してくれないよねぇ。

青年の視線は鋭く、まるでこちらの心の奥まで見透かそうとしているみたいだった。


これは……まずい。

いや、落ち着け私。

こういう時は、とぼけるに限る。


「ひいばあちゃん……?」


私は首を傾げてみせる。

青年は間髪入れずに言った。


「オリビアだ」


……あー、完全にロックオンされてる。

青年の目が、さらに細くなる。


「さっき、あんた言ったよな」


「オリビアって」


しまった。

思い出に浸って、つい口に出してしまったのが運の尽きだ。


横で様子を見ていた自警団が口を挟む。


「おいおい、偶然じゃないのか?」


「名前くらいどこかで聞いたことあるだろ」


青年は首を振る。


「いや」


そして、少し考えるように言った。


「でも一つ、確かめる方法がある」


「方法?」


「日記だ」


青年はそう言った。


「俺の家に、ひいばあちゃんの古い日記が残ってる」


自警団の男が笑う。


「百年以上前のやつだろ?」


「そんなの見て何が分かる?」


青年は静かに言う。


「少なくとも」


そして私を見る。


「この人が嘘をついてるかどうかは分かる」


……逃げ道が完全に塞がれた。


私は小さくため息をつく。


「……わかりました」


こうして私は

オリビアの日記を見ることになった。

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