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【完結保証/毎日更新】帳簿令嬢の答え合わせ ~その不正、すべて帳簿が覚えています~  作者: Lihito


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24話:三冊目

商会主の執務室は応接室の奥にあった。


鍵はかかっていなかった。机の上に書類が散らばっている。棚には帳簿が何冊も並んでいる。几帳面とは言えない部屋だが、金はかけている。調度品が無駄に上等だった。


棚の帳簿を一冊ずつ抜いて、開いて、戻す。城壁修繕と関係ないものは飛ばす。取引先との仕入れ台帳、人件費の管理簿、雑多な経費の記録。


(……これだけ帳簿があって、全部「表」の数字ってことはないわよね)


三冊目を開いた時、手が止まった。


素材の仕入れ記録。石材の産地、数量、単価。


単価を見る。


(——安い)


城壁用の高級石材として発注記録に載っている額と、実際の仕入れ額。桁が違う。

帳簿上は高級品として計上して、実際に買っているのは安い石。差額がそのまま利益になる。


大工の給金を水増しして抜く。素材を安物にすり替えて抜く。二重の中抜き。


この一冊で、構造が全部繋がった。


帳簿を持って応接室に戻った。グレンが商会主の傍に立っている。まだ気絶したまま。


「見つけた」


「……何が書いてあるんですか」


「素材の仕入れ記録。高級品の値段で計上して、実際は安物を買ってる。差額を抜いてた」


机の上に三冊並べた。


一冊目。大工への支払いを水増しした帳簿。

二冊目。国庫からの発注額を過少記載した帳簿。

三冊目。素材の仕入れ実態が書かれた帳簿。


三冊揃えば、金の流れが全部見える。国庫から入ってきた金、大工に払った金、素材に使った金。そしてその全部で差額を作って、抜いていた。


「監査院に行くわ。今から」


「この人は」


「縛ってそのまま。逃げないようにだけして。監査院に引き取ってもらう」


グレンが頷いた。商会主の手足を縄で縛る手際が妙に良い。


「……やっぱり手慣れてるわね」


「元近衛ですから」


***


監査院の受付で名乗った。二度目だ。


「アイリス・ヴァレンシアです。カイルさんをお願いします。先日の城壁修繕の件で」


受付の女性の反応が前回と違った。目が泳がない。奥に声をかけて、すぐにカイルが出てきた。


「ヴァレンシア様。……何かありましたか」


前回と同じ面談室に通された。


机の上に並べた。帳簿三冊、給与明細の写し、発注記録の写し。


「ブルクハルト商会の帳簿です。三冊あります」


カイルの目が帳簿に落ちた。


「一冊目。大工への支払いが水増しされています。帳簿上の額と、大工が実際に受け取っている額が一致しません。給与明細と突き合わせれば分かります」


一冊目を開いて、隣に給与明細を置いた。カイルの目が数字を追っている。


「二冊目。国庫からの発注額が過少に記載されています。こちらの発注記録と突き合わせてください」


二冊目を開いた。カイルが発注記録と見比べる。ペンがすぐに動いた。前回みたいにしばらく触らなかったペンじゃない。最初からメモを取っている。


「三冊目。素材の仕入れ記録です。城壁用の高級石材として計上されていますが、実際の仕入れ単価はここに」


開いた。カイルの手が止まった。数字を見ている。


「……これは」


「高級品の値段で帳簿に載せて、実際は安い素材を仕入れている。差額が利益です」


カイルが三冊を順に見た。一冊目、二冊目、三冊目。それから給与明細。発注記録。

全部の数字が一本の線で繋がっていくのが、この人の目の動きで分かった。


「大工の給金で抜いて、素材で抜いて、帳簿を操作して辻褄を合わせていた。三冊突き合わせれば構造は全部見えます」


カイルがペンを置いた。


「……前回、すぐに動けず申し訳ありませんでした」


「いえ。あの時は状況証拠しかなかったから、当然です」


「今回は」


「動けますか?」


カイルが帳簿を見た。三冊。物的証拠。改竄の痕跡。そして帳簿が複数存在すること自体が動かぬ証拠。


「すぐに上に報告します」


前回の「お時間はいただくことになる」とは別人みたいな声だった。


「あと、商会主の身柄がブルクハルト商会にあります。証拠を取り上げようとして暴れたので、護衛が取り押さえました。引き取りをお願いできますか」


「……暴行ですか」


「こちらからは手を出していません」


カイルが一瞬だけ目を閉じた。それからペンを取って、書き始めた。


「分かりました。人を出します」


立ち上がりかけて、止まった。


「ヴァレンシア様」


「はい」


「前回いらした時——正直に申しますと、判断に迷いました。報告の内容は筋が通っていましたが、お名前を聞いた時点で、身構えてしまった」


「分かってます」


「それでも、証拠を持って戻ってこられた」


「状況証拠じゃ動けないって言われたから、物的証拠を持ってきただけです」


カイルが少しだけ笑った。前回は一度も見なかった表情だった。


「追加でお気づきの点があれば、今度は私から伺います」


「ありがとうございます」


立ち上がった。


廊下に出ると、グレンが壁にもたれていた。いつもの場所。


「終わったわ」


「今度は動きますか」


「動く。——帰りましょう。もう一つ、やることがある」


グレンが半歩前に出て歩き始めた。

ふと、さっきのことを思い出した。石材の密度。北方の産地。あの受け答えは護衛の知識じゃない。


(もしかして、今回みたいなのが得意なのかしら。潜入とか、演技とか)


鑑定した。


【グレン・ファルクス】

現在価値:1,200

潜在価値:9,999


(……まぁ違うわよね)


何度目だろう、これで。全部外れ。この男の9,999は、何を試しても微動だにしない。


帰りの道、空が高かった。王都の空は相変わらず景気のいい色をしている。通りを行く人たちの顔は明るい。城壁は白くて立派に見える。


でも中身は知っている。知っていて、証明した。


(まだ一つだけ。ブルクハルト商会は手駒の一つでしかない。その上に何があるかは、まだ見えてない)


でも今日はいい。今日やるべきことは、もう一つだけ。


ルッツに会いに行く。

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