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第5話:禁草の影と決意の処方箋

朝の光が城の石壁に反射し、王都の空気を冷たく照らす。夜の間に漂った匂いは少し残り、私の嗅覚は昨夜の蒼い煙の記憶をまだ追いかけていた。禁草——あの甘く冷たい香りが、王都の秩序を揺るがそうとしている。


「さて、今日は商会と接触する必要があります」

霧夜が短く言った。彼の匂いから読み取れるのは、警戒だけではなく、私への信頼の微かな色。夜の塔での共闘以来、互いの能力を認めたのだ。


「……あの商会、普通じゃありませんよ」

私は薬壺を整理しながら呟く。匂いは確かに複雑で、人為的に操作された禁草の痕跡が混ざっている。——巧妙すぎる。


霧夜は黙って頷き、私たちは城を出た。路地裏の市場、光と人の匂いが入り混じる空間は、私の嗅覚にとって試練だ。しかし、匂いは嘘をつかない——誰が商会の手先か、誰が本当に困っている市民か、すぐに分かる。


「露華、気をつけろ」

霧夜の声が耳元で低く響く。匂いだけで察する危険——確かにある。商会の者たちは王都に潜り込み、禁草を密かに流している。何かの拍子で私たちに気付けば、戦いは避けられない。


市場の角で待つと、一人の商会員が現れた。香りは巧妙に偽装されている——しかし、禁草の甘い余香が微かに混じる。私はすぐにそれを嗅ぎ分けた。


「……ここで何をしている?」

私の声は冷静だが、薬壺の蒼い煙は準備万端。匂いの成分を色で可視化し、商会員の体に混じる毒の影を見せる。


商会員は焦る。匂いで全てが露わになる——逃げ場はない。私は薬の知識と嗅覚を駆使して、禁草の混入量や目的を逐一読み解く。


「王都を混乱させるためか……しかし、匂いで全部暴けます」

霧夜が短く言った。彼の冷静な視線が、市場の人々を守る盾となる。私の薬と嗅覚、彼の判断力——二人の連携が、初めて真価を発揮する瞬間だ。


商会員は白状した。禁草は、特定の側近や貴族の過去を塗り替え、王都の秩序を自分たちに有利に操作するために流されていた。私たちは、それを阻止するための処方箋を決意する。


「……まずは、混入された禁草を回収し、側近たちの安全を確保する」

私の声は揺るがない。匂いは嘘をつかない。真実を知った今、私ができることは一つだ。


霧夜は黙って頷き、私の手を軽く握った——ほんの一瞬、だが確かな信頼を示す。匂いでは測れない感情が、そこにあった。


市場を後にし、王都へ戻る途中、私は小さく呟く。

「薬は人を救うためにある……誰かの過去を消すためじゃない」


夜の塔で蒼い煙が揺れる。禁草の影に怯える者も、守るべき人々も、すべて匂いが教えてくれる。少女薬師の処方箋は、王都の未来を守るために、今、決意を固めたのだ。

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