21 2人の兄
4章21話です!
よろしくお願いいたします!
アルレス、ルティア両名を部屋に逃がした後。
俺とラーマン兄さんはアイン兄さんと剣を納め話をしていた。
「家を守るため?」
「ああ。と言っても、ヴォルフフォードが危険な状態にある訳じゃない。この選択が将来的に家に良い方向に働くだろうと思ったんだよ。」
「一体誰から頼まれたのですか?」
「いずれ分かるよ。こうなってしまった以上、彼も死ぬ覚悟だってしているはずだからね。何も罰則がないということはないだろうから。」
「あん?ちょっと待てよ。そいつが罰を受けるってんならお前が言う家に与える良い影響ってのはないんじゃねぇのか?」
「無いというか、無くなったんだけどね。僕が協力するのを条件にヴォルフフォードへの資金繰りとか、その他財源の融通とか収める税の減税化とかね。彼の正体がバレなければそれが活きたんだけど」
「つまり意味がなかったと」
「意味が無くなったと言って欲しいね。」
2人の言い合いを眺めつつアイン兄さんにゴメンと謝っておく。でも俺の方も王家との繋がりができたので許して欲しい。というか、逆に怒ってもいるんだけどな。
ドゴォン!
俺とラーマン兄さんの後ろの壁がぶち破られた。
ルティア様の部屋の壁だ。
一体何事かと振り返ると破られた壁から誰かが飛ばされたのか、向かいの壁に横たわる人影が見える。
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妹の部屋にて、アルレスとキリムは剣を交える。
キリム。勉学、剣術共にアルレスに指導をした男である。一人で鍛錬を積むようになってからも必死に頑張ってきたつもりだ。だが、目の前にいる師との差は昔から埋まっている気がしない。
こちらの攻撃を済ました顔で平然とさばくその姿はあの頃と何も変わらない。大人の余裕を感じさせる。
「くっ...!」
「どうしました?殿下。動きが鈍くなっていますよ。」
既に50代のはず。還暦に近いはずなのだが、その膂力、体力は年齢を感じさせない。
「今度はこちらから攻めさせて頂きます。」
その言葉を皮切りに守り、カウンターに重きを置いた動きから攻めに転ずるキリム。アインやラーマン程のスピードはないにせよ、こちらが防御をしずらい位置を的確に狙ってくる。それも強いパワーで。防御で手一杯だ。攻めることができない。
「しかも...」
早くなっていっている。徐々に次の攻撃までのスパンが短くなっているのだ。
「終わりですか?そんな動きでは守れるものも守れませんよ?」
「くっ...うおおおおお!!!」
無理矢理に振り抜いた剣を完璧な間合いで避けられる。完全に無防備になったアルレスに握りこんだ拳を叩き込む。腹にねじ込まれた拳をモロに受けたアルレスは部屋の壁をぶち抜き廊下に飛び出る。
見くびっていたわけではないが、ここまでとは...
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「がはっ...」
「アルレス殿下!」
血を吐いてぐったりとしている殿下に駆け寄る。
中にも何者かがいたらしいな。失念していた。
「ごきげんよう、シーナ・ヴォルフフォード殿。」
破られた壁から姿を見せたのは、跳ねた髭が絶妙に似合っていない男で俺の中で有名なキリム宰相である。
「なるほど。あなたがアイン兄さんの協力者ですか。」
「察しがよろしいですな。」
「っ!」
土煙が晴れ、彼の全容が見えた時、彼が持つものに気がつく。
「カロン...!」
首根っこをつかみ、静かに佇むキリム宰相。冷たい目でその命を見つめている。
「...ルティア様は?」
「少し眠って貰いました。せめてもの慈悲です。」
死ぬところは見せないでおいてやるって?優しくない優しさだな。
「や、やめろ...!」
「殿下、申し訳ありませんが、これは決定事項です。この国に不易をもたらしかねないものは排除します。」
掴んだカロンを自らの前に持ってくる。左手には短剣を持っている。俺はすぐに短剣を奪いに動いた。カロンはむやみに動かせばそのまま死にかねない。奪えなくてもカロンに当たらないようにすればいい。
大丈夫だ。この距離なら間に合う!
俺の手が短剣に届く直前、うなじあたりに強い衝撃が走った。
気を失う直前に見えたのは右手に持ったカロンを俺にぶつけたのであろうキリム宰相。そしてぐったりとして、息をしなくなったカロンだった。
ああ、ルティア様。すみませんでした。
カロン、守れませんでした...
俺の意識はそこで途切れた。でもすぐに目覚めろよと俺自身に言い聞かせた。
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