19 親の昔話は子供にあまりいい影響を与えない-1
4章19話です!
よろしくお願いいたします!
無機質な声と死人を思わせる表情。ルティア、アルレスが生まれる前よりランブル家に使えている男、キリム。
ガレス王が政治的な物事を彼に丸投げしており、宰相として実質上のランブル王国の心臓である。
「なぜあなたがこんなこと!?」
「アルレス殿下、少々頭に血が上っているようですな。国の安全を担うものとして、不穏分子の早期排除は妥当な判断です。それが分からない頭など持っておりますまい。」
「そんな事は百も承知だ!僕が言っているのは、今あなたがルティアに対して行おうとしたことに対した質問だ!」
キリムの姿を視界に捉えたアルレスは即座に足が動いた。暗闇の中、月明かりに照らされ、怪しく光ったキリムの右手。そこにあったのは短剣だった。それも逆手で持たれたものだった。否が応でも嫌な想像をさせられたアルレスの足は無意識に動いていた。
「何を仰っているのか分かりかねますな。そのような矮小な竜1匹を殺すのに長剣や魔法など必要ないでしょう?」
「いや、あなたのその短剣は明らかにルティアを狙ったものだった。竜を刺し殺すなら順手でもってそのまま刺せばいいだろう。それにルティアはカロンを胸に抱き抱えていた。逆手の短剣ではどうやってもカロンに剣は届かない。そして!僕は今も、あなたの目からルティアへの殺意を感じている!」
「......嘆かわしい。死に体のトカゲに名など必要ありません。この国の未来を支える王子、王女としての自覚を」
「質問に答えろ!キリム!!!」
アルレスの剣幕にキリムは押し黙る。
ルティアはただひたすら困惑していた。なぜ自分はキリムから命を狙われている?兄の発言を否定するでもなく誤魔化した所を見るに嘘や冗談などではないらしい。
分からない。自分の何が彼にそんな行動を起こさせたのか。
その疑問に応えるようにキリムは口を開く。
「ふぅ...。殿下、あなたは母君の顔を覚えておいでですか?」
「?...覚えていない。私とルティアを産んですぐに亡くなったと聞いているが。」
「ええそうです。早すぎた...。美しくも聡明で、王宮いえ、王国の民全てが彼女に憧れていました。そんな王妃が子を身篭られたと知れ渡った日には、それはもう盛大に祝われたものです。...まだ、生まれてもいなかったというのに。」
「それとこれになんの関係が...」
「人の話は最後まで聞くものですよ殿下。そう教育したでしょう。」
キリムの言葉にとりあえず黙って聞くランブル兄妹。キリムの口から紡がれるのは、まだ15の子供たちが聞くにはあまりに衝撃が強い昔話であった。
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それは今から30年も前のこと。その男の子は広い庭を駆け回り、虫を見つけては飛びかかり、おくびも無く川に飛び込みヤブに押し入った。いつもの光景。従者のものたちはやれやれと額を抑え首を振る。
ガレス・ランブルはそんな男児だった。見慣れた王宮内にも、知らない場所がいくつも隠されている。彼は毎日が冒険のように思えて仕方がなかった。
やがて彼は15になり、街へ積極的に出歩くようになった。騎士学園には通わなかった。自分に必要ないと思っていた。だから、その日そこに行ったのはただの気まぐれ。将来自分のために汗水流して動いてくれる者達の顔を見ようと思っただけだった。
彼はそこで運命と出会った。塀の外からでも見える図書館の窓際の席。そこに座って本を読みふけっている少女。結局その少女がそこを離れるまで見ていた。
ガレスは即座に騎士学園への 行くことを決めた。
編入してから少したって、ようやく彼女を見つけた。いつも図書館にいる訳でもなかったようで昼休みの間ずっと図書館で過ごすこと2週間である。
窓際の席に座り本を読んでいた。まるで人形のように白く美しい肌と銀色に輝く髪と瞳。近くで見る彼女は女神と例えても名前負けしない容姿をしていた。
それから彼の猛アプローチが始まった。本を読む彼女にひたすら自分の良さを語った。王宮で噂されているような部分は語らなかった。最初はガン無視された。まるで何も聞こえていないような態度だった。
だが、それを続けて2ヶ月後のこと。
「ねぇ。」
初めて聞く彼女の声は透き通っており、想像よりも綺麗な声をしていた。
「なんでそこまで私に構うの?」
初めて彼女の声を聞けた嬉しさのあまりフリーズしていた意識を取り戻す。
「一目惚れサ!初めて見たあの時から、僕の妻は君しかいないと感じた!」
「......そう。」
そう言いまた本を読み出す彼女。その日は今まで以上にヒートアップし、大雨の日の川の濁流のように話しかけ続けた。
やがて話すネタがなくなってしまい、ガレスは今日あったことなどを話はじめた。あれ以来声は聞かなかったが、彼女が自分の話を聞いてくれていると分かり、何も苦ではなかった。そして、ガレスが学園に来てから1年が経とうと言う頃、彼らの関係に進展があった。
「そこで俺はこう言ったわけ。『おめぇのへなちょこな剣じゃあ俺にかすりキズひとつつけられねぇよ』てな!予言通り俺はそいつを圧倒しちゃったのよ。そしたらそいつ」
パタンと本を閉じた彼女。今までと違う反応に固まるガレス。数秒の沈黙のあと、彼女はガレスの方を向きこう言った。
「そしたらそいつ...なに?」
ガレスはできるだけ自分のいい所を誇張して話した。
彼女はじっとガレスを見つめ、話を聞き続けた。
これが現国王ガレス・ランブルと故王妃マルゼリア・ランブルの馴れ初めである。
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