18 儚いから守る
4章18話です!
よろしくお願いいたします!
作戦A:見張りを気絶させチャチャッとルティア様を部屋に入れて終わり。
う〜ん、実にシンプル。シンプルイズベスト!
しかしまぁ、世の中そう上手くいかないことの方が多いわけでありまして。
作戦B:あくまでもA失敗、またはAの完了が困難な場合の予備作戦。障害をシーナ、ラーマン両名で全力で止め、ルティア様を部屋に逃がす。予期せぬ障害が短時間で対処可能なようならそのまま対処し、ルティア様の護衛を継続。
距離100メートルもない廊下に警護とかいる?と思うが、ルティア様が守れと言うんだから仕方ない。まぁこっちはもう無理だと判断したのであまり関係ない。アイン・ヴォルフフォード。現状すら手を抜いていると考えられる強敵。当然短時間での決着など不可能。
ここはルティア様1人で部屋まで避難してもらうしかない。いや、今は1人じゃなかったっけ。
「アルレス殿下。」
「な、なんだ?」
「ルティア様とカロンを連れてルティア様の部屋まで行ってください。アイン兄さんは私とラーマン兄さんで止めます。」
「大丈夫なのか...?」
「何がです?」
「か、勝てるのか…?」
「...初めから勝とうだなど思っておりませんよ。王女様が逃げるまで、もつか、もたないか。それだけです。」
「...無理はするなよ!」
アルレス殿下カロンを抱き、ルティア様と共に走り出す。ルティア様の部屋はアイン兄さんの後方80メートル付近。そこまでアイン兄さんから2人を守り通す。
アイン兄さんは待ってましたと言わんばかりに2人の前に立ち塞がる。俺とラーマン兄さんはそれぞれ2人の前後に陣取り、アイン兄さんからの邪魔を邪魔する。軽い魔法や当身、剣の胴で足を狙う攻撃を切り払いや魔法で相殺。
まるで複数人を相手どっているのではないかと錯覚させられる程の猛攻をしのぎ、ようやくルティア様の部屋の前に到着した。
「2人とも早く中へ!」
俺は後方に踵を返し、ラーマン兄さんと2人で再びアイン兄さんと接敵した。
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本当に同じ人間なのかと思う。たった2歳離れた男があれほどの力を持っているのが不思議でならない。そんな彼の猛追を妹の友達の力を借りて逃げ切った。一先ずの安堵に息をもらす。妹も安心したようで壁に寄りかかりへたり込んでいた。
アルレスは視線を自分の胸に落とす。
瀕死のワイバーン。妹が2年前に見つけた2匹の片方だろう。この竜はあの時と少しも変わっていないように見える。ずっと瀕死の状態だ。妹はこの竜を助けるためにずっと部屋にいたのだろう。竜は万人に受け入れられない生き物だと知っていたから、誰も部屋に入れず、ただこの命を生かすことだけを考えていた。
この言葉が合っているのか分からないが、立派だと思った。もちろん、世間的には批判しかされないような行動なのだろう。でも、よく分からない2つの儚い命のために家族とも合わず、2年も頑張っていた。
もう2人とも15、アルレスはそろそろ16になる。兄はようやく、妹の内面を少し知れたのかもしれないと、こんな状況だが嬉しく思っていた。
「....っと。ルティア、早くその竜を———」
「カロン。」
「え?」
「カロン。この子の名前。」
「....その、カロン...とやらを早くどうにかしてやらないと。死んでしまうぞ。」
「ん。」
ルティアは頷き、勝手知ったる部屋を月明かりだけで歩いていく。窓に打ち付けられていた板は外されている。
生命維持装置にたどり着き、電源を入れる。暗がりに目が慣れてきたアルレスは装置を見つめた。今更だが、自分の妹ながら天才なのかもしれないと驚く。使われているのは鉄や、ガラス。そしてどう光っているのかも分からない鉄の箱の小窓のようなもの。ルティアはなれた手つきでその箱をいじっている。
アルレスはふと視界の右側に何かが見えた気がしてそこを注視する。それが何か分かったアルレスは妹の元に即座に駆け寄った。
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「何者だ!!」
兄の声に咄嗟に反応し、振り返る。首を回している時にそれを見つけた。何者かが、自分の隣にいた。それは右手を伸ばし、自分、いやカロンを掴もうとしてきた。突然のことに反応出来ないでいると、兄が割って入り、その手を払い除けた。兄は剣を抜く構えをとり、何者かを睨む。
「姿を見せろ!」
その兄の声に反応するようにガラス筒の液体が淡くピンク色に光り出す。
目の前にいたのは自分もよく知る人物だった。
「キリム宰相......!?」
「お久しぶりです、ルティア様。壮健そうで何より。」
跳ねた髭が似合わない無表情な表情、無機質な声。
ルティアは昔からこの男が苦手であった。
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