16 兄は辛いよ-4
4章16話です!
よろしくお願いいたします!
先程から完全におかしな音が王宮に響いている。発生源を探すがなかなか見つからない。こういう時無駄に広いここがあまり好きになれないと思う。
ガシャァァン!とガラスが派手に割れる音が聞こえ、その後ドゴンだのガキンだの普段ここで聞くことがない戦闘音が鳴り始めた。たまたま廊下を歩いていたアルレス・ランブルはすぐさま駆け出した。部屋の遮音性は非常に高いが廊下や中庭などでは割と音が筒抜けになるようにできている。一体なぜそんな作りにしたのかと父に聞いたことがあった。
「侵入者とか来た時ちょっとの物音でも近くの警備が気づけるように」
と言っていた。なら部屋の遮音性だけ高いのは何故かと聴いた。
「それはほら、周りに聞こえたらまずい音とか立てるかもじゃん?」
と言っていた。うちの親はそんなところばっかりである。さすがにないと思うが、妹が居なくなったこの状況でそんな情事に至っていたら叩き回す。
「ハァ...ハァ...ルティア、一体何処に...!」
ルティア・ランブル。同い年、双子の妹だ。自分は父に似たがルティアは母似に似た容姿だった。昔から二人一緒に育ってきた。物静かでマイペース、でもとても優しい妹を自分は心の底から愛していた。
2年前、彼女が日課の散歩に出かけると言って王宮の外へ行った。これが初めてと言うわけではなかったが、兄としては心配になる。仮にも王族がお付きの人間1人もつけずに外に行くのは誰でも心配するだろう。小さな時から散歩に誰かが着いてくるのを嫌った妹のあとをこっそりつけていた兄である。なるべく顔を隠した格好で王族の女性をつける姿は変質者のそれだ。
その日もいつものようにあとをつけていると、
ディムステル森林へと足を踏み入れた。かなり焦ったものだ。そこは王都の住人から自サツのスポットとして有名だったためだ。
そこまで何かを思い詰めていたのか、なぜ自分に話してくれなかったのかと思い急いで追いかけた。
森に入った直後から背丈程もある雑草が鬱蒼としていた。だが人が通ったあとはすぐには消えない。ルティアのあとは簡単に追えた。
その姿を見つけた時、彼女は小さな竜を撫でていた。瀕死だった。死にかけのその命を慈しみ、今にも消えそうな命に悲しみを浮かべて。小一時間それを眺めて、心配はいらないだろうと王宮に戻った。そしてあとから帰ってきたルティアは部屋に籠りっきりになった。
何故なのかと考えても答えが出なかった。でも、優しいあの子のことだ。きっとあの時の竜たちを救うべく尽力していたのだろう。シーナ・ヴォルフフォードと共に街で妙な生物を探していたというのを聞いてようやく思いいたった。情けない話だ。2年たってやっと妹の真意に気づけた。それも他人の協力あって。
顔を見れたら、まず謝ろうと思った。部屋に籠り何かをする妹に声をかけることもしなくなった。
ずっと1人にさせてしまった。
兄として恥じる気持ちと悔いる気持ちでいっぱいだ。妹との時間を2年も無駄にしてしまったのだ。これからその時間を取り戻さなければならない。
少しでも早く会うためにアルレス・ランブルは王宮の廊下を駆ける。
戦闘音が大きくなる。近づいている。脚の動きも無意識に早くなる。ルティアの部屋がある廊下の角を曲がり見つけた。妹と1匹に竜を後ろにお客様が兄弟喧嘩の最中だった。
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話は遡って少し前。
俺とラーマン兄さんも剣を抜き、構える。
「やれやれ。こういう時、1人になってしまうのは長男の辛いところだね。」
俺たちは同時にアイン兄さんへと向かい跳ぶ。
同時に振り下ろした2本の剣をアイン兄さんは軽く対処する。
ラーマン兄さんの剣は手のひらでいなし、俺の剣はアイン兄さんの剣に受け止められた。
「まだまだ甘いよ。」
俺を弾き飛ばし、ラーマン兄さんの剣を掴み振り回し、壁や床にぶつけまくる。ラーマン兄さんが魔法を放とうとしてようやく投げ飛ばした。放たれた魔法を即発動した魔法で相殺する。
「マジですか...」
あの人今指の力だけで剣を掴んでたろ。どんな握力してるんだ全く。
再び俺たちは飛びかかる。今度は変速的な動きで同時攻撃だ。俺がまず攻撃し、退いたすぐ後にラーマン兄さんが攻撃。そして退いた俺はラーマン兄さんとアイン兄さんが対峙してるうちに後ろへ回り込み切りかかる。左手で炎の球を作り爆発させ俺の剣が弾き返される。
今後ろ向いてたか?なんで俺が来るタイミングがわかるんだよ...
ならばと今度は魔法を放つ。放たれた火球は一直線に飛んでいく。
ラーマン兄さんは俺の魔法が当たる直前に飛び退き正面から魔法を放つ。
ふたつの紅き火球は同時にアイン兄さんにあたり、はじける。あたりは黒焦げとなり壁はひび割れ床の絨毯が少しづつ燃える。
炎が引き、アイン兄さんが姿を現した。
多少煤けてはいるが、大したダメージは入っていないな。バケモンかよ。
「終わりかい?」
口角を上げ、鋭い目つきの兄さんが余裕の声で俺たちに問いかける。今までよりも厳しい戦いの予感が俺の身体を無意識に震わせる。
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