15 兄は辛いよ-3
4章15話です!
よろしくお願いいたします!
「全く、ルティア様は一体、どこに行ってしまわれたんだか…」
「ああ。おかげで今日は皆遅くまで見回りだ。」
「勘弁して欲しいな。最近は早めに帰りたいってのに。」
「なにかあるのかい?」
「実は...嫁が身篭ってな?」
「本当か!そりゃめでたいな。」
「ああ、ありがとう。でだ、やっぱり1人にさせるのはちょっと心配になるじゃないか。うちのはちょいとドジなところもあるしな。」
「へぇ〜。まぁなんにせよ、家に嫁さんがいる新婚ってのは早く帰りたくなるもんなのかねぇ。」
「さて、どうでしょうね?私の同期は家に帰ると鬼が待っているといつも嘆いていらっしゃってましたよ?」
「ハッハッハッ!鬼と来たか!そりゃ面白い。お前の嫁さんもいつかそうなるんじゃないか?」
「勘弁して欲しいな、それは...」
「あんたのところはどうなんだ?鬼が待ってたりするのkaッ!!!」
「お、おいどうし...グッ!!!」
ドサドサと倒れる兵士の男二人を見下ろし一言。
「独身だったよバカヤローが。」
廊下の窓から中を見渡し、見回りの兵士が二人だけなのを確認してそっと窓を開け中へ。閉まっていたのかって?閉まっていたさ。
ピッキングしたのさ!この技術は日本ではなく、この世界で学んだものだ。ヴォルフフォード家の図書室にて、様々な本を読みふけっていた時、たまたま発見した『サルでも分かる!スパイ技術入門書』なる本を読んだ結果である。なぜそんな本が置いてあんのかと問うのは野暮というものだよ。
まぁなんにせよ、子供、学生の時に学んだことは損にはならないと言うことだ。
ドドドドドドという効果音が聞こえてきそうなポーズをキメているとルティア様とカロンを連れラーマン兄さんが侵入する。
「何してんだお前?」
「お気になさらず。ちょっとスタンド出す練習してただけですので。」
「何言ってんのお前?」
それはさておき、倒れた兵士をどうするか。ルティア様の部屋に押し込む訳にもいかないし。別の部屋に入れて置くか?それしかないかなぁ...ちょっと面倒だけど倒れてる兵士を見られるよりかは良いだろう。
俺とラーマン兄さんがそれぞれの兵士を担ぎ上げようと倒れた兵士に近づく。
「2人とも、下がって!」
ルティア様の声に俺たちが咄嗟に飛び退くと、真横の窓がガシャァァン!と盛大に割られ何者かが入ってきた。
「やぁ、2人とも。こんな所で会うなんて奇遇だね。」
その人物は澄ました笑顔で俺たちに言う。
「チッ...1番敵に回したくねぇのが来たな。」
「まさかあなた来るとは思いませんでしたわ。」
「「アイン(兄さん)!」」
腰に携えた細身の剣を抜き放ち、アイン兄さんは俺たちと対峙する。なぜアイン兄さんがここにいるのか。そんな疑問はこの状況に比べれば些細な問題である。アイン・ヴォルフフォード。歴代ヴォルフフォード家の人間でも特に秀でた頭脳を持ち、魔法、剣技ともに優れる。ヴォルフフォードいや、この世界に置いても最強格と知られる男だ。そんな人が敵に回ってしまっているこの状況。はっきり言ってかなりまずい。
「お久しぶりです。アイン様。」
「ええ、お久しぶりですね、ルティア王女。こんな形での再開になって申し訳ない。」
唐突に始まる2人の挨拶。このふたりは会ったことが会ったのか。一体なぜ...
「2人は知らなかったね。実は僕も2年前に王宮に呼び出されたことがあったんだよ。その年の大会でちょっと良い成績を残してね。ガレス王に呼ばれてここに来た時に話したのさ。」
「初耳ですわ。」
「まぁ手紙とかも送ってなかったからね。大変だったよ?僕と彼女の婚約を勧めようとしてきてね。あんな王様だから辞めさせるのは早かったけどね。」
このふたりそんな関係だったのか。全く連絡をしないから知らないのは必然だ。全く手紙も何もよこさない悪癖の影響が出ているな。
「さて、じゃあお喋りもここまでにして、そろそろ本題に入ろうか。」
少し声のトーンが落ちたアイン兄さんがカロンを見る。
「その竜をこちらに渡してくれるかな?」
「カロンを渡したとして、どうするのですか?」
「さぁね。ソレの回収が僕の目的だからそれ以上は知らないね。」
カロンの回収が目的か。あの言い方からして協力者というか、カロンの回収をアイン兄さんに頼んだ誰かがいるということだ。兄さんが引き受けるぐらいだ。顔は割れてる人間。おそらく王宮にいる誰かだろう。
正直誰にさらわれてもロクな目に合わないだろうな。
なら、たとえアイン兄さんであろうとも、カロンを渡す訳にはいかない。
俺とラーマン兄さんはルティア様とカロンを守るようにアイン兄さんの前に立ちはだかる。
「あくまでも抵抗するってことかな?」
「ええ。」
俺は右手の人差し指をアイン兄さんに突きつけ、一言言う。
「ダメだね。」
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