12 探し物は変なもの
4章12話です!
よろしくお願いいたします!
街の住人がザワつき、彼女たちの行く路の邪魔にならないよう端にはける。当然と言えば当然である。ひとりはこの国の王女。そしてその王女を不敬にも引き連れて歩く命知らずの貴族の少女。どう考えても只者ではない。
「流石王女、2年は引きこもってただろうに随分民に顔が知られてるな...」
「何か言った?」
「いえ何も?さぁ、聞き込みを始めますよ。妙な生物、キツい臭い、この辺りをあたってみましょう。」
2人の少女は会う人会う人に聞き込みをしていく。何故か赤い服の少女に王女がついて行く。聞き込みをしているのも赤い服の少女だけである。王女は少女の後ろに隠れて話を聞いているばかりだ。
「それにしてもなんで王女様がこんなところにいるんだ?」
「さぁねぇ...なんだか変な生物見なかったかとか、めちゃくちゃ臭いところはなかったかとか聞いて回ってるらしいよ?」
「なんだってそんなもん...」
「知らないよ...!しっかし、貴族様にもあんな変な人がいるんだねぇ。」
「聞こえるぞ...」
「聞こえてますわよ」
「「え゛」」
つかつかと歩み寄ってくる金髪の少女。その圧はおよそ15の少女ではない。彼らの上司と同じようなものを感じる。彼らが動けないでいると目の前で立ち止まり見上げてくる。
「な、何かな?お嬢さん...」
「......まぁいいでしょう。あなたたちは、まぁ知らないでしょうけど一応聞いておきましょう。この辺りで、妙な生物、あるいはキツい臭い、具体的には腐乱死体等に近いような臭いに覚えは?」
「な、無いよ...というか腐乱死体ってそうそう見るものでもないだろう!」
「逆に1度でもその臭いを知れば一生忘れることはありませんわ。」
「考えたくもない...」
「うぅん...それらしい情報はなかなか見つかりませんね…まぁ当然と言えば当然ですけれど。」
「本当に...これで、見つかる?」
不安げな王女。どうやら王女の方の捜し物らしい。それを金髪の少女が手伝っているようだ。
「手がかりがない以上、それを自ら見つけ出すしかありませんから。でも急がないと...カロンがもたないかも。」
「あ、あの...!」
不意に男たちの後ろから王女たちに声がかかる。
全員が振り向いた先にいたのは、ランブル騎士学園の制服を着た少し地味目の、しかし可愛らしい女子生徒だ。茶髪を2つの三つ編みにしているメガネの後ろに綺麗な空色の瞳が自信なさげに光っている。
「あなたは...確かマイナさん、でしたよね?」
「は、はい、シーナさん。」
マイナ・スーネリカ。ランブル騎士学園魔術科1年在籍、つまりシーナの同級生。クラスメイトである。入学早々セルカによって陰で嫌がらせを受けていた彼女はシーナのおかげでセルカが大人しくなり、密かに感謝していた。いつかお礼を言おうと思っていた矢先、思い当たる節があるものを探しているシーナを見つけ声をかけたのだ。
「マイナさん、もしかして心当たりが?」
「は、はい。」
「どこで?」
「えっと、学園です。大闘技場の南の森の道を歩いていた時、すっごく変な臭いがして...ちょっと気になって臭いが強い方に行ったら...森の中に血があって、それが奥に続いてたんです!」
「なるほど...それからどうされました?」
「なんだか怖くて一度はその場から離れたんですけど、やっぱり気になって戻ってみたら、ラーマン先輩がその血を追って森に...」
それを聞いたシーナは少し顔をしかめた。そしてすぐさま振り向き、学園に向かって走り出す。
「急ぎましょう、ルティア様。でないと最悪カロンが死にます。あ、ありがとうございます、マイナさん!今度お茶でもご一緒しましょうね!」
「あ、はっはい!お気をつけて!」
街の住人には分からない何かで繋がった少女たちはそれぞれの方向に進んで行った。取り残されたものたちは一体なんだったのかと首を傾げるばかりしかなかった。
一国の王女を背中に、俺は街を駆け抜ける。ラーマン兄さんがあとを追ったのならカロンの可能性が高い。最悪即切りかねない。というかその可能性の方が高いだろう。マイナさんの言っていた場所にあっという間に到着した俺はすぐさま異臭を感じた。間違いなくあの臭いだ。それが強い方へ進む。森に入った。段々と強くなる臭いを頼りに突き進むと、手入れもされていないのか鬱蒼とした雰囲気になってきた。
「......っ!シーナ、あれ!」
ルティア様が指を指した場所。そこにはマイナさんが言った通りの血の道があった。カロンが這いながら進んだあとなのだろう。それは不思議なほど真っ直ぐに伸びている。ということは...
「これを辿れば...」
カロンにたどり着くはず!俺は進む足を早め、その跡を追った。しかし、その後は途中で途切れていた。カロンの死骸はない。突然飛べるようになったとも思えない。ということは誰かが連れ去った?いや、誰かじゃない。まず間違いなくラーマン兄さんだ。では今度は一体どこに行ったか。戻ったというのは考えにくい。森の中でも、街の中でも、それらしい人影は見なかったし、街に出ようもんならもうちょっとぐらい噂になっていてもおかしくない。そしてこの森をなんの頼りもなしに進んで行った訳でもないだろう。つまり...
「この先に...」
マイナさんと会った場所から学園まではそう遠くない。それに全力で駆けて来たんだ。そこまで遠くには行っていないはず。血の路から真っ直ぐに、森の中を駆け抜けた俺は、学園敷地内の丘でようやくそれらしい背中をこの眼に捉えた。
「兄さん!」
振り向いた兄さんの腕の中、そこには今にも息絶えそうな命が、しかしその眼はただ一点を見つめて光を帯びていた。
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