8 お隣さんにお忍び旅行-2
8話です!よろしくお願いします!
俺と男は静かに相対する。
チッと舌打ちしすぐさま剣を構え向かってくる男。
やせ細った不健康そうな身体にしては結構早い。
振り下ろされた剣を体を左に逸らして避け、切る気のない剣で腹に一撃入れる。
「ぐっ」
怯み、剣を落とす男はすぐに持ち直し大きな手で俺の頭をつかもうとする。
それを体勢を低くして避けそのまま足を払い転んだ男の頭を蹴っ飛ばす。
数メートル転がった男のもとへ向かい体を起こした男に剣先を突きつけ見下ろし勝負の決着を伝える。
男はゆっくり両手を上げ悔しそうに言った。
「...っ、俺の負けだ......降参する。だから命だけは助けてくれ...」
何かを悔やむ声だがやはりどこか落ち着きがある。
「あなた、やはりただの盗賊ではなさそうですね。何者です?」
「......」
「護衛を殺した後も馬車を漁ろうとする素振りすら見せなかった。狙いはなんです?」
「......狙いは、アンタだ。」
「私?何故?」
「シーナ・ヴォルフフォード...あんただろ?」
たまたま通りかかった馬車を狙った訳ではなく、俺を狙ったか。
「少しお話を聞かせて貰いましょうか。カリーナ。」
「はい。」
馬車の中です待機していたカリーナを呼ぶ。
「縄かなにかあったかしら?」
「ございますよ。」
「そう...」
再度男に意識を向ける。
「じゃあ悪いけど、拘束させて貰うわね。」
「好きにしな。どうせ抵抗も無駄だろうからな。」
男たち3人の手足を縄で縛り話を聞く。
「それで?何故私のことを知っているのですか?何故ここに来ると分かったのですか?というかまずあなた達はどこのどなたですか?」
「...いっこずつ話す。まず、俺たちは盗賊じゃあない。」
「では?」
「俺たちは、セルゲイに金で雇われたもんだ。」
傭兵みたいなものか。それよりセルゲイだと?
相手方に俺たちがゴルドリッチ領に向かうことがバレていたのか。
「俺たちは、ある日にセルゲイに招集をかけられて、今日隣領の娘がここを通るから、さらって来いって指示をもらったんだ。」
「全てセルゲイから?」
「ああ。」
やっぱりバレてるな。しかし、いつどこから?
いや、どこからかはだいたい絞れる。
そもそも何故俺がゴルドリッチ領に向かっているのかという話だが、話は非常に単純だ。
俺が行きたいとごねたのである。
兄さんとの約束を守るため、争いが起きた際の対策を万全にしておきたかった俺はゴルドリッチ領の調査を自ら名乗り出たのだ。
当然家族、屋敷の従者には反対されたがゴネにゴネて押し切った。
だが、その際、屋敷の外には情報を漏らさないように規制がされていたはず。
メイドはカリーナが、兵士は兵士長が、
その前に父さんから直々に屋敷の者に伝えていた。
つまり、この情報をリークしたのは屋敷の者の誰か。
まぁ、しかしこれで2つ情報を得られた。
セルゲイがヴォルフフォード領を手に入れようとしていることはおそらく本当だということ。
そしてもうひとつはヴォルフフォードに裏切り者、あるいはスパイが紛れ込んでいること。
「ではもうひとつお伺いします。金で雇われた傭兵ということですが、それにしては装備が些か貧相なように思います。それにあなたを蹴っ飛ばした時に感じたのですが随分お痩せになられているようで。」
蹴っ飛ばした際の重みが思った程じゃなかった。
ていうかそう思うと、この男の顔、少し頬骨が痩けている。金持ちから雇われたヤツにしてはおかしい点が多々ある。
「それにあなたたちの顔はただの盗賊のそれではありませんでした。悲壮な覚悟を持ったような、そんな顔をしておいででしたよ。」
「金で雇われたっつったが、それは正確じゃねぇ。」
「どういう意味です?」
「正確に言えば、金で脅されたっていうのが正しい。」
「脅された?」
やらなきゃお金あげないぞってことか?
いやさすがにそれでここまでの覚悟はキメないか。
俺が頭に疑問符を浮かべていると、男は説明を続けた。
「俺たちは金を求めてあいつの指示に従っているが、それは本意じゃない。必要だから仕方なく従っているだけだ。」
「...あなた達はいったいなんのためにセルゲイに従っているんですか。」
「俺は...母のためだ。」
「母?」
「3年前になる。母は突然病にふせた。」
男は刻々と語り出した。
「気丈に振舞ってはいたが、日に日に弱っていき、1年前についに立てなくなっちまった。そんな時、あの男は現れた。自分の手足として動いてくれるなら自分の金を支援しようと。」
なるほど。大体分かった。
「そういう事ですか。しかし、ゴルドリッチ領はランブル王国の中でも上の資金力を持っていたはず。」
当然、領民全てが裕福というわけじゃないだろう。
だが、周りに頼れる人が居ないと言うのはどうも納得いかない。
「ハッ、まぁ外の領の奴らは知らねぇだろうな!」
男の声色が変わる。
「あの男はな!自分の領地の民が100人200人死のうがどうでもいいんだ!ただテメェが裕福ならそれでいい!テメェが楽しけりゃ喜んで女子供まで捨てるゴミなんだよ!!」
ここにいないセルゲイに吐き捨てるように怒号をあげる男は俯き震えだし、黙ってしまった。
「あなた達も?」
俺は後ろで気まずそうにしていた2人の男に問いかける。
「ああ、俺は祖母と祖父がな。」
「自分は妻と、妻のお腹の子供が...もっとお金が無いと薬や医者の手配が頼めないんです。」
「1年セルゲイに従って、お金はどれほどに?」
俺は俯き震える男を見てもう一度質問をする。
帰ってきた答えは想像通りと言うか、悪い意味で予想通りだな。正直言葉が出ない。
「今までと何も変わらねぇ...。直談判しても生活の支援はしてるだろの一点張りで話にならねぇ...。」
カリーナが言った言葉が頭をよぎる。
欲の塊か......。
無意識に手に力が入り心がザワつく。
今知った俺がこれ程腹が立っているのだ。
本人たちからしてみれば腸が煮えくり返る以上の思いだろう。
「「......」」
しばらく沈黙が続く。
「あなた達。」
俺は、黙っている3人に提案する。
「もううちに来なさい。」
「あ?」
「あなた達全員ヴォルフフォードに来なさい。」
「けど、家族もいる...。置いてく訳にはいかねぇ。」
「そうですわね。ですから共に行きますよ。」
「はぁ...?」
「金で動くならいくらでもお支払いしましょう。私に雇われなさい。あなたたちの家族も友人も知り合いも、まとめて私が救って差し上げます。」
「っ!いいのか?俺たちはまだ敵側の人間だぞ?信用できるのかよ?」
「あなた達が話したことが本当だろうと嘘だろうと、金で動く人間であることに変わりはありません。」
家族のためなら動かざるおえないだろう。
ただの雇われ傭兵でもこちらがより多く金を積めば当然動くはずだ。
「ほらっ!迷っていないでとっとと決めなさい!セルゲイに使い潰されるか、私についてくるか。」
「...分かった。あんたについて行く!俺たちの命を、家族の命を!救ってくれ!」
彼らの頼みに自信に満ちた笑顔で応える。
これで戦争になってもヴォルフフォードの戦力が増える。戦争にならなくても少なくとも彼らと彼らの家族は救われる。どちらにしても彼らだけは救えるだろう。
見て見ぬふりができないだけの俺のわがままかエゴかもしれないが、それでもここで彼らに会い、少しの間でも救われたなら、それだけで俺がここに来た意味はあったと思いたい。
読んで頂きありがとうございます!
非常に眠いけど書いてます!
楽しい!でも義務感で書かないように休憩はします!