8 竜の住処
4章8話です!
よろしくお願いいたします!
「ふむ...」
紅茶を片手に机の上に大量にばらまかれた資料を読むアイン。そこにいつもの鍛錬を終えたラーマンが入ってくる。
「おい、ミリアが呼んでんぞ。」
「ああ、今行く...」
「......」
「.......」
「ホントに来る気あんのか?」
「あ...いや、すまない。ちょっと興味深いことが書かれていてね。」
「んだよそれ。」
「覚えているか、と言っても忘れられないだろうけど、学園総合大会の時に出た竜、分かるだろ?」
「あいつか...」
「アレの死体を回収した機関からの調査結果が届いたんだ。」
「なんで兄貴のとこに?」
「そうしてくれって頼んどいたんだよ。でだ、この調査機関の資料によると、あの竜、実は相当若い個体らしいんだよ。」
「若いって...どれくらいだ?」
「だいたい2才ってところらしいね。」
「...なんかおかしいのか?」
「竜って言うのは晩成型の成長をする。つまるところ、人々が恐れるような個体になるまで結構時間がかかるんだ。」
「何年くらいだ?」
「......50年で戦えるようになればそいつは早熟、いやそれ以上の成長スピードだと言えるみたいだ。」
「は...?じ、じゃあアイツは一体...」
「それが分からないらしい。たった2才の個体が、古龍に匹敵するほどの巨体、それに、体が朽ち果てかけていた理由...」
「ゾンビ化も理由分かってねぇのか。」
「ああ。闇魔法の影響かと思ったけど、どうもそういう訳じゃないらしい。鱗や骨なんかを見てみても、闇魔法の影響で朽ち果てた...なんて症状は見当たらなかったってさ。どれも自然にああなったっていうのが彼らの見解だ。」
「あんだけ腐るのにもそれなりに時間がいるだろ...アイツは本当にワイバーンだったのか...?」
「全くだね。なにか知りたいから頼んでいるのに、これじゃあもっと分からなくなっt」
「お二人共!!いつまで話してるんですか!!!ご飯冷めちゃうでしょ!!!」
「「...ごめんなさい...」」
その日の夕食はいつもより辛かった。
━━━━━━━━━━━━━━━
ガラスの奥から、ジッとこちらを見つめる竜。
幼体なのか小柄で、鱗も所々薄い。が、それ以前に皮膚が欠けているし、骨もチラホラ見え隠れしている。
確か、兄さんやカノンが戦ったっていうワイバーンもそんな特徴だったハズ。
「シーナ?どうしたの?」
固まっている俺を不思議に思ったか、ルティア様が首を傾げる。俺の心情を悟られてはいけない。何とかやり過ごさなければ…
「い、いぃえぇ!︎ べべ別に何もありませんよォ?!」
「そう...カロンの可愛さに、見惚れてたのかと、思ったけど。」
「見惚れていたといいますか...まさかワイバーンがいるとは思わず...」
「そう...珍しい?」
「は、はい...いてもかなり大きな個体しか見ませんし、そもそも目撃例も稀ですから。...あの、ずっと見てくるですけどっ!その子!」
ホントに会ってから1回も目線を外してない...完全に狙ってる、狙われている。
「うん、カロンも、初めてのお客さんだから、ちょっと気になってる。でも大丈夫。なれたら、可愛い。こうやって、顎下辺りに、手を持っていくと...」
ガゴンッ!!
「ひぃぃっ!」
ルティア様の手が近づいた途端、俺から目を離し、その手に向かって牙をたてる。ガラスの筒はキズひとつできていないが、怖いもんは怖い。真横に立って平然としているルティア様は、小さく微笑み、さらに手を近づける。
「ほらね?撫でてって、わがまま言ってくるの。」
チガウ。それは絶対に違う。
「シーナも、やってみて。」
「ゑ...」
「カロンも、シーナの、お友達。だから、大丈夫.........噛まない。」
不安しかない。だが、ここで断ればせっかく直接お話するまでになれたルティアからの心が、また離れてしまうかもしれない。俺は意を決してカロンと呼ばれる
竜に近寄り、そっと手をガラスに近づける。
「グルルルルル....ガァッ!」
ゴンッ!!
「うやぁぁあ!?!?」
案の定噛み付いてきた竜。腰が抜けた俺はその場にへなへなと座り込む。その様子を見て、ルティアからはふふっと微笑んだ。
「まだ...早かった...ね?」
「さ、流石に、今のは...驚きました...」
「うん。カロンと、仲良くなるには、もう少し、時間が、いるかも。」
愛おしそうにガラス越しに竜を撫でると、少し悲しそうな表情をするルティア様。
「本当は、あと1人、いたんだけど...知らない、うちに、どこか、行っちゃった、から...」
「この子と同じ...竜ですか?」
「...うん。もう少し、大きかった、けどね。私が疲れて、寝ちゃってた時に、居なくなってたの。」
「......」
「だからこの子は、ずっと一緒に、いたい。離れたくないの。」
だからこの人は外に出たがらないのか。目を話した隙に居なくなってしまうのではないかと考えているようだ。カロンとやらは生きてはいるが、ルティア様によって生かされているというのが正しい。
その後ルティア様から聞いた話では、生命維持のために、寝る間も惜しんで研究を続けているらしい。たびたび聞こえた爆裂音はガラス筒の中の液の調合の際に失敗してなっている音だとか。
あのピンク色の液体は何度も調整をかさねており、日に日に進化しているようだ。調整がなくても、カロンが生きていけるように。
騎士として、彼女の行いを全肯定することは出来ない。だが、友達として、その想いを無下にもしたくない。
......とりあえず、このことは黙っておこう。
何とか、彼女とカロンがこのまま一緒に、安全に暮らしていけるような方法を考えなくては...
読んで頂きありがとうございます!
感想、評価、ぜひぜひよろしくお願いします!
次回更新予定日は土曜日です!