1 手紙
4章スタートです!
1話よろしくお願いいたします!
ランブル王国ヴォルフフォード領。
セミの鳴き声が響く穏やかな日中の中、一人黙々と書類にハンコを押している男が一人。彼はヴァリス・ヴォルフフォード。この領地をおさめている領主である。
ふぅ、と息をつき椅子の背もたれに体を預ける。
娘が王都へ行ってからもう3ヶ月になる。2回ほど手紙が届いたことがあるが、少々物騒な内容が書かれていることもあり心配になる。兄2人もいるから大丈夫だと、そう自分に言い聞かせている。
たった3年。そう思っていたが、愛する子供たちが居ない時間は想像以上に長く苦痛であった。
目を閉じ子供たちの顔を思い浮かべていると、窓の方からカタカタと物音が聞こえた。
目をやるとそこには真っ白な鳩が止まっている。足には紙が結び付けられていた。伝書鳩だ。
手紙をとると鳩は肩に飛び移ってきた。1撫でして手紙をよむ。
『拝啓 お父様、お母様、お元気でしょうか。シーナは元気です。』
娘からの手紙だった。すぐに妻を呼ぶ。
「シーラ!シーナから手紙が来たぞぉ!!」
すぐに廊下からドタバタと物音がなったかと思うとバンッと激しく扉が開かれる。上側の蝶番が壊れた。
鋭い目つきで息を切らして顔を見せたのはシーラ・ヴォルフフォード。ヴァリスの妻である。
娘からの手紙と聞いて一目散に駆けつけたシーラは夫がもつ手紙を奪い取るように持つ。
後ろから手紙を覗き込むヴァリスとともに手紙の文を読んでいく。
『春の陽気もすっかり熱をおび、そばの平原の新緑も段々と深みを増してきました。体調を崩されていないか心配です。
さて、この1ヶ月も色々なことがありました。
友人が誘拐されたり、魔王を名乗るものが現れたり。しかし悪いことばかりではありません。この1ヶ月で友人がとても増えたと思います。毎日誰かとお話して、一緒に下校して、学生生活を謳歌できています。大きな怪我もありませんし、交友関係も心配いりません。ご安心を。
あっ、ナイーダは無事にそちらに着きましたか?ラーマン兄さんと離れ離れになって毎夜泣いたりしてませんか?彼女の心のケアも良ければしてあげて下さいね。
最後になりますが......ほんとに最後になるかもしれないので、ご報告しておきます。
私、シーナ・ヴォルフフォードは王宮より召集がかかりました。では。
敬具』
「え、ちょちょっと!王宮に召集がかかったって....ええ?!」
ヴァリスは最後の最後で気が気じゃなくなった。
シーラは上を向いて何か白い半透明のフワフワした物体を吐き続けている。
1ヶ月に一度の娘からの手紙に父と母は困惑を隠しきれないのだった。
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ランブル王国王都、ヴォルフフォード別邸。
椅子に座り、本を読みながら紅茶をすする男が1人。
彼はアイン・ヴォルフフォード。シーナの兄であり、ヴォルフフォード家長男である。
早朝、学園へ向かう準備を終え、優雅にティータイムを楽しみながらお気に入りの本を読む。彼の朝のルーティンである。ページをめくり、ティーカップを手に取って次の1口を飲もうとする。
バンッと広間の扉が開く。アインは紅茶を吹き出し、顔はビショビショに、本は見るも無惨な姿になった。
「......やぁ父さん、母さん。遅かったね。」
慌ただしく入ってきた両親を優雅に迎え入れる。
「ナイーダ、君も来たんだね。」
両親の後ろから姿を現したのは大荷物を抱えた
ナイーダ・レドルカ。少し前まで別邸に居たが、今はヴォルフフォード領に戻り、ヴァリス、シーラのサポートをしている。
「お久しぶり、でもありませんね。まさかこんなに早く戻ってくるとは思ってませんでした。」
「まったくだね。まぁ、君が来て不快に思う人はいないだろうからゆっくりしていくといいよ。」
「ありがとうございます。...えっと、」
「ラーマンかい?あいつは日課のランニングに行ったよ。30分前に出たから、直に帰ってくる。」
「そ、そうですか...///」
顔を赤らめるナイーダを見てヴァリスは静かに驚き、アインにたずねる。
「え、ちょっとちょっと、いつの間にそんなことになってたのこの子達。」
「ナイーダが来た時。」
「そりゃ分かるよ。」
「というかシーナからの手紙に書いてなかったかい?」
「書いてたような気もするが、最後の文で頭から吹っ飛んだわ。ていうかお前たちも手紙くらいよこしなさいよ。シーナだけだよ?送ってくれるの。」
「ラーマンはそういうのしなさそうだし諦めたら?僕は少し忙しいから書く時間ないんだよゴメンネ。」
「嘘つけぇ!優雅にティータイム中だったろ今!」
「1日で少ししかない僕の娯楽の時間さえも奪うって言うのかい?父さんがそんな非道な人だとは思わなかったよ、ヨヨヨ...」
「そんなことより、シーナはどこ?」
白々しい演技に辟易していると先程から辺りをウロウロしていたシーラが口を開く。ヴァリスも思い出したようにアインに顔を向ける。
「さっき言ったろ?遅かったねって。ちょっと前に王宮から迎えが来てね、もうすぐ着くんじゃないかな?」
「そ、そんな...」
この世の終わりのような顔をして膝と手をつくシーラ。それを横目にもうひとつアインにたずねる。
「アイン。シーナはなぜ王宮に呼ばれたんだ?」
「さぁね。多分呼ばれた本人もなんでか分かってないと思うよ。」
誰も分からない理由。ヴァリスはうむぅとうなることしか出来なかった。
「...まぁ落ち着きなよ2人とも。」
一方アインはいつも通りの平静さを保っている。
入れ直した紅茶を飲みながら椅子に座る。
「あの子が王宮に呼ばれるような悪事を働くような子じゃないっていうのは僕たちが1番よく分かっているだろ?大丈夫、すぐに帰ってくるよ。それまでここでゆっくりしてるといい。紅茶も入れてあげるから。」
アインの言葉に無理やり納得してヴァリスとシーラは大人しく待つことに決めた。
しかし3人の気持ちは常に一緒である。
無事に帰ってきて欲しいとまだ空にぼんやりと浮かんでいる白い月にそう願うのだった。
読んで頂きありがとうございます!
何となく新しい物語に入る予感です!
次の更新予定日は日曜日です!