19 想い
3章19和です!
よろしくお願いいたします!
魔王と呼ばれた男との決着が着く少し前、
ヴォルフフォード家王都別邸の自室で一人ベッドの上でうなだれる者がいた。少し前にシーナの声が聞こえたが、すぐにまた出ていったようだ。アインも少し慌ただしく各地に送る文書を作成し、家の従者に届けさせている。
時間は刻一刻と迫っている。ラーマンと会う、そう思うだけでどこか萎縮してしまう。予定では今頃シーナにメイクや衣装を決めてもらっていたところだろう。
今回のこともシーナがいるから行こうとなった部分がある。彼女が一緒ならどこか気持ちが強くなれる気がするのだ。
しかし、今現在シーナは帰ってきていない。静かな部屋で静かにうなだれるナイーダだが、その心情は喜劇のピークぐらいのやかましさである。
どうしようかと考えはァとため息をつこうとする。そんな時、
コンコンと扉をノックされ、ハァァァイ!!と奇妙な返事を返してしまった。恥ずかしさで顔が熱くなっていると、扉の向こうから声が聞こえる。
「あのー、ナイーダさん。少しいいですか?」
聞こえてきた声は可愛らしくそれでいてどこか頼りがいのある声だ。
「ミリア、さん?」
すぐに立ち扉を開けるとメイド服を着たミリアが笑顔で立っていた。この屋敷に来た時から見ていた彼女はその小さな体で勉強と雑事をほぼ完璧にこなしていて、年下の上、体も小さいのに、簡単な言葉しか見つからなかったが、すごいなと思ったことを覚えている。
失礼なことを考えているなとかぶりをふって気持ちを切り替える。
「えっと、どうかされましたか?」
訪れた理由を聞く。ミリアはナイーダの頭からつま先までをじっと見つめ、1度目を閉じてから再びナイーダの目を見つめ直す。
「とりあえず、中に入っても?」
「あ、はい!どうぞ...」
理由がわからないまま二人で部屋の中へ。
机のランタンがほんの少し部屋をオレンジ色に照らす。
しばらく沈黙が続く。二人で並んでベッドに座っているとミリアが口を開く。
「何も準備されてないんですね。」
「......え、?」
「もう準備をはじめていないと間に合わないんじゃないですか?」
「......」
「いいんですか?」
少し咎めるような雰囲気を感じるミリアの言葉。
何も言えなくなり俯くままのナイーダにさらに言葉をなげかける。
「私、初めてあなたを見かけたとき、すごく不安だったんです。」
「へ?...それって、こんな奴に任せて大丈夫かってことですか......」
「いやいや!そういうことじゃなくて...私の居場所を取られちゃうんじゃないかって。私、自分で言うのもなんですけど、結構優秀だと思うんです。」
ミリアは遠くを見つめるような目で語り出す。
「もちろん最初からできたわけじゃありません。私がここまでなれたのはシーナ様の教育の賜物ってとこです。」
「シーナ様の...?」
「ええ。あの人はただドジなだけの私にメイドの何たるかを説き、時に優しく、時に叱って、私をここまで成長させてくれました。」
ナイーダは黙ってミリアの話に耳を傾ける。
「あの人は私の恩人です。いえ、恩人なんて言葉では表せないですね。だから私はどこまでもあの人についていきたい、あの人と一緒にいたいんです。でもそのために、シーナ様の側を離れなければいけなくなりました。
そう、試験です。いつまでも側にいるために少しの間離れなければいけなくなりました。
私が勉学に励んでいる時、アイン様が言いました。私がこうしている間は代わりの人間を読んであると。気になるじゃないですか、だから見に行ったんです。
そしたらどうでしょう。とても綺麗で仕事もできそうな佇まいの女性がいるではありませんか!
だから私、最初は苦手だったんですよ?ナイーダさんのこと。でも、一生懸命に頑張ってる姿とか、シーナ様と3人でお話したりとか、そうしていくうちにあなたがどんな人か分かりました。」
そこまで言うとミリアはナイーダと顔を合わせる。
その顔は可愛らしい顔でありつつもどこか大人びた雰囲気を持った微笑みを浮かべている。
また2人の間に沈黙が流れる。ミリアはそこからのことを考えてなかったようで必死に言葉を探していた。
その様子は先程の大人びた雰囲気が微塵も感じられない年相応の可愛らしさが全面に出ている。
「あーえっとぉ...そのぉ...つまりですね、えっと、」
ようやく言いたいことが出てきたミリアはもう一度ナイーダと目を合わせる。
「あなたも一緒なんでしょ?」
「一緒って...?」
「シーナ様に何かを与えてもらった人ってことです。私はメイドのお仕事とかお勉強とか色々なものを頂きました。ナイーダさんはどうですか?」
ナイーダは考える。自分がシーナに与えられたもの。
いつもどこか踏み出せないでいた。
せっかくここに来たのにもう一歩が踏み出せないでいた。
そんな時、気にかけてくれた。
ちょっと強引だけど、力になってくれた。
「ナイーダさん、私はね、試験を受けてる時、シーナ様と一緒に居たいって思いもありましたけど、もうひとつあるんです。シーナ様とのこれまでを無駄にしたくないって想いがあるんです。」
ナイーダがシーナの提案に乗った理由。
当然、ラーマンと話したいから。ラーマンと仲直りがしたいから。
でもそれだけではもう一歩踏み出せないでいる。
なら、あと一つだけでも、強引でも理由をつけよう。
シーナが自分のためにしてくれた。
今も、何か理由があって来れないのだろう今も、自分のことを考えてくれているかもしれない。
そんな人が、残念だと、肩を落とすところは見たくない。自分が、自分から1歩踏み出せばいいだけではないか。簡単な1歩じゃない。今までずっと踏み出せなかった重い足だが、シーナを想うと少し枷が軽くなった気がした。
ナイーダはスクッと立ち上がると、ミリアに向けて頭を下げた。
「ミリアさん、お願いします。私を着飾ってくれませんか。私を綺麗にしてくれませんか。」
「もちろん!この世で1番の美女にしてあげます!任せて下さい、これでもシーナ様の外行きの時は私がお化粧してますので!」
読んで頂きありがとうございます!
後2話くらいで3章も終わりになりそうです。
次回更新予定日は明日になると思います!
何時かは知りません( ᐙ )