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18 辛勝

3章18話です!

よろしくお願いいたします!

岩と共に外套の男がぶつかった場所は未だに砂埃がたっている。このまま逃げられる可能性が高いが関係ない。カノンは気を失っているシーナ・ユーリと激突箇所の間に立ち、険しい目で見つめ続ける。


これで終わったとは思えない、まだ生きているはずだと、自身に流れる血が言っている。


「やれやれ、これじゃあサベラのことを無能なんて呼べないな。」


ガラガラと瓦礫がどかされる音が聞こえ、砂煙の中から黒い外套が姿を現す。声には余裕が感じられるが、小さくとも全身にはキズができている。1番大きなものは左足だろう。膝あたりまで2つに裂かれ、滝のように血が流れ出ている。一見するとまだ生きているのが不思議なくらいだ。


「ただの器と勇者の血を引いているとはいえ、学生に遅れをとるとはね。魔力は切れたし、足はこのザマだ。さすがに打ち止めかな。」


そう言うと男は右足だけでふわりと飛び上がり、上部の窓縁に着地する。


「追ってきてもいいんだよ?」


「お断りしておくよ。僕らももう持たないだろうからね。」


「堅実な判断だね。じゃあまたね勇者クン。」


会話を終わらせ、男が窓の外に目をやりその場を後にしようとする。


「ま...待ち、やがれ...」


聞くだけでも立つのがやっとであろう少女の声にため息混じりに振り返る。仰向けで勇者の足元に転がっているその少女は首も動かせないのか、目線だけ男に向けている。その顔は鬼か悪魔と形容出来るような恐ろしい表情をしていた。


「おおこわっ!歴代勇者もそんな顔してる人いなかったよ。」


「ぐっ...ぐぅう...!」


「まだ体は動かせないかい?そんな状態でボクを呼び止めるなんてね。ほんとに死にたいのかい?だいたいなんでそんなに怒ってるのさ?キミの目的の眼は取り戻せただろ?そのうえでボクにそんな怒りを向ける理由がわからないんだけど。」


「...お前は、俺の友達に手を出したばかりか、クラスメイトの1人を殺した...!」


「殺したのボクじゃないし。それにボクが言うまで気づかなかったってことは話したこともないぐらいのうっすい間柄だろ?」


「部下の不始末は上司の不始末でもあんだよ。必死でやってた部下をサラッとクビにして、将来があった若者の芽を摘んだ。クラスメイトに手を出されたから怒ってんじゃねぇよ。俺が1番嫌いな人間だから怒りがわくだけだ!」


「....なんそれ?私怨ってこと?はた迷惑なヤツだね。まぁいいさ。さっき言った気もするけどキミにどう思われようとボクのやることは、この先の運命は変わらないし。少なくとも勇者クンにおんぶにだっこのキミじゃあ何も変えることはできないだろうしね。」


「なんだと...」


「そうだろ?確かに驚かされた部分もあるけどさ、全部勇者クンありきだし。器としての性能を逸脱した実力ではなかったし。キミひとりじゃ即死んで終わりだったろ。」


「くっ...!」


「また安い挑発だね、もう行きなよ。今回は見逃すけど、次は逃さない。必ず仕留めるよ、“魔王”。」


「......それじゃ。」


月明かりが射し込む窓から、その男は消えていった。

ユーリの奪還には成功したが、シーナの中には例えようもない何かがうずまき、素直に喜べなかった。


━━━━━━━━━━━━━━━


「シーナ!カノン!」


「ユーリ!」


倉庫の大きく重い扉が開き、アリアやカミラ、捜索に協力してくれていた人達が集まってきた。


「ああ、アリア。遅かったわね。」


「ごめんなさい。私一人で行っても無駄だと思って全員を集めてたら遅れちゃったの。」


「冗談、いいのよ。」


俺とアリアが話している横では目を覚ましたユーリとカミラがいる。


「ユーリ、良かった...無事で...」


「うん、ごめんね。心配かけて。」


「ユーリ...!」


今度は入口から声が聞こえた。そこにいたのはユーリの母、そしていつもの4人組の残り2人。


「お母さん、ミースにサナも...」


駆け寄ってきた3人とユーリとカミラは涙を流して抱き合った。

......カノンが魔王と呼んだあの男。また気になることが増えた。ひとつ終わるとまたひとつ、タスクは終わる気配がないな。でもまぁ、横にいる5人を見てると、タスクがどうのとか、関係ないかなって思えてくる。何はともあれ目的は達した。1人も欠けることなくだ。ギリギリ勝ったと言っていいだろう。


俺が疲れを感じて壁に背中を預けているとまた入口から声が聞こえた。


「シーナ!!シーナ、いる!?」


何事かと目を向けてやるとそこに居たのはだいぶ焦っている様子のアイン兄さんがいた。俺の体を案じてカノンが呼びに行く。連れてこられたアイン兄さんは俺の姿を見てひとまず安堵したのかふぅーと息を吐いて真剣な眼差しで俺を見る。


「とりあえず、無事でよかったよシーナ。」


「おかげさまで。それよりどうなさったんですか?やけに慌てている様子でしたが。」


「ああシーナ、落ち着いて聞いて欲しい。」


「はい。」


「今午後8時45分だ。」


その言葉で俺の頭の中にはとある記憶が次々と浮かんできた。


「あああああ!!!」


俺の声に周囲がびっくりして視線があつまる。

だが、それが気にならないほど俺もあせりはじめた。

そうだった。完全に忘れていた。ナイーダとラーマン兄さんのこと...


俺は痛むからだを無理やり起こしてアイン兄さんと共に駆け出した。そうだ、一応みんなに一言言っておこう。後ろを振り返り、来てくれた人達に礼を言う。


「皆さーん!今日はありがとうございましたぁー!今度スイーツでも差し入れさせていただきますねー!!」


それだけ言って全力で走る。痛くならない程度で。

こっちのタスクも失敗は許されない。成功させるために、何も考えずにただひたすら走った。



読んで頂きありがとうございます!

3章もやっぱり短くなったよ(´・Д・)

長ーい話作れる人すごいや。

次回更新は23日土曜日です!

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