13 正体
3章13話です!
よろしくお願いいたします!
王都ヴォルフフォード家別邸。
「おい、なんでこんな格好...」
「いいからいいから、ラーマンは黙って着替えさせられておきなよ。」
数人の使用人に囲われ正装に着替えさせられているラーマンとそれを微笑み見つめるアイン。
シーナとともに計画した仲直り作戦も大詰め、
あとは目的地で2人を合流させればいい。
しかしどうしたことだろうか。
シーナが戻らない。おかげでナイーダは慌てふためいている。シーナもアインも影から見ているから大丈夫だぞという話でなんとか勇気をだせたナイーダだったが、シーナがいないとなるとその心中は穏やかではないだろう。
「大丈夫だ。シーナはとても律儀な子だから。ナイーダとの約束を破るような子じゃない。」
「....はい。」
アインは少し震えるナイーダに声をかけて落ち着かせる。だがやはり不可解だ。マメなシーナがこんな肝心な日に限って帰らないとは。何かあったのでは?
そう考えていると玄関の扉が開いた音だろうか。
バタン!と大きな音が響いた。
周りの者も何事かと玄関のある方向を見つめる。
おそらくシーナだろう。急な予定が入ってしまったのだろうか。
「僕が見てくる。」
玄関前に到着するとハァハァと肩で息をしているシーナがいた。かなり全力で走ってきたらしい。
「随分遅かったねシーナ。もうラーマンは着替え始めてる...」
「兄さんッ!!」
言葉を遮り顔を上げたシーナの顔を見たアインはただ事ではないことを瞬時に察する。
「何をして欲しいのかな。」
「兄さんの人脈をありったけ導入してください!探して欲しい人がいます!」
「名前は?」
「ユーリ・メトロム。私の...友達です!」
「...分かった。僕の知り合いにかけあってみよう。」
「ありがとうございます。よろしくお願いします!」
シーナは一礼し、学園方向へ走り去っていってしまった。シーナの友達が攫われた?詳細を聴く日まもなく行ってしまったのでまぁあの焦りようだ。余程じゃなければああはならないだろう。
「おい兄貴、なんかシーナの声が聞こえたんだが、なんかあったのか?」
「大丈夫だよ。ちょっと予定が狂ってるみたいだ。ラーマンはそのまま待機していてくれ。」
「?」
こっちもこっちで大事な予定がある。
誘拐なんてつまらないことで狂わされる訳にはいかない。アインは部下に命じて王都中の知り合いに言伝を頼み、自分もユーリとやらを探しに街へ赴いた。
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アイン兄さんに協力を仰いだ俺はすぐさま学園へ足を向けた。さすがに教師陣にも伝えておかなきゃならないだろう。
学園の生徒が誘拐にあったのだ。
協力しないなんて選択肢は無い。
学園の協力はかなりの助けとなる。
俺が学園に着いた頃、ちょうど担任のリーン先生が帰宅のため出てきていた。
「リーン先生!!」
「シーナさん?どうしたのそんなに急いで...」
「ユーリさんが何者かに攫われました!!!」
「!...詳しく説明して!!」
俺は今日下校してからのことを覚えている限り話した。しばらく聞いた先生は勢いよく学園へ駆け出した。
俺も後に続き、学園へ。
普段は走らない廊下を全力疾走し職員室へ到着するとバンッ!と乱暴に扉を開き、リーン先生は大きな声で残っている教師に呼びかける。
「魔法士科1年、ユーリ・メトロムが誘拐事件に巻き込まれたようです!直ちに周辺住民への呼びかけ、生徒の安全確認を行い、ユーリ・メトロムの捜索に当たってください!」
「「はいっ!」」
教師陣はすぐさま行動に移り、散っていった。
「シーナさん、私達も行きましょう!」
「はい!」
俺とリーン先生も正面玄関に戻る。
するとそこには大勢の生徒の姿があった。
「シーナ!」
俺に声をかけてきたのはアリアだ。
「アリア、どうしてここに...。」
「帰ってたらこの学園の生徒があちこち駆けずり回ってるって聞いてね。タイミングよくあの子がきたの。」
視線の先にはユーリの友達のリーダー格の男勝りな性格をした女子生徒がいた。
「カミラ...」
「シーナやっと見つけたよ。」
「みんなは?」
「ちゃんとユーリの家でお母さん守ってるよ。」
「そう...」
「ことのあらましは聞いたわ。私達ももちろん協力する。あの人たちもね。」
あの人たち?今度はアリアの視線を追う。
そこには魔法士科の先輩だけじゃない。
騎士科や学術科の生徒の姿もあった。
「どうして彼らが...」
「学術科は私の友人がいるからその人と一緒に、騎士科は、彼が説得したみたい。」
「おーい!シーナー!」
大きく手を振り駆け寄ってきたのは銀髪緑眼の俺の最初の友達。
「カノン...!」
「何とか間に合ったよ!来てない人もいるけど、結構人数は集まったよ!」
まさか騎士科の生徒も来てくれるとは...
この緊急事態の中でとても嬉しく感じ、顔がほころぶ。
「ありがとう、カノン。助かるわ。」
「よしっ!では皆さん聞いてください!」
リーン先生の号令に全員が反応する。
みんながこちらを見ていることを確認して、指示を出す。
「これから皆さんにやってもらうのは聞き込みです!街の住人、旅人、商人、誰でも構いません!ユーリさんの行方を知っている人間を探しなさい!複数人で行動を!特徴が分からない人もいると思いますから、出来れば他学科の生徒とともに行ってください!いいですね!?」
「「はい!!!」」
教師陣を超えるスピードで行動を開始する生徒たち。
俺もすぐさま周りの人に声をかける。
「カノン、着いてきて!アリアとカミラも他の学科の人と組んであげて!」
「ええ。」
「分かった!」
俺とカノンを除くおよそ30組がユーリを探しに奔走する。だが、犯人の足取りはなかなか掴めない。
時間だけがどんどんと過ぎていく。
「話を聞く限りじゃただの借金取りだと思うのに。どうしてここまで足取りが掴めないんだ...!」
「おかしいぐらい目撃情報がないね。こっちには来てないのかな...?」
俺の中に焦りが見え始めた頃、俺とカノンに二人の人影が近づいてきていた。1人は俺も知っている女子生徒。
「ラナ?」
ギャルみが強いユーリの友達の1人だ。
もうひとりは、青色の制服。騎士科の生徒みたいだな。
「どうしたの?」
「ユーリのお母さんがひとつ思い出したの!ユーリをさらったのは借金取りのやつらじゃないって!」
「どういうこと...!?」
「最初は借金取りの男たちが抑えてたんだけど、その後に赤毛の優男がきて全員気絶させて、それでユーリとそいつらを持って飛んでったって!」
「こっちは目撃情報だ!王宮南にある大河の港の方向に同じ特徴のやつが飛んでったのを見たってやつがいた!」
ここに来て有力情報がふたつもか...
誘われているように感じてならない。でも今できる行動はこれしかない。
「分かった、その倉庫にみんなを集合させて!私とカノンは先に向かうわ!」
「分かった!」
「了解だ!」
「カノン、行くわよ!」
「うん!」
俺たちはそこで解散し、俺とカノンはその倉庫に向かった。10分ほど走るとそこが見えた。
俺たちは呼吸を整えてからゆっくりと近づいていく。
倉庫と呼べそうな大きな建物が3つ。
手前から順に扉を開けて中を見ていく。
そして最後の扉を開き、中を見ると、
その倉庫の中央に椅子に拘束され気を失っているユーリがいた。
俺はすぐさま駆け寄り、ユーリの状態を確かめる。
脈はある。息もしている。ただ気を失っているだけらしい。カノンと二人で拘束を解いていると、後ろから声が聞こえた。
「やぁ。またあったね、戦乙女。」
聞き覚えのある声だ。振り返ると黒いボロボロの外套に身を包んだ男がいた。
「あなたでしたか。私の友達をさらうなんて、随分舐めた真似してくれましたね。」
「必要だからやったまでだよ。」
「節操のない人ですね。ついひと月前は私、今度はユーリですか。あなたもしかしなくてもモテないのでは?」
「残念だけど節操のない男の方がモテたりするんだよ。まぁそれはいいとして、戦乙女、君は彼女の右目について知っているかい?」
ユーリの右目。黒い眼帯をつけ、最初は気になってみんな質問したものだ。だがユーリは頑なに語らなかった。やがてみんなそういうもんだと受け入れ何も聞かなくなったがな。
「いえ、知りませんね。教えていただけるんでしょうか?」
「悪いけど教えられないよ。君が知ったところで無意味だしね。」
「そんなこと言わずに教えてくれてもいいんじゃないですか?サベラ先生。」
「........」
当たりか。
「カマをかけただけですのに、そんなに分かりやすい反応をいただけるとは思いませんでした。」
しばらく沈黙し、男はフードを外した。
中から顔を覗かせたのは赤茶色の髪をした優男。
魔法講師のサベラ先生である。
「一応いつ分かったのか、なぜ分かったのか理由を聞こうか。」
「ついさっきですよ。私とリーン先生が職員室に入った時、あなただけがそこにいなかった。当然これだけならあなたを疑う理由としては不十分。ですが、街を走り回っている時も、あなただけは見かけることがなかった。」
「それでも理由としては弱いんじゃないかな?王都は広い。僕を見かけなくても不思議はない。」
「ええ。もちろんこの時点ではなぜ居ないのかという疑問だけでしたよ。ですがラナの話を聞いて疑問は疑いに変わった。だから言ったでしょう?カマをかけただけだと。」
「それで外れてたらどうするつもりだったんだろうね。」
「顔を赤くして俯いてたんじゃないですか?」
「ふはっ!面白い子だ。いいだろう、僕の正体を当てたご褒美にユーリちゃんを捕らえた理由を教えてあげるよ。」
サベラ先生は授業の時と同じように語り出した。
読んで頂きありがとうございます!
長くなっちゃいました!苦手な方はごめんなさい!
というかもう結構終わり近付いてますね!
3章も短くなる予感...(`・ω・´)