12 行方
3章12話です!
よろしくお願いいたします!
サベラ先生のありがたい授業が終わり、教室に戻る道中。
「シーナ様ぁぁぁぁぁああ!!」
廊下の向こうからイノシシみたいに一直線にかけてくる何かを受け止める。
思ったより強い衝撃が体を走り思わずうっと言ううめき声を出してしまう。
「ミ、ミリア。終わったの、試験。」
「はい!見てくださいよこれ!」
ミリアが差し出した紙は受験票か。
そこに赤くデカデカと押されている合格のハンコ。
「やったじゃない!」
「はい...!あ゛り゛がどう゛ごじゃい゛ま゛じゅ!!」
「はいはい、そんな色々垂らしてないで顔拭いて鼻かんで。」
ミリアと合流し、教室に向かって歩きながら話す。
「今日はもう帰るのよね?」
「はい。同行できるようになるのはあと数日してからと。」
「そう。どうだった?試験。難しかったかしら?」
「正直分かりません。かなり抑えられていたようにも思えますし、気を抜けない試験だったと感じます。」
気を抜けないか。
アリアに聞いた限りの内容は大した試験でもないと俺は思ったが。やったものにしか分からない引っ掛けとかがあるのだろうか。
「そういえば、すごい方がいらっしゃったんですよ!」
「すごい方?」
「はい!なんというか、その人だけオーラが違いましたオーラが!あの人は絶対に合格してますよ!」
随分抽象的。どうなやつか分からないな。
「名前は分かる?」
「えっと確か、レグルスさんという方でした。」
レグルスと言う名前を聞いた途端、俺の左隣を歩いていたセルカの体がビクリと震える。
「セルカ、知り合い?」
「というか、セルカのお付きの従者なんでしょ?」
アリアが俺の右からセルカを見る。
まぁ何となく思ってたけどやっぱりそうか。
しかしセルカはそれでも否定する。
「全っ然!?知りませんけど!?どなたでしょうかね!?!?」
「なんでかくすのよ。別に知られてもなにか問題がある訳でも......」
「大ありなんですぅ!!!」
一体なんだと言うのか。
まぁいいや。あまり突っ込んで欲しくも無さそうだし、聞くのは勘弁してやろう。
「なんで大ありなの?」
アリア、やめてさしあげなさい。
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ミリアと別れ、教室に戻ってきた。
次の授業までまだ少し時間があるな。
そういえば。
少し気になってることがあるのでユーリたちの元へ。
「ユーリ。」
「あ、シーナ。どうしたの?」
「いえ、そういえば、あの宝石はどうしているかと思ってね。」
「ああ、あれ?私の部屋に飾ってあるよ!見に来る?」
友達の家か。
最後に行ったのはだいたい40年ほど前だろうか。
改めて誘われると緊張するな。
「急にお邪魔して大丈夫かしら。」
「全然!友達が来たらきっとお母さんも喜ぶよ!」
?今なにか違和感があった気がしたが...気のせいかな。
とりあえず今日の放課後、ユーリの連れ3人とともにお邪魔させて頂くことにした。
ああ、いいね!青春してるって感じがする!!
話し終えるとちょうどチャイムがなったため席に戻る。放課後が待ち遠しく思うのも久しぶりだな。
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授業も終わり、放課後。
トイレから戻り帰り支度を済ませ、3人と合流する。
「ユーリはどこに?」
「なんか、思い出したみたいに済ませることあるから先に行くねって。」
済ませることねぇ。気にはなるが気にしても仕方がないか。
「じゃあ行きますか。」
「「「おー!」」」
俺たち4人は友達の家に向けて肩を並べて歩き出した。
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やばいやばいやばいやばい!!!
私は授業が終わり、すぐに家に向けて1人で駆け出した。
「みんなが来る前に済ませないと!」
私が一生懸命走っている理由は、
ズバリ!部屋が汚いため。
...このくらいの年の子なら割といるはず!
女の子でいるかは分からないけど...
さすがに散らかりまくった部屋に友達をあげる訳にはいかないって言うかあげたくない。
初めて家に友達を招くんだ。
できる限り気分よく出迎えて、気分よく帰ってもらいたい。
家でみんなとお話して、お母さんが用意してくれたお菓子を食べて。
そんなことを考えると、自然と口角が上がる。
早く来ないかなと、自分も帰りついてないのに考えてしまう。
しばらく走っているとようやく見えてきた。
そこは誰がどう見ても貴族が住んでいるとは到底思えないようなこぢんまりしたボロ屋である。
うちは昔から貧乏だ。
私が2歳そこらの頃は貧乏ながらもお父さんとお母さんと3人でそれなりに楽しく暮らしていた。
でも、私が5歳のころ、お父さんが居なくなった。
その時の私には分からなかったけど、
成長して何となくわかった。
お父さんはお母さんじゃない、違う人を好きになったんだって。
お父さんは出ていったあともひとつ置き土産をして行った。
そのせいで私たち二人の生活は余計苦しくなっちゃったけどね。でも、それでもお母さんは私を学園に行かせてくれたし、友達にも恵まれた。
今日はお母さんにいい報告ができる。
手をドアノブに伸ばし扉を開く。
そうしようと思った瞬間、
「やめてください!」
中からお母さんの怒号が聞こえた。
何かあったのかってすぐに開こうとしたらまた声が聞こえた。
「いいじゃねぇか。これでお前らもあの呪いの目から解放されるんだぜ?」
呪いの目。
私の右目のこと。
生まれつき私の右目はこうだった。
そして私が生まれてから、私の家は壊れ始めた。
母の兄弟が死に、当時当主だった祖父が死に、私が原因だと言い1度私を山に捨てた祖母が死んだ。
それからずっと私の目は呪いの目として忌み嫌われた。だからこの目のことは友達には話してない。
お母さんも口外してない。
そしてこの声は聞き覚えがある。
色んなトラウマが蘇り、私は過呼吸になった。
目の前が見えなくなった。
だからその男が出てきたことにも気づけず、動けず、
やめてと叫ぶ母の声を遠くに感じ、意識を失った。
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ユーリの家に向かって歩き出した俺たち4人は綺麗に踵を返し、学校に帰ってきていた。
なぜ帰ってきたのかって?
誰も家の場所を知らなかったから。
俺がユーリとの会話で感じた違和感は多分これだ。
前世の陰を極めた俺でさえ家に友達を招くことは何度かあった。ユーリは社交的だ。
何か事情とかがない限り家に友達を呼んだことがないなんてことはないだろう。
その事情を話していないあたり知られたくないことがあるのかもしれない。
でもユーリは今日俺たちを家に呼んだ。
それだけ信頼とか友情とかが強くなっているのかもしれないな。俺話したのもつい最近だけど。
先生に住所を聞き、今度こそ4人でユーリの家を目指す。
校門を出て20分ほど歩くとその住所の場所に到着した。
しかしこれはどういうことだろう。
ゴルドリッチ領の貧困街で見たような家とその玄関先で女性がうずくまりすすり泣いている。
俺はその女性に近づき声をかけた。
「もし。ここはユーリ・メトロムさんのご自宅でよろしいでしょうか?」
「......あなたたちは...、ユーリのお友達...?」
顔を上げ、俺の問に応えた女性はどことなくユーリに雰囲気が似た人だった。母だろうか。
「はい。今日ユーリさんにお招き頂きまして、何かあったのですか?」
「ユーリが...うぅっ...あの子が、あの男に...!」
これは何かあったレベルの騒ぎじゃなさそうだな。
俺はすぐに家に向けて走り出す。
「ち、ちょっとシーナ!?」
「誰かその方を見ていてあげて!私はアイン兄さんと学校に捜索を頼む!みんなも友達とか知り合いに協力を仰いで!!」
応えも聞かずに街を駆ける。
頼むユーリ、無事でいてくれよ!
読んで頂きありがとうございます!
次回更新は8月1日金曜の予定です!