10 気を抜いてはいけません
3章10話です!
よろしくお願いいたします!
料理の試験が終わり、次の試験へ。
そこで私を待っていたのは、いかにもこのために用意しましたと言わんばかりのホコリだらけのゴミ部屋でした。
レグルスさんはこの部屋から出てきた時、チリひとつ体につけることなく出てきていました。
どのくらいこの部屋を綺麗にできたかは分かりませんが、私も負ける訳にはいきません!
何せ私の1番得意なことはお掃除ですから!
この汚部屋、華麗に綺麗にしてみせます!
と、意気込んでから5分後。
「そこまで。」
イケおじさんの合図で手を止め、部屋を確認します。
そこらじゅうに転がっていたものはかなり片付きました。辺りに舞っていたホコリも大分落ち着いています。ケホケホッ...
総合的に見て使われ始めて1、2年の物置といった所でしょうか。5分でここまでやれたのですから私としては上場ですが...
ちなみにさすがにチリひとつつけずにというのは無理ですね。レグルスさん何者なんでしょう。
「ふむ...。まぁ5分でこれだけ出来れば大丈夫でしょう。この試験も突破です。おめでとう。」
「ありがとうございます!」
イケおじさんから合格の言葉をもらいました!
飛び跳ねそうになるのを堪えて部屋からでます。
これで残すは給仕の試験のみです!
3部屋目に入り、イケおじさんが入室したのを確認して扉を閉め、扉脇に立ちます。
先程の2部屋はそこまで大きくはありませんでしたが、この部屋はヴォルフフォード領のシーナ様のお部屋ほどありそうですね。
旦那様が普段執務をなさっているものと同じような椅子に腰かけ、机に肘をつき、イケおじさんが説明を始めます。
「では、最後の試験の概要を説明します。」
「よろしくお願いします。」
「この試験では、私がしてもらいたいことを言いますので、それに対応していただきます。まぁやることはこれだけですね。試験時間は5分です。ギリギリで言うこともあるので、最後まで気を抜かないように。」
「はい!」
「よろしい。では...始めます。」
時計を確認したイケおじさんが試験開始の合図を出す。
大丈夫。私ならできる。シーナ様の専属メイドとして何年もやってきたこと。急なお願いなんていくつあったか...。ここでも同じことをやるだけです。
「では早速ですが紅茶を入れてくれますか?あと右にある棚から受験者名簿を左の棚から1番大きいハンコと朱肉それから万年筆をお願いします。」
早口っ!!
この緊張した状況で!!
ま、まずい...紅茶を入れていたら他のことを忘れてしまいます!!しかし他を優先すれば紅茶を入れる時間が無くなってしまう!
は、早くも他の頼みが頭から抜けかけています!!
えぇーとぉお湯を沸かしてポットに茶葉を入れておいてカップを準備して......右の棚から何を準備すればいいんでしたっけ...?
ままま、まずいです!!
これは非常にまずい!!!
でもあせれない!焦ったらもっと分からなくなります!あと焦る様子は評価に直結する気がします!
紅茶の用意をし、部屋の右にある棚に向かう。
おそらく今の私は冷静沈着そのもの。
しかし内側は焦りに焦っています。
ほんとにほんとにどうしましょう!
もう幽霊でもいいので助けてください!
虫でもいいです!!!
『諦めてはダメよミリア...』
はっ!その声はシーナ様?!
『そう、私はあなたの心の中にあるシーナへの敬愛が生み出したもの...』
つまりイマジナリーシーナ様ということですね!
『あ、うん...まぁそうかも?』
イマジナリーシーナ様、私を助けに来てくれたのですか?!
『ええそうよ。まずは落ち着きなさい。難しいことは言われてないわ。たったひとつ、あるものを取ればいいだけ。ほら...段々と欲しいものが見えてきたでしょう?』
イマジナリーシーナ様........
それで分かれば苦労はないのですよ。
『ちょ?!もうちょっと頑張りなさいよ!せっかく来てあげたんだから!』
えー、来たって言っても私の想像ですよねぇ。
というか私の想像なら答えも知らないんじゃ...
『なぁー!はぁー!そういうこと言っちゃう?じゃあもういいもんねぇー、答え知ってるけど教えてあげませんからねー!』
じ、冗談ですよ〜!
ちゃんと期待してますよ〜!
ということでほら!早く答えを!プリーズ!
『...あなた本当にシーナを敬愛してるの?』
もちろんですよ!シーナ様になら抱かれてm....
『言わんでよろしい!じゃあ教えてあげるわ。それを持っていけば、あなたの合格は確定する。逆に持っていけなければ、あなたの不合格が確定する。左の棚に入ってるのも同じね。ちゃんと覚えてる?』
.....あぁ!!なるほど!理解しました!!
『はぁ、しっかりしなさいよ?あなたはシーナに期待されてるんだから。それを裏切るのはあなたが許せないでしょ?』
はい、それは私が許さない。
だから...
私は右の棚から今試験の受験者名簿を、
左の棚から一際大きなハンコと朱肉、そして万年筆を抱え、イケおじさんの机に置き、
ちょうどお湯が沸いたのでポットに注ぎ、少し置いてからカップに紅茶を入れ、イケおじさんにわたしました。
「ありがとうございます。」
一礼し、再び扉脇へ。
目を閉じ、次の指示があるのを警戒しつつ待っていると、
イケおじさんの方からパラパラと資料をめくる音が聞こえ、トンとハンコを1回押した音が聞こえた。
これで...おそらく私の合格は.....
「ああ、すみませんもうひとつお願いが」
「うぇあはい!?」
慌てて目を開けイケおじさんを見ると微笑みながらこちらを見ています。
「少し来てくれますか?」
「は、はい。」
もうそろそろいい時間だと思うのですが...
一体なんでしょう。
イケおじさんの前に立つと、彼も椅子から立ち上がり、1枚の紙を手渡されました。
「最後まで気を抜いてはいけませんと言ったでしょう?」
うっ...何も言えませんね...。完全に油断していました...。
「す、すみません...」
「フッ...ですから、次にこの学園に来る時は気をつけなさい。」
手渡された紙は私の受験票。
そこに大きく押された赤い合格の文字と
ノーマン・アストフォリアという名前が書かれていました。
私はイケおじさん改めノーマンさんの顔を見あげると、頷いてくれました。
私は心の中で、歓喜の雄叫びをあげガッツポーズをしつつ、喜びの舞を踊り狂いました。
読んで頂きありがとうございます!
これにてミリアの受験話は終わりです!
次回からシーナ視点に戻ります!