23 大会は終わり
2章23話です!
よろしくお願いします!
「やぁ、シーナ。」
セルカを負かし、控え室へ戻る俺の前に現れたのはアイン兄さんである。今日も爽やかなスマイルで周りの空気を変えていく。
「ごきげんよう、アイン兄さん。どうされました?」
「仕事の方が終わったから、シーナの試合を見に来たんだよ。敵が可哀想になってくるような試合だったね。」
「あれが自分の犯した過ちを心の底から悔いるまでコテンパンに打ち負かすことが、私がこの大会に出場した理由です。打ち込んでいないだけ感謝して欲しいくらいですわ。」
「普通にボコボコにされるよりも残酷だったような気がするけど...まぁとにかく、あと2回勝てば優勝かな?」
「...そう、ですね。」
「楽しみにしてるよ、頑張ってね。」
身をひるがえし、軽い足取りで去っていくアイン兄さん。
兄さん、ごめんなさい。あんたの期待には答えられない。ていうか答える気ないんです。
第4トーナメント、ここまで勝ち上がって来た者たちは基本強い。試合のクオリティも上がる。
必然、観客も沸きやすくなるということだ。
俺と対戦相手が闘技場に入っただけでうるさいくらいの歓声が上がる。
俺の4回戦目の相手は少し長めのブロンドの髪をオールバックにした薄い顔の男子、先輩である。
「シーナ・ヴォルフフォード、だったな。試合見てたよ。戦うのが楽しみだった。」
「そうですか。光栄です。それから申し訳ないですわ。」
「んぁ?」
「試合、開始ッ!!!」
審判から開始の合図が宣言された。その瞬間俺は審判に視線を向け一言。
「棄権します。」
「「「...ゑ?」」」
時が止まったように静かで動きがない周りと、鼻歌混じりに軽やかに戻っていく俺。
俺が闘技場の出入口を通った瞬間、
「えええええええええ!?!?」という綺麗に揃った叫び声が聞こえてきた。
━━━━━━━━━━━━━━━
「大胆なことするわね。」
観客席に戻ってきた俺にアリアが呆れたような面白いものを見たような顔で声をかけてきた。
「私の目的は既に達せられた。優勝には興味が無いわ。」
「なんだか、色々すごい人だね、シーナって。」
「カノン、私は普通よ。ただ他の人と目指す場所が違うというだけ。」
「そんなだからお友達ができないのよ?」
ぐッ...!!会心の一撃!
「ま、まぁもうひとつ理由をあげるけど、結果が分かりきっているという部分も大きいわね。」
「結果が分かってるって?」
「シード権を持ったあの人には出場者誰も勝てないわ。私も含めてね。」
俺が話していると闘技場から
ガキィィンッ!ドゴォォォンッ!
と轟音が聞こえる。カノンとアリアも目を向けると土煙が舞っている。やがて晴れるとそこには地に伏した男子の先輩と脱力したように大きな剣をだらりと下げる金髪に浅黒い肌の紅眼の男。
「あれは、ラーマン先輩!」
姿が見えた瞬間ワァァァァ!!!と沸く会場。
そう。ラーマン兄さんこそが今大会の剣術部門のシード枠だ。
鍛錬は欠かしていないが、やはりあの人はその上をいく。今やラーマン兄さんの名を知らないものは王都では少数派だろう。既に騎士団からの加入希望が絶えず舞い込んで来ると言っていたし。
このまま我が兄の優勝を見届けて、今日という日を終わるとしようか。
━━━━━━━━━━━━━━━
全くもって納得がいかない。
順当に自分と妹の決勝になると思っていた。
シーナが出場すると知った時、自分も出ることを決めた。どんな組み合わせになろうと絶対に戦える場だったから。
ところが、自分と戦う直前の試合でまさかの棄権。
試合後話すこともできず、むしゃくしゃした気持ちを相手にぶつけて戻ってきた。
決勝は自分と準決でシーナと戦った確か、
ゼインというやつ。毛ほども興味が湧かない。
「はぁぁぁ....」
デカいため息をつきながら廊下を歩く。
「やぁ、ラーマン。」
顔を上げるとそこには兄がいた。
相変わらず飄々とした顔と態度である。
「ンだよ。」
「つれないな。せっかく勝利を祝ってやろうと思ったのに。」
「んな気分じゃねぇよ...」
「まぁ気持ちはわかるよ。僕も頑張ってって言った直後にあれだったからね。ラーマンより傷ついてる自信がある。」
「...で?ほんとになんの用だよ。まさかマジでそれだけいいに来たんじゃねぇだろうな?」
「もちろん違う。フッフッフッ、ラーマン。君のその下がりきったやる気を引き出してあげよう。」
アインの口から出た言葉はたしかに先程よりかは自分をやる気にさせた。しかし同時に自分の中に湧き上がったなんでだよという気持ちの方が強かった。
━━━━━━━━━━━━━━━
「ラーマン・ヴォルフフォード対ゼイン・アシュベル、試合、開始ッ!!!」
ついに決勝の火蓋が切って落とされた。
まず動いたのはゼイン。ラーマン兄さん相手に果敢に攻めかかっている。
ラーマン兄さんはとりあえずの防御姿勢。
相手に隙が出来た時、攻めに入るだろう。
ゼインの連撃終わり、ラーマン兄さんはゼインの剣を弾き、隙を作る。ゼインは弾かれた剣を見つつラーマン兄さんの行動に備えている。
少し大きめの剣を振りかぶるラーマン兄さん。
振り下ろされたその一撃は俺から見てもしっかり入ったように見えた。
吹き飛ばされるゼイン。誰もがラーマン兄さんの勝利を確信したその時、ザクッと剣を突き立て立ち上がった。
「へぇ...なかなかやりますわね、あの先輩。」
「ゼイン先輩は2年男子の2番手らしいよ。ラーマン先輩のことをライバル視して、前よりも厳しく自分を鍛えるようになったって。」
そんな話兄さんから聞いてないけどな。
まぁあの人のことだから目に入ってなかったんだろう。今日で評価が変わるといいね。
━━━━━━━━━━━━━━━
「驚いたぜ。耐えやがるとはな。」
「と、当然、だろ...。僕はゼイン・アシュベル...、いずれ君を超える男さ...!」
同じ学年にそんな名前の人間がいたことは分かっていた。だが、そんなものに目を向けるくらいなら自分を鍛えた方が有意義に時間を過ごせている気がした。
この戦いもすぐ終わると思っていた。
実際、咄嗟の判断で致命傷を避けたとはいえ、ゼインはもう限界だ。
「てめぇへの評価を改めるぜ、ゼイン。全力で叩きのめしてやるよ。かかってきな。」
「フッ......行くぞッ!!!」
凄まじい気迫で向かってくるゼイン。
ラーマンも体勢を低くし、地面を全力で蹴る。
光を思わせる速度で両者は近づいていく。
そして、体が交差するその刹那、
ゼインは剣を振り下ろし、
ラーマンは全身を使い、回転し薙の速度を上げる。
ガキィィンッ!!!という剣戟音が聞こえ、
開始と反対の位置にある両者。
数秒後、ゼインは前のめりに倒れ、動かなくなった。
この瞬間、学園総合大会の全てが終了した。
「勝者、ラーマン・ヴォルフフォード!!!!!」
会場はこれ以上にないほどの歓声を響かせた。
読んで頂きありがとうございます!
もうすぐだ、もうすぐ2章も終わる...!