5 試験の前に
2章5話です!
よろしくお願いします!
アイン兄さんと試験について話していると
ラーマン兄さんが鍛錬から戻った。
「やぁラーマン。いい汗をかいたみたいだね。」
「それよか飯は。腹減ってんだよ俺は。」
「それよかまずはお風呂に入ってシャワーを浴びてきてください。汗だけではなく、汚れやホコリがついたままミリアの料理を食べるのはミリアに失礼ですよ。」
「......。」
「あの...えと、気になさらないでくださいラーマン様。今お夕飯をお持ちしますから。」
「風呂行ってくる。」
「あれぇ...?」
随分素直だ。
広間を出て風呂場へ向かっていったラーマン兄さんを見て、ミリアも困惑の表情である。
「どうしたの、ミリア。」
「いえ...勝手なイメージで、誰の指図も受けないような凶暴な方かと思っていたので。少し気が抜けたというか...。」
「ラーマンは昔から思ったより素直なやつだよ。言葉使いや見た目で勘違いされやすいけどね。」
そうだったかな。まぁアイン兄さんが言うなら間違いないだろう。多分。
しかしもう結構いい時間だな。
2年の思い出や出来事を話しているうちに時計の短針は9の数字を指している。
「もう9時か。シーナももうおやすみした方がいいかもしれないね。」
「そうですね。そろそろ寝るとします。」
席を立ち、広間の出入口の前に。
振り返り、ニコニコしているアイン兄さんに軽く礼をすることにする。
「では、おやすみなさい。アインお兄様。」
「うん。おやすみ、シーナ。夜更かししてはいけないよ。」
お母さんみたいな小言をもらい、自室に向かう。
「シーナ様、お風呂に歯磨きがまだ済んでいません。」
「...このタイミングで言われるとなぜだかすごく面倒なことに思えるわね。」
「お気持ちは分からないでもないですが、やらないと。みっともないですよ。」
「分かっているわ。もう言わないで...。余計めんどくさい。」
俺の周り、お母さんだらけ。
ありがたいけど、少しうるさいのがたまにキズ。
━━━━━━━━━━━━━━━
シーナと別れたあと、広間にて本を読み弟を待つアイン。
シーナが出てから10分程、そろそろ来る頃だろうか。
そう思っているとちょうど扉が開き、ラーマンが姿を見せる。
「汗は流せたかい?ラーマン。」
「2人はどうした。」
「休ませたよ。夜更かしは乙女の天敵だからね。」
「俺まだ全然話せてねえんだが。」
「剣を交えたんだから十分だろう?」
軽口を言い合い椅子に腰を下ろしたラーマンに用意されていた食事を出してやる。
何も言わず食べ始めるラーマンに聞く。
「どうだった?シーナは。戦争なんてものをあの歳で経験した娘だ。昔と比べて、相当腕を上げたんじゃないか?」
「なんだそりゃ、煽ってんのかよ。1番変わったヤツがよく言えたもんだな。」
「僕は天才だからね、しょうがない。それで?」
呆れたような顔をしてラーマンは答える。
「確かに前にも増して鋭くなってるし、若干あった迷いもねぇ。だがそれだけとも言えなくもない。」
「と言うと?」
「愚直すぎんだよ。前と振り方や体の使い方が一緒だ。」
「まだ、“王”には合わせられないかい?」
「あれじゃ、ガッカリさせちまう可能性もあるな。まぁ、あくまで剣の腕だけで言えばの話だ。あいつはどっちかって言うと魔法の方だろ。」
「そうだけど、自領を勝利へと導いた幼き少女の実力を見たいってお願いだろ?シーナを下に見られるような可能性はできるだけ排除しないと。」
相変わらず妹愛の強い兄だなと静かに眼を燃やすアインを見つめ、最後の一口を運ぶラーマン。
「どれくらいあれば王の希望に添える剣を振れるかな?」
「...さあな。そもそも王サマの希望とやらが分からねぇし、どんな戦いをすれば満足するのか見当もつかねぇ。」
「ラーマンでも指導は難しいか。」
「ゴールが見えないんじゃな。あいつが今までにない、王が満足する剣を振れるようになるのをのを待つしかねぇよ。」
本当に何も知らない間に面倒なことに巻き込まれている妹を憂う兄ふたりの夜は静かにすぎていく。
━━━━━━━━━━━━━━━
翌日から1週間後の入学試験に向け、勉強と鍛錬を続けた。
勉強はアイン兄さんに教えてもらい、
鍛錬をラーマン兄さんに見てもらった。
2年ぶりと1年ぶりのそれは知らない言葉や歴史、知らない動きや技を見ることができ、なかなかに有意義な時間であった。
そして、今日。
ついにランブル騎士学園、入学試験当日!
「頑張ってくださいねっ!」
「落ち着いてやれば大丈夫だよ。」
「...まぁ、無理はすんなよ。」
アイン兄さんとラーマン兄さん、そしてミリアに見送られ、ランブル騎士学園に足を運ぶ。
正門前にて受付を済ませ、指定された教室へ。
しかしこう見ると、やはり受験者が多い。
貴族でなくとも騎士にはなれる。魔法士や学者にだって。
ランブル王国内でも随一と言っていい環境でそれになるための勉強ができるのだから、多くて当然ではある。
思い出すなぁ。
高校受験。それなりに高い倍率だったが、何とか通り、一応希望した進学ができた訳だが、
そこに待っていたのは夢溢れるような青春ではなく、
思ったより普通でなんにもない高校生活だった。
あの時、1人の昼休みを互いに共有した数人の友達は今頃何をしているのだろう。
いい職ついてるかな。無職かな。
それとも俺と同じ社会の歯車のひとつとなって、
散々回され壊れかけているだろうか。
いかんいかん。
試験前に不安になるような事考えるな。
アイン兄さんに教えてもらった勉強のメモを凝視し、
勉強も兼ねて、嫌な記憶を消す。
さっさと済ませて、今度こそ青春を謳歌してやる。
やる気に満ち溢れているのかいないのか分からないことを考え試験会場の教室を目指す俺であった。
読んで頂きありがとうございます!
社畜の思い出をちょこちょこ入れてますが、
自分の思い出という訳ではありません!