21 旅立ち
21話です!
1章最終話です!
よろしくお願いします!
その後、カリーナは屋敷内の地下牢へ幽閉された。
見張りにはマークとハンスが立候補してくれた。
俺は部屋のベッドで膝を抱えじっとしている。
当然屋敷内は大騒ぎだ。
はっきり言って静かにして欲しい。
初めて訓練をやらなかった罪悪感とか、
カリーナが裏切り者で、もう自分の知っているカリーナはいないのだと言う消失感とかで苛立ちが募る。
ふいにコンコンと扉がノックされる。
「シーナ、入ってもいいかしら。」
聞こえてきたのは母さんの声だ。
「ダメです...。」
今はひとりにして欲しい。そんな思いで拒絶する。
「そう。」
母さんはそういうと足音が遠ざかる。
再び自分の世界に入ろうとするとまた外から声が聞こえる。
「うえぇ!?シータ様何しようとしてるんですか!?ちょっ...待っt─────」
ドガシャーン!とでかい音が響きホコリが舞う。
扉の方に目をやるとそこには大きめのハンマーを持ってたっている母さんが。
「...お母様。何してらっしゃるのですか?」
「見ての通り、話をしに来たのよ。」
「見ての通りだと戦いに来たようにしか見えませんわ。」
母さんはハンマーを置いてつかつかと近寄り椅子に座る。
「で、話しがあるのだけど」
「いやそんなむちゃくちゃな...もういいです...。」
えらく強引な母さんは倒れた扉も気にせず話し始める。
「今日は紹介したい子がいるのよ。」
「はぁ...。」
「入ってらっしゃい。」
そう促され入ってきたのは
ゴルドリッチ脱出の際、疲れたみんなを鼓舞していた黒髪黒目の少女だ。名前は...なんだったっけ。
「さ、自己紹介なさい。」
「はいっ!えっと、こんにちは!シーナ様!ミリアと申します!よろしくお願いします!」
「よ、よろしく...?」
「この子を、あなた専属のメイドにすることにしたから。」
「え、そんな急に」
「あなたに拒否権はないわ。」
なんでだよ。元気があるのはいいが、今はなんかウザいだけだな。正直近くにいて欲しくない。
「カリーナのことは残念だったわ。あれはあなたが生まれた時からずっと傍にいたんですもの。あなたの気持ちも分かる。でもそうしていればなにか変わるの?そうしていれば、カリーナが戻ってきて、あなたは王都に行くことができるの?」
「...」
「今あなたに必要なのはこういう子だと思ったの。忘れろとは言わないけれど、辛いことを忘れさせてくれるアホでうるさい子が。」
「え?」
母さんの暴挙を見せられてアホだのうるさいだの言われるミリアちゃんの気持ちを考えて欲しい。
「...あなたは、それでいいの?」
「はい!私、助けて貰った時からずっとシーナ様に憧れてました!だから、こうしてシーナ様のせんぞく?メイドになれてとっても嬉しいです!」
カリーナと比べたら非常に不安になるような子だ。仕事まともにできるのかな。
「はぁ...、ミリアと言ったわね。あなたメイドの仕事はきちんとできるの?1口に身の回りの世話と言ってもやることは多いのよ?」
「それは...頑張ります!」
...ほんとに大丈夫かこの娘。
「...ついてきなさい。」
「ふぇ?」
「あなたの仕事を教えるから、ついてきなさいと言ってるの。」
「は、はい!」
なんで俺が世話役の世話をしているのか。
そんな光景を見て微笑んでいる母を尻目に部屋を出る。
くよくよしていても仕方ないのは言う通りだ。
それに今のままだと本当に王都行きを禁止されかねない。今それやられたら確実に心折れる。
俺は前を向いてミリアを引き連れながら、長い廊下を歩いていく。
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それから数ヶ月。
いよいよ俺の番だ。
あれからは訓練に勉強、それに加えミリアに仕事を教えたり、ミリアが踏んだドジの後処理を手伝ったり、
泣きついてきたミリアを慰めてあげる日々。
うん...まぁ、仕事自体は順調に覚えてきてるので。
旅立ちの朝になっても俺は変わらず訓練所で剣を振り続けている。
いよいよ王都の指南役の実力も越え、俺の剣技は仕上がってきている。
そういえば15歳になり、色々成長した。
背も伸び身長はだいたい155cmと行ったところ。
同い年のミリアが140位なのを考えると同年代ではかなり高い方だろう。
後、なんて言うか...その...む、胸?
の方も大きくなりました。巨という訳では無いが、
まぁ、平均くらい。1度自分で触ってみたら
あまりの現実感の無さに思考が停止し、気がつくと夢中で自分の胸を触る俺をミリアが顔を赤くして見てたという黒歴史を作っちゃったりした。
そんな思い出の詰まったこの地とも、もうお別れか。
いや少なくとも4年すれば帰ってくるだろうけど、
それでも感傷に浸るには十分な長さだ。
訓練所の中心で周りを眺めていると扉が開き、ミリアがひょこっと顔を出す。
「シーナ様、もうすぐ馬車が着くそうです。」
「わかった。準備するわ。」
訓練所を出る前に、振り返り一礼する。
さ、あまり長くいると間に合わなくなってしまう。
とっとと準備を済ませよう。
汗を流し、着替え、荷物をまとめて玄関へ。
集まった屋敷の人たちと別れの挨拶を交わす。
父はもう言葉を発することもできない程泣きじゃくっている。
「あなた、せめて挨拶くらいしてください。」
「ひぐっ...うぇっぐ...ジ、ジーナ゛、がら゛だにぎを゛づげでぇ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
「お父様、何言ってるか分かりませんよ。」
全員苦笑いである。
「シーナ。」
母さんは一見落ち着いている。
俺が答えると母さんはギュッと力強く俺を抱きしめてきた。
「シーナ。向こうでも頑張って。手紙とかたまにはよこして下さいね。あなたの活躍を楽しみにしています。」
「はい、お母様もどうかお元気で。」
しばらく抱き合いやがて離れる。
母さんの目は赤くなっている。
俺の視界はぼやけている。
目を拭い、今度は弟のリーンと妹のシエルに向かう。
2人とももう7歳。貴族としての振る舞いが身につきはじめており、成長したなと微笑ましくも、時の流れの速さに少し身を震わせる。
「2人とも、お父様とお母様をよろしくね。」
「はい!お姉様もお元気で!」
「ん。ちゃんと見とく。」
2人の言葉に大きく頷き、俺の方から2人を抱き寄せる。
両側の耳からすすり泣く声が聞こえた。
良かった。ちゃんとお姉ちゃんできてたようだ。
弟と妹の泣きは上の兄弟の涙腺を刺激しまくる。
これ以上はまずい、離れられなくなる。
危機感を覚えた俺は2人を離し、
次にベリルや兵士たち、メイドなどの使用人へ。
「ベリル、家族を頼んだわね。」
「応。任しときな、お嬢。」
元々長身だったベリルはヴォルフフォードに来て
栄養のある食事や整備された施設での肉体改造で
筋骨隆々な頼れるナイスガイになっている。
今のベリルならオーエンにも力で引けを取らないだろう。
そうこうしていると馬車が到着した。
荷物を乗せてもらっている間にもう一度皆に向かって
最後の挨拶をする。
「皆、お元気で。次会った時、向こうでの思い出を沢山お話しさせて下さいね!」
目に涙を浮かべながらも笑って送り出してくれる皆に一礼してミリアと共に馬車に乗り込む。
そうそう、今回、ミリア同伴である。
どうも向こうに別邸を用意したらしく、
ミリアもそこに住むらしい。嬉しい気もするし、
不安な気もする。
当のミリアは目を輝かせ喜のオーラを全身から眩いばかりに溢れさしている。
馬車が出発し、遠ざかっていく我が家を一瞥し前を向く。いや、前を向くつもりが下を向いてしまっている。
ヴォルフフォードの街に差し掛かり、やけに周りが騒がしいなと外に目をやると、道脇にすごい数の人だかり。
皆それぞれ
「気をつけて!」「頑張ってね!」
と言ってくれている。
一緒に見ていたミリアは嬉しそうに目を細める
「皆、シーナ様に感謝してるんですね。命をかけて故郷を守ってくれた英雄ですから。」
自然と笑顔がこぼれでる。
今度はしっかり前を向く。
そうだ。まだここからだ。
“元社畜”のご令嬢である俺の人生はまだ始まったばかり。
今世こそは良い人生にするために、
新たな地でも全力で生きるとしよう。
読んで頂きありがとうございます!
もう、文字数とか諦めました!
書きたいように書きます!!!