20 自分にとって
20話です!
よろしくお願いします!
ゴルドリッチとの戦いから数週間。
俺の身体はすっかり元通りとなった。
脇腹の傷はしっかり残ってはいるけど。
この歳でキズものですよ。まぁ今のとこ恋人だのを作る気ないからいいけどさ。
あれから何故か『紅蓮の戦乙女』なんて異名が広まっており、街へ出れば噂され、多くの兵士、騎士が修行をつけてくれだのなんだのと。
したわれるのは嬉しいし、強さが広まるのもいい。
でも毎日来られるのは非常にありがた迷惑である。
訓練所で王都より召還された剣術指南とガガガガガと激しく剣を交える。
正直、ラーマン兄さんとかアイン兄さんに修行つけて貰ってたため、あの二人より強くないと修行にならないだろとか思ってたが、
流石は王都の指南役。
太刀筋は見事だし、速さ、力もきっちり兼ね備えている。今はどうか知らないが、少なくとも王都へ行った時のラーマンよりかは強いだろう。
俺たちは井の中の蛙だったらしい。
まぁそのおかげで、自分でも分かるほどメキメキとうでは上がっている。
その日の稽古を終え、汗を流し、部屋に戻る。
勉強やその他作法なども毎日欠かさず行っている。
王都へ行って兄に恥を欠かす訳にはいかないので。
そろそろいいかな。
俺はちょうど部屋の前を通ったメイドにある人物を数時間後に呼んでくれと頼み、部屋の電気を消し
ベッドに潜り込み時を待った。
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シーナに呼び出された彼女は長い廊下を考え事をしながら歩いていた。
今日この日、自分は彼女を殺す。
なぜ、戦争が終わった直後にやらず、
正体もバレたこの日にやろうとしているのか自分でも理由が分からない。
そうこうしている間にシーナの部屋の前に到着する。
ノックし到着したことを知らせる。
「お嬢様、ただいま参りました。」
─────返事がない。
この時間だから寝ているのかもしれない。
どうであろうと、やることは変わらない。
静かに扉を開け中に入る。
部屋は暗い。ベッドを確認するとシーナが寝ている。
音もなく近寄り寝顔を見た。
紅蓮の戦乙女などと呼ばれる程の強さ、頭も良く、貴族としての作法も完璧にこなすその少女の寝顔は年相応の可愛らしさがある。
一瞬迷いを見せてから懐に隠し持ったナイフを握る。
遺体でも持っていけば、自分は“あのお方”の信頼を勝ち得、位の高い部下となり得るだろう。そうすればあのお方の作る世界で自由に動ける。そんな人間になれる。
葛藤をやめ、胸の辺りにナイフを持っていく。
そしてそれを突き立てようとしたその時、
「随分物騒ね。」
机の上のランプがともりベッドにいたと思っていたシーナが物悲しげな表情で見つめていた。
「カリーナ。」
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わかっていたし、覚悟は決めていた。
だが、実際目の当たりにするとやはりショックはある。
ベッドの人形に刃渡り20cm程のナイフを突き立てる動作で固まり、こちらを見つめるカリーナに言う。
「人形遊びが悪いとは言わないけれど、その遊び方はどうかと思うわよ?」
「...お嬢様。いつから私を疑っていたのですか。」
「最初に妙だと思ったのはゴルドリッチからの脱出。街についた時点で裏切り者がいることはわかっていた。その上であの貧困街の住人だけにしか伝わっていないはずの脱出計画が何故か漏れていた。」
この時点で怪しさMAX。というかほぼ確定してた。
「次にゴルドリッチとの戦い。あの戦いではおかしな点が2つあった。」
「それは?」
「ひとつは第1次作戦時、あなたの持ち場だけ火がついてなかったこと。」
当然予期せぬ事態で付けられなかったというのはあるかもしれない。
だが、それを見越して各持ち場に火属性魔法使いを4、5人は配備していた。
それでも最後まで火の手が上がらなかったのはおかしい。
「もうひとつは、オーエン。」
「...彼が?」
「あなたの持ち場はゴルドリッチ側に1番近かった。作戦開始後、私はそれなりに早くセルゲイのもとへ行った。その時オーエンはいなかったの。まぁ直ぐに来はしたけれど、彼が現れたのはゴルドリッチ側から。」
初手で火の手が上がらなかったのはオーエンが来たからというのは有り得る話だろう。
何しろ負傷者が1番多かったのはゴルドリッチ側だ。
だが、死者はほとんど出ていない。
オーエンが来たと言うのならそれはおかしい。
おそらくその場のものを気絶させたのはカリーナ。
ゴルドリッチと裏でつながっていたのなら、
オーエンが来ても生き残っていることに疑問はない。
戦わなかったのだから。
「しかし、分からないこともあります。」
「分からないこと?」
「えぇ。オーエンが執拗にあなたを追い回していた事。それから、非効率的なことをしなかったあなたが、終戦直後の疲弊した私を殺しに来なかったこと。」
「......」
「教えてくれる?」
「彼が私を狙っていた理由はひとつでしょう。」
「それは?」
「私が彼、黒鎧に初めて傷をおわせた人間だからです。」
...なるほど。それでか。
「もう20年は前の話です。その頃の私はランブル王国外の人間としてランブル王国の内情を探っていました。」
カリーナは思い出話をするように語り出す。
「ゴルドリッチを探っていた時、初めて彼と対峙し何とか一撃入れましたが私は負けた。そのまま、セルゲイに雇われ、彼の駒のひとつとなりました。」
ほぼ本能で戦っていたと思われるオーエンがカリーナを追っかけていたのはカリーナこそが彼の求めていた強者、あるいは強者になりうる存在だったからか。
「それから5年。私はセルゲイの指示でここ、ヴォルフフォードに参りました。ヴォルフフォードの弱みを掴み、戦いになった際、ことを有利に進めるために。」
カリーナが来たのは15年前か。
てことは1年でメイド長までなったのか。
彼女がどれほど有能な人材だったのか改めて実感する。
「これが私が裏切り者となったあらましです。」
「もうひとつの疑問に答えを貰っていないけれど。」
「そちらは私にも分かりかねますので。」
「...そう。それで、私をやろうとしたのはなぜ?セルゲイの指示かしら。」
「それは違います。」
「ではなぜ?」
「お答え出来かねます。」
「だったら、」
俺は傍に立て掛けていた剣を手に取り、鞘から抜き放つ。
「吐かせてあげるわ。」
切っ先をカリーナに向けて言う。
「いいでしょう。私も抵抗させていただきますよ。」
カリーナは手に持っていたナイフを構える。
数秒睨み合い、俺から攻める。
初撃の刺突をナイフで弾かれカリーナのカウンターを腕を叩いてそらす。
連続でナイフと剣を交え、カリーナを弾き飛ばすと、
そのまま忍者のような動きで広くも狭い部屋を駆け回るカリーナ。壁に机にベッドの柱。
あらゆる所を縦横無尽に駆け回り、攻撃を仕掛けてくる。
部屋が暗いのもあるが、それ以上にカリーナの実力が高い。防ぐので手一杯で攻める隙がねぇ。
地味にいくつか貰って体のあちこちに小さな切り傷ができてきている。
防戦一方の俺は何とか状況を打開するため部屋の隅へ移動する。
カリーナは飛び回るのをやめナイフで切りかかる。
俺は剣で受け止め鍔迫り合いへ。
見かけに寄らず筋力も高い。力押しで負けそうになる。
俺は蹴りを入れ、力の抜けた好きに剣を振る。
避けられたが、動きも止まった。
真っ直ぐにカリーナのもとへ。
すると彼女は右手から魔力を解放し、
土魔法にてもう一本のナイフを作り出す。
火属性の魔法はここじゃやれることは限られる。
どうする。明かりをともすだけじゃ勝ちには繋がらない...
カリーナは作り出したナイフをこちらに投擲する。
俺は咄嗟に小さな火の玉を作りナイフに当てる。
火の玉を受け勢いのなくなったナイフを掴み、カリーナに投げ返す。
持っていたナイフでそれを弾く。
俺は剣を逆手に持ち替え進む。
カリーナは一瞬次の行動に迷いを見せるも左腕をそのまま突き出してきた。
ドスという音が部屋に響いた。
カリーナのナイフは俺の右頬をかすめ、
俺の剣の柄尻はカリーナの腹に突き刺さっている。
ぐらりと力の抜けたカリーナを支えてやると
「本当に...強く...なられ...ま......」
最後まで言い切ることなくカリーナは気絶した。
これで、本当に全て終わった。
ヴォルフフォードを守りきることはできたが、俺はなにか大きな消失感に駆られていた。
読んで頂きありがとうございます!
多分次で1章完結になると思います!