15 その男、要注意人物につき
15話です!
よろしくお願いします!
まずい...。
セルゲイは開戦直後からずっと歯をガチガチと鳴らしている。
長いこと大きな戦いがなかったこの世界において、
物量戦は勝利のための有効的な手段であった。
戦いを忘れた現代の人々は圧倒的な物量にただただ飲み込まれ、いずれ敗北を宣言する。
今回もそうなるだろうと踏んでいた。
だが、敵はおよそ2,5倍の戦力差をものともせずに
戦局を有利に進めている。
戦いを忘れたなど嘘のように。
もうセルゲイに余裕はなく、周りを落ち着きなく見回し、ただ時が過ぎるのを待っていた。
ふと、前の肉壁の奥に紅い光が見えた。
その瞬間、
ドッカーンと爆発が起き、黒煙が視界前方に広がる。直前まで前にいた壁が自分の後方へ吹っ飛ばされた。
セルゲイは驚きのあまり固まり、首を手足を動かせずにいた。
やがて煙がはれ、1人の人影が目に映る。
金のゆるい縦ロールに鋭い蒼色の瞳。
身につけた鎧のせいか、その威圧感は14の少女とは思えないほど強く、真っ直ぐにこちらを睨みつける眼は
聞いていたよりももっと鋭い。
「シーナ・ヴォルフフォード...!」
その少女は名前を呼ばれるとニヤリと笑う。
「ごきげんよう。セルゲイ・ゴルドリッチ卿。随分寒そうに震えていますわね。暖かい火をプレゼントして差し上げましょうか?」
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ようやく姿が見えたセルゲイは鬼でも見たような顔でカタカタと震えている。
膝も笑っている。
真っ直ぐ策なしで向かっても抵抗なく制圧できるだろう。
少し拍子抜けだが、このまま勝たせてもらう!
セルゲイに向かって跳び、顎を狙って横薙ぎに剣を振るう。
そのでけぇ顎かち割ってやんよ。
剣が届くまであと1m。
大将を落とすことが戦争の勝利条件のひとつ。
味方は勝利を確信し、
敵は敗北の色を見る。
俺を除いて。
あいつは多分ゴルドリッチの軍でも指折りの、
あるいは一番の実力者だ。
このまま大将がやられるのをおめおめ見過ごすとは思えない。
セルゲイもあいつを自分の近くに置かないとは思えない。
剣が届くまであと50cm。
だが、俺の予想通り、その剣はガギンッと火花を散らし、俺の身体ほどでかい剣に防がれる。
やっぱりお前との勝負は避けられないか。
「ごきげんよう、大男さん。少し遅かったのではありませんか?」
「お前こそ。前程の速さがないな。その足は逃げにしか向いてないらしい。」
やつの剣で頬にかすり傷をおったセルゲイを挟んで睨み合う。
腰を抜かしたセルゲイの首をつかみ、後ろに投げ飛ばす大男。「へぎゃっ!」というセルゲイの声が聞こえた瞬間、止めていた体を動かす。
黒鎧の男は突き刺した大剣を振り上げ、
俺は左に半歩分体をずらし避ける。
右手に持った剣で突きを繰り出し、振り上げたことでむき出しになった脇を狙う。
黒鎧は巨体に似合わない速度で体を仰け反らせ脇への直撃を避ける。胸部にかすった俺の剣へし折らんと振り上げられた大剣が再び振り下ろされる。
俺は即座に剣を逆手に持ち直し地に突き刺す。
それを支えに体を浮かし、顔に蹴りを食らわす。
フェイスガード的なものはあれど鉄の塊がぶつかってきたのだ。
衝撃は大きいのだろう。
黒鎧の体はのけぞりよろける。
足をつけた俺は黒鎧がふらついている隙に奴の武器を落とすために手首を狙う。
下から狙った剣は微妙にずらされた鎧に当たり防がれる。やっぱ簡単にはいかないな。
やつも体勢を立て直し左拳を振り上げる。
後ろに跳躍し、距離をとると振り上げた拳をゆっくりと下ろした。
「なかなかいい動きですわね。」
「こちらのセリフだ。とても14の女子供とは思えんな。」
貼り付けた仏頂面が剥がれ落ち、ニヤリと挑発的な笑みを浮かべる俺と黒鎧。
一呼吸おき、剣を構える両者。
風がなる。かわいた風が燃える森から熱気を運び、
ゴウゴウと炎か風か分からない音が耳に届く。
同タイミングで動いた俺と黒鎧は一瞬のうちに体を交差させる。
その一瞬の攻防の決着は体を止める前に答えが出る。
俺の脇腹は浅くない程度に切り裂かれ、
黒鎧は振り向き真顔に戻った仏頂面でよろけた俺を見る。
「確かにお前は強い。だが、その強さの所以は速さだ。その小さな体では大した力もでなければ、俺に届かせる長さも足りん。」
俺もやつに向き直り、三度剣を構える。
「誰の強さが速さだけですって?」
左の手のひらより紅き魔力を放つ。
熱い火球に変化したそれをやつに向け放つ。
放つと同時に走り出した俺は左手に貯めたままの魔力から再度炎を生み出す。
大剣を振り火球を弾き飛ばしたやつを、魔力を繋げたままの火球にて攻撃。
一瞬目を見開き驚きをあらわにしたやつは瞬時に剣を前に持ってきて防御の体制をとる。
魔力を繋げた火球を若干引き戻し、体を空中で回転させ、奴の剣の先へ伸ばし、横から火球をぶつける。
ドンッと小規模の爆発がおき、土煙がまう。
ハァハァと肩で息をし、煙が晴れるのを待っていると、
「魔法の才か。なるほど、確かにやはりその歳でこれ程器用に魔力を扱うものはそう居ないだろうな。」
その声は未だ余裕の色が強い。
「だが、それでもやはり、俺には敵わん。」
俺が火球を放った奴の左側。
そこにはやつが支える分厚い壁が出現しており、
俺の炎はその壁を黒く焦がしたが、それ以上の力を見せず熱を失った。
読んで頂きありがとうございます!
世界中の人々よ!
オラに文才をくれ!乁(´・ω・`乁)クレクレ