11 帰るまでが旅行です-2
11話です!よろしくお願いします!
街を脱出して数十分。
森を駆けていた俺たちはマークの疲れた発言で一旦休憩を挟んでいた。
しかしよくこんな長い時間走ってられるな。
俺はラーマン兄さんに鍛えられたのでいいが、そもそも運動とかしてないであろうカリーナやリンネをおぶっているベリルはよく着いてこれたものだ。
人数確認のために振り返ると
息を切らしリンネの下敷きとなっているベリル、街の人々と平然と佇むカリーナ。
流石はぐう有能メイド長。ちょっとした場面でもその有能さはよく目立つ。ホント何者なんでしょうね。
「しかし、この調子だとヴォルフフォードまで少しかかるかもしれませんね。」
数十分走っただけだが、ゆったり走る馬車よりは早かった。問題は体力面だな。男性はともかく、女性陣はキツいこともあるだろう。
どうしたものかと考えていると1人の少女が皆を鼓舞しだした。
「みんな頑張ってください!あそこから出れたんだから!今までの苦労に比べたらこんなのへでもありませんよ!」
くりくりした黒い目と黒い髪を片付近まで伸ばしたその少女は、
俺と同じ程の小さな身体で自分はまだ行けるぞと言わんばかりにその場で走るようなジェスチャーをする。
「ふぅ、よしお前ら!ミリアがこう言ってんだ!お前らもまだ行けんだろ!」
「「おう!!!」」
それを見た大人たちも負けてられんと立ち上がった。
子供っていつでも大人の力になってくれるよね。
昔働き始めたばかりの頃、ウチの近所の公園でうなだれていた時に、大丈夫ですか?と優しく声をかけてくれた少女のことは今でも覚えている。
マジで嫁にしたいとか血迷うほどにそれだけで少し救われた。
「皆さん!出発しますよ!」
俺の合図で一行はヴォルフフォードへ向けてまた進み出した。
さすがに今回は歩いた。
━━━━━━━━━━━━━━━
「ふむ......うーむ......」
落ち着かない様子で部屋の中をグルグル動き回る黒髪の男性。シーナの父、ヴァリス・ヴォルフフォードである。
娘たっての希望でゴルドリッチ領の視察に行かせたが親としては当然心配だ。
兄ふたりの教えや彼女自身の努力もあって、既に並の兵士では太刀打ちはできないであろう実力にはなっているが、それとこれとは話は別だ。
もう日は上りはじめ、空は青みを帯び、太陽の光と混じりあった紫の色が見えている。
「あなた、そんなに唸ってもあの子が帰る時間が早くなる訳ではありませんよ。」
執務室のソファーで優雅に紅茶を飲むシータは夫をそうたしなめる。
「いや、しかしだな...」
「そう心配せずとも、あの子はもう立派な大人です。親孝行せずに私たちの前からいなくなることはありません。」
母親なのだから当然なのだが、シーナが行った後1番ソワソワしていたのは自分だろうにと、ヴァリスは心の中で呆れごとを言う。
今も手に持ったティーカップはガチガチと音を立てて震えている。
そんな妻から視線を逸らし窓の外を見やる。
「ん?」
中規模、いやかなり大きな集団が街を抜けてこちらへ向かってきている。ゴルドリッチの手先か?
もしそうならシーナは!?
心の不安が一気に大きくなりその場から動けずに向かってくる集団を見つめる。
ようやく人の形が分かり始めた頃、その集団の先頭に見慣れた姿が見えたのと同時に、
聞きたかった声が聞こえた。
その声が聞こえた途端、ティーカップを放り投げ、駆け寄ってきたシータが窓に手を付き十数時間ぶりに見た最愛の娘をこれでもかと言うほど凝視し始めた。
━━━━━━━━━━━━━━━
久しぶりに見たという気はしないが、さっき見たという気もしないヴォルフフォードの街を抜け、屋敷に向かう。
ギリ1日たってない時間日帰り旅行は思いのほか大変なものになったが、それでも見るだけで心を癒してくれる実家はやはり偉大である。
屋敷の門の手前に差し掛かったところで執務室の窓からこちらを見つめる人影が見えた。
父ヴァリスはやばいもんでも見たように目を開きこちらを見ている。
まぁいきなり娘がこんな集団引き連れて帰ってきたら驚きもするだろう。
少しでも安心出来るかと大きく手を振った。
「お父様〜!」
と大きな声で呼びかけると安堵の表情に戻る父。
そして後ろから突然現れ、バンッとすごい勢いで窓に手をつく母シータ。父はまたやばいもん見たという顔で母の横顔を見つめていた。
屋敷の門兵に事情を話し、全員中に入れてもらうとカリーナに皆を任せて屋敷の中へ。
扉を開けると慌てて降りてきた両親とほぼ1日ぶりの再開である。
その勢いのまま俺に抱きついてこられたので後ろに倒される。
「無事で良かった....」と俺に言ってくれた母の言葉に顔が綻びつつこの2人来年俺が居なくなったあと大丈夫かなと少し心配になる。
まぁいいや。それよりも今は報告とかしたい
「あの、お母様、お父様。そろそろ離れていただけると...報告したいこともありますし...」
「おぉ、そうだった。」
「ごめんなさいね。」
2人が離れると俺もその場に立ち上がる。
「それで、シーナ、外にいるもの達は一体...」
「お話しします。ひとまず執務室に。」
外で待機していたカリーナとベリル、リンネを呼び5人と護衛1人の6人で執務室へ向かう。
「じゃあ、早速聞かせてくれるか?」
執務室のソファーに座ると父さんがきりだす。
「はい。まず連れてきたもの達についてですが、ゴルドリッチ領の街にいたもの達です。」
「ほんとに?」
「ほんとです。」
「ホントにホント?」
「ホントにホントです。」
「それ大マz...」
「くどいです。」
疑り深くね?ほんとに話したいのそこじゃないんだけど。
呆れたようにため息をつき、話を再開する。
「ゴルドリッチ領へ向かっている時彼にあい協力して街の一角に住む人々と共に森を抜けて帰ってまいりました。」
「ふむ...君、名前は?」
「ベリル・ジルファード。俺の膝を枕にしてんのが、」
「初めまして、ヴォルフフォード卿。ベリルの母、リンネだ。」
身体は動かないのによく喋る人である。実は元気なんじゃないのこの人。
「あ、ああ。よろしく。」
父さんも若干引き気味である。
「まぁ彼らのことはわかった。次の報告を聞こう。」
「はい。まず例の件についてですが、噂は本当のようです。」
例の件とは、ゴルドリッチがヴォルフフォードを併合しようとしているという噂だ。
「そうか...。話し合いはできそうか?」
「無理かと。私をさらうのに失敗したあたり、普通に話し合いする気も無いようですし、強行手段にでる可能性が極めて高いと思われます。」
「やはり戦うしかないか...。」
天井を仰ぎ見る父さん。
わかっていても嫌なものは嫌なものだ。
「報告を続けます。次が重要なのですが。」
「う、うむ。聞こう。」
「屋敷内に裏切り者、あるいはゴルドリッチ領からの諜報員のような者が紛れ込んでいる可能性があります。」
読んで頂きありがとうございます!
まだいった方がいいかしら?
コメント、評価等気軽に言っていただければ!!