10 帰るまでが旅行です-1
10話です!よろしくお願いします!
ゴルドリッチ領、中央区。
そこにある宮殿はそんなに必要かと思えるほど大きく、
寂れた街の中にあるせいか余計輝いて見える。
そんな宮殿の玉座に座る男が1人。
私服を肥やしたその身体はだらしなく太っており、
傲慢さを貼り付けた顔に上にはねた無駄に立派な髭を備え付けている。
彼こそがゴルドリッチ領現領主
セルゲイ・ゴルドリッチである。
日も傾き始め暗くなってきた玉座の間。そこにに跪く人物が1人。
玉座の間の装飾である柱の影の影響でその顔は確認できない。
その人物は淡々とセルゲイに報告をはじめる。
「シーナ・ヴォルフフォードの確保は残念ながら失敗いたしました。」
「ふんっ、まぁよい。あんな使い捨てのゴミ共になんぞハナから期待などしておらぬわ。」
報告者の声は作っているのか分かりずらい。
4~50代くらいのようだが、低い声で喋っているせいか男の声にも女の声のようにも聞こえてしまう。
「して、その捉えそこねたシーナはどうした?」
「現在、街の西側、最下層の街に潜伏しています。そこの住人と今夜この街から脱出する算段を立てているようです。」
「そうか。...よし、街の警備を少し強化する。それから......」
セルゲイは報告者に指示を出し、夜を待つ。
シーナはヴォルフフォード領の民ですら見たことがない者が多い。それでも齢14にして将来どんなに美しい容姿なるかと言われるような少女だ。
手に入れば、ヴォルフフォードへの脅しの材料にもなる。男として、夜を楽しむのもいいだろう。
下卑た笑みを浮かべセルゲイは報告者を下がらせ、夕焼けの街を見つめた。
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そろそろ日が暮れる。
春下旬なら6時半くらいか。
時計持って来とくんだったな。
俺はある程度の脱出ルートを試案してカリーナの帰りを待つ。ベリルは先に戻ってきていた。
そして大体7時頃だろうか、カリーナが真剣な面持ちで戻ってきた。
「お嬢様、少し面倒なことに。」
「どうしたの?」
「若干ですが街の警備が強化されたようです。我々が来た際に使ったルートを使うのは少し難しいかもしれません。」
マジカヨメン。
俺たちがここまで来た道は裏路地と言うかかなり見ずらく、隠れていた。そして最短で出口まで行くのに割とそのルートを使う。
うーんどうしよう。
困った顔で唸っていると、カリーナから提案が。
「変わりと言ってはなんですが」
と手に持っていた丸めた紙を広げる。
それは簡易的ではあるが地図だった。
「これは……」
「私が確認してきました。警備がまだ手薄な場所も。このように通ればまだ安全に進めるかと。少し遠回りにはなってしまいますが。どうでしょうか。」
短い時間でよくそこまで。
「ベリル、どう見ますか。」
俺は街に詳しいであろうベリルに聞く。
「うん、悪くねぇと思う。代わりの道としては十分だろう。」
「私は街をほとんど見れていません。来る時にチラチラ確認した道順やそこに繋がるだろう道は予想できますが。」
「そんなんで脱出のルート考えてたのかよ...」
「繋がっていない道というのは案外無いものです。ベリル、カリーナ、あなた達に先導を任せます。」
「了解だ。」「分かりました。」
「それからカリーナ。土魔法持ちのあなたに頼みたいことが。」
俺はカリーナに指示を出し作戦決行の時を待つ。
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深夜11時。いよいよ始める時間だ。
事前にベリルが伝えていた通り、ベリルの家の前に多くの住人が集合していた。
1人だけ知り合いがおらず、伝えそこねたらしいが、おそらく仕事に出ており夜には帰ってくるだろうとの話だったが、残念ながらまだ現れていないようだ。
待つ訳にも行かないので出発させる。
かなりの大所帯だが順調に進めている。
そしてもう少しで出口に着くという時、
「おい。」
と脇道から声が聞こえ全員の肩がビクッと震える。
壊れたロボットみたいに揃って首を向けるととそこには、
ボロボロの鎧に痩せた体躯の男。
その顔を見た瞬間ベリルが
「バース!お前どこいってたんだこんな時間まで!」
と小声で言う。
バース?もしかして伝えそこなったという知り合いか?
バースと呼ばれた男は疲れた顔でため息をつく。
「仕事がちょいと長引いてな。で?お前らはここで、そんな大人数で、何してんのよ。」
「はじめまして、バースさん。私はシーナ・ヴォルフフォードです。今リンネさんやそのお知り合いの方々と共にこの街の脱出をしています。あなたも参加されますか?」
「何!?この街からの脱出!?ホントに!?」
驚きで疲れが飛んだ様子のバースはウキウキで隊列に加わる。ちなみにリンネはベリルがおぶっている。
少し進んで出口が見えた頃、
「やっぱりいやがったな...」
ベリルがめんどくさいといったような感情まじりの声を出す。
前を確認するとそこには出口の前で仁王立ちしている全身黒の鎧を身にまとった大男がいた。
ベリルから事前に話は聞いていたが、あいつがそうか。
明らかに強者なその男は俺の身長程の大きさの剣を抜くと声を張り上げる。
「曲者だああああああああぁぁぁ!!!!!であえぇぇえええええ!!!!!!」
「時代劇でしょうか。」
「何言ってんだあんた!?どうする!?ヤツにはバレてる!このままここにいても脱出は難しくなるだけだ!」
「カリーナ!」
「承知しました!」
俺はカリーナに指示を飛ばす。
指示を受けたカリーナは土魔法を発動。
すると地面まで伸ばしたカリーナの魔力から壁が出現し、俺たちのいるルートと出口までの直通の道となる。
俺はすぐに先頭に立ち、背中に貯めた魔力を解放する。
「全員走りなさい!」
その瞬間全員が出口に向かってかけ出す。
それを見た黒鎧の男は通さないとばかりに剣を構えて相対する。
俺は背中の魔力をありったけ使いでかい炎弾を生成し突っ込んでいく。
そして相手の剣の間合いギリギリで炎弾を繋げた魔力で動かし横から男にぶち当てる。
そのまま魔力の繋がりを切ると炎弾は男と一緒に右にすっ飛んでいき壁に激突した。
その瞬間爆発を起こし土の壁の一部をぶっ壊して男はさらに向こうへ弾き飛ばされていった。
俺たちはそのままの勢いで見張りの兵を津波に巻き込んだようにもみくちゃにして森に走っていった。
読んで頂きありがとうございます!
今日は2話ぐらい投稿できるでしょうか
頑張ります!期待はしないで!