第4章 熱が巡らない──地球の多臓器不全という未来像
地球は、微熱を患っている──
そう思っていた人も多いかもしれない。
気温が1℃、あるいは2℃上がった。
その変化は、たしかに大きなものだ。
けれど、それだけで「沸騰」という言葉が必要だろうか?
本当に、ただ“熱い”というだけなのだろうか?
……実は、違う。
本当に恐ろしいのは、“熱の量”ではない。
恐ろしいのは、**“熱が巡らなくなること”**だ。
地球には、本来、熱を運ぶ構造がある。
表層から深層へ。赤道から極へ。
風と海流と密度の差によって、熱と塩と栄養と炭素が、
全身に“めぐらされる”ことで、気候と命の秩序が保たれている。
その循環の柱の一つ──
**大西洋子午面循環(AMOC)**もまた、いま大きな揺らぎにある。
北極やグリーンランドの氷が解け、
冷たく軽い真水が大量に海に流れ込むことで、
北大西洋の“沈み込み”が阻害され始めている。
それは、ちょうど南極で起きている構図と、鏡のように重なる。
熱と塩と炭素が、沈み込まなくなり、運ばれなくなり、めぐらなくなる。
これが意味するのは──
地球の自己調整機能、つまり**“循環という血流”の停止**である。
体温が1度上がっても、人はすぐには死なない。
けれど、血流が止まれば、臓器は機能を失い、生命は崩れる。
地球もまた、そういう構造を持った“生命体”なのだ。
海流が止まり、熱が偏在し、大気が不安定化し、
雨の降る場所と乾く場所が極端化し、命の座標が失われていく。
これは、単なる“温暖化”ではない。
これは、“巡らなくなる地球”が迎える、構造的多臓器不全なのである。
そして、それはもう始まっている。