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第1章 かき混ぜても冷えない海──“表層異常”の向こう
近年、異常気象の報道で耳にすることが増えた現象がある。
「台風が通過しても、海水温が下がらない」
本来、台風がひとつ通れば、海面を激しくかき回す。
その過程で深い層の冷たい水が引き上げられ、表層は一時的に冷やされる。
これにより、次の台風が生まれても、少しだけ勢力が落ちる──
そんな“海の自己調整機能”が、かつては確かに働いていた。
ところが、今は違う。
台風が去ったあとも、
海面はなお、熱を保ち続けている。
次の台風がそのままの勢いでやってきて、
まるで“バトンを渡すように”災厄が続く。
その原因は、ただの異常気象ではない。
それは、海そのものが変質しつつあるという兆しなのだ。
かき混ぜても冷えない──
それはつまり、海の中にある冷たい水の層が、
もはや冷たくなくなってきている、ということを意味する。
熱が“深く”まで染み込んでいる。
これは、海が単に“温かい”という話ではない。
“熱が逃げなくなった”という話なのだ。
そしてそれこそが、地球の異常の本質であり、
この物語の始まりでもある。