プリペアキリング
5話
「ノア、今日は課外授業にしよう。30秒でしたくしな」
突然、ドアを開けたオズが無理難題をおっしゃる。ノックくらいしろよ。男磨きしてたらどうすんだい。
「課外授業?」
己は着替えをしながら聞く。
「そう、南の方に森があるでしょ? そこにいきます」
「ファイドに危ないから行ってはダメって言われてるんだけど」
「お前はいいよ。今日は私も行くし」
「自慢じゃないけど、僕が怪我したらめんどくさいことになるよ。ファイドが。先生相手でもキーキーうるさいんじゃないかな」
「ファイドからは(渋々)許可をもらっています。無断で連れ出したらうるさくなるだろうってことはこの3カ月で身に染みてる」
「過保護だよねえ」
「ほんとね。お前の年齢を考えたら普通の対応ではあるのだけれど、お前を他の子と同様に扱うのは成長機会を奪うことになるから、ファイドの教育方針には反対なんだなあ」
ファイドはいい親であるとは思うが、己の生まれやこうやってオズに師事を受けていることを考えると、戦いとは無縁ではいられないだろう。それなら、今の内から鍛えておいた方が良いと、オズの意見に賛成だ。
「課外授業っていっても何するの?」
「実物の魔物を、私達が相手にしてきたものの一端をみせてやろうかなと」
「結構奥まで進むんだね」
「あれ、実は怖いんだ?」
「そりゃ、怖いよ。帰り道が分からなくなるのが」
そりゃ、クマは怖いけれど森の中で迷子になる方がよっぽど怖いだろう。
「分からなくなったら、空に魔法を打ち上げるなり、木々を刈りまくって脱出すればいい。お前の魔力量ならば糸目をつける必要はないでしょう?」
己の魔力量は多い方だ。まだ子供であるため、これからも増えていくだろう。他人の魔力量は心の強さ同様、ぱっと見で分かるものではないが、先生曰く、彼女の魔力量は今の己と大差ないらしい。その割には魔力消費の激しい大胆な戦い方をする。
「オズ」
風に乗った獣の匂いがつんと鼻につく。前方の草むら、あれで隠れているつもりなのか。
魔犬、ヘルハウンド。
「ここらの魔物にしちゃあ、強めの奴が出てきた。c級冒険者でも手間取る強敵。危なくなったら助けてあげるから、相手してみ」
「一人で?」
「そ、一人で」
「いけっかなあ。武具生成」
己は腕まくりをし、得物を生成する。土魔法で第四位階に属する魔法だ。敵性生物は5体、相手方も臨戦態勢、気は引けるが先手は譲らない。
「吹き抜けるは妖の艶やかなため息、鎌鎌鼬
風、第三位階魔法。一体のヘルハウンドが無数の斬撃によって血しぶきをあげ、力なく倒れる。
それを見た仲間のヘルハウンドが怒り狂い、己に襲い掛かる。直情的になった魔物は脅威ではあるが、それ以上に容易くなる。しかし、これは畜生と関係ないな。
「桜楼閃き」
ヘルハウンドの体を一刀両断するはずの一撃が体の中央で刃が止まる。
「やっぱ、苦手なんだよな」
ミットガルド流壱ノ型、桜楼閃きは横なぎの鋭い一閃、今の状況で完璧な一撃を出せたと思ったのだが、両断はできず、また刃を抜く暇はない。子供故の身体能力、技量不足、即席の得物。苦手な剣技だけで戦って怪我はしないなどと舐めてかかれる相手ではない。
己は剣を捨て、空になった両手で手を合わせ、印を結ぶ。
「土槍」
地面に手を置くと、辺り一面から槍が地面から突出する。その槍は3体のヘルハウンドの体を貫き、自由を奪う。
Garururuと低いうなり声、うち一体が貫かれ自由を奪われながらも、体をよじり、血しぶきをあげてなお、己の命を害そうと試みる。
「鎌鼬」
オズが己と同じ魔法を死に体のヘルハウンドにかける。すると、一撃でヘルハウンドの首が胴体と泣き別れ。
「さすが、仕事が速い。状況判断も完璧、マイナスポイントは得物を失い不利な状況になったことと鎌鼬の練度不足かな」
「先生の教えが悪いんですよ。風属性以外は先生に教えてもらう前と段違いと言えるほど練度が上がっているけれど、風魔法に関してはむしろ下手になったくらい」
痛いことつくわねと続ける。
「得意属性だから、出来ない人の感覚が分かりにくいのかも。他属性はきちんと努力して上手くなったから、教え方も分かるのだけれど」
一撃で両断するオズの魔法と無数の切り傷を作っただけの己の魔法、詠唱の有無、そして己の方が魔力消費は多いにも関わらず、結果がこうも違う。ここを突き詰めていくのが素振りを繰り返す剣士同様、魔法使いの基礎能力特訓と言える。
「今の僕って対外的に見てどれくらい強い?」
「滅茶苦茶強い。普通の大人が何十人とかかってもお前にはかすり傷を負わせられるかどうか。ジェームズに勝てる日もそう遠くない。十を迎える前に勝つことも出来るでしょう」
「おお? そんなに早く父を抜かしてしまうっていうのも気まずいな」
「そんなくだらないこと気にしない。生まれ持ったステージが彼とは違う。お前が比べるべきは私やアルス。ある程度強い力を持ちながら、慢心する奴が一番死にやすい。それなら、弱い方がマシ」
オズからもっともなお叱りを受ける。生を受けて間もないが、何となく分かってきたことがある。強いやつはアホみたいに強い。一般人が己のことをそう感じるように、己もそう感じるような強敵ってのも存在するのだろう。オズも理不尽に強いやつに分類されるのだろうが、話しぶりからもっとえぐいやつも存在するのだろう(実際、法陣なしでその強さだし)。そのひとつの例が。
「アルスって言うのは最後のパーティーメンバ―なんでしょ? オズより強いの?」
「ん~~、どっこい、どっこい?」
なるほど、オズがそういうってことはアルスって人の方が強いな。
「なんでオズ達はファイドとジェームズとチーム組んでたの? 足手まといじゃない?」
「実の親に足手まといって……、泣くよ。ファイドに関しては私の不得意な治癒魔術が上手かったから、前線でバリバリ活躍してもらわなくても重宝する。ジェームズは……、まあ、うん。役割もアルスと被ってて下位互換っちゃ、下位互換なんだけど」
オズの方がよっぽどひでえ。
「リーダーシップはあった。正直さ、私動ける魔術師じゃないから、ジェームズレベルでも前衛は必要だし。そのー、クエスト受注とかその他諸々外面的な問題を委託出来るってのはかなり助かった」
「つまり都合がよかったと」
「否定はしないけど、ジェームズは絶対必要だったよ。後からアルスを連れ込んだのも彼だし。コミュ障の私、割に合わないクエストばかり受注しようとするアルス、ド天然なファイドをまとめ上げるにはジェームズくらいきっちりした男じゃないと。それにジェームズもギルド内じゃ、上澄みだから、お貴族様だから、全然基礎能力高いから。お前の実力が血筋考慮してもバグってて、なおかつ、ジェームズもファイドも大貴族にしちゃあ、物足りないってだけ」
オズが慌ててフォローする。
「ともかく、自分の方が強いからって両親はもちろん、他人を軽視しちゃあ、ダメだよ。私もそういう覚えがあるから」
「心配せずとも大丈夫、確かに武人として彼らのことを尊敬することはないのかもしれないけれど、親として個人としては認めていて、尊敬してる。他人は、まあ、分からないけれど、両親を軽んじることはないよ」
「ちょっと含むところはあるけれど、うん、十分いい子と言えるでしょう」
わしゃわしゃと己の頭を乱暴に撫でる。
「私やアルスと比べ精進しなさいとは言ったけれど、人と比べるというのはあまり良くない行為かもしれない。劣る人を見下し、逆に優れた人に劣等感を覚えるとどうしてもひねくれてしまう。同世代の少年少女と目線を合わせて遊ぶお前を見ていると、しみじみそう思わされるよ」
だからってわけじゃないけれどと続ける。
「もし、子供たちがこの森へ入ろうってことになったら、止めるのではなくて、ついて行ってあげる方が利口な選択かもしれない。なんせ、ガキって生き物はやめろと言ったことを必ずしてしまうもの。魔物が少なくなった現在、魔物による死亡事故で多いのが子供だけで森に入ること。そうでなくとも、道に迷うことも一般人からしたら致命的、お前が目付け役として付いてやれば、滅多なことは起こらないでしょう」
今日ここに連れてこられたのはそんな深慮があったのか。
「先生ってぱっと見、子供嫌いそうに見えるけど、結構好きだよね」
「確かに昔はガキは嫌いだったけれど、それ褒めてる?」
「褒めてる、褒めてる。強さ云々関係なしにオズに家庭教師をやってもらえて良かったよ。その調子で先生やっていけばよいと思うよ。励みなさい」
「エラそーに。でも、正直言って嬉しいよ。教え子にそんな風に言ってもらえるのは」
魔物が存在するようなファンタジー世界だけど、本筋に絡んでくることは少なさそう。ギルドについても今のところ深堀していく予定はないです。オズは人工キメラと戦う予定はある。