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ノアの方舟  作者: 望月真昼
霧隠れ編
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多面チェス その1

30話


入学式を終えて、当日中にクラスというものが割り振りられた。それは特待生が集められたアストレウス率いる問題児クラスとはまた別の物であり、一年を通してともに励むクラスというものでもない。単にレクリエーション用の紅組、白組と言ったような組み分けだ。

今年度の入学者数は184名。例年のボーダーが200名ほどと言われているので少し少ないくらいか。どのグループも中々激しい戦いを見せたようで、とりわけ外れだったのはメヌのグループで生存者が彼女一名というのも脅威だが、その内容も悲惨なものだったという。入学からして一番目立っているのがアーサーではなく、彼女というのは悪目立ちしすぎだと感じる。

先に述べた通り、入学者数184名、ちょうど4の倍数なので4つのグループに分けられた。水組、金組、地組、火組という4つの区分。水金地火木土天海冥で分けられている。

おそらく元居た世界と地続きなのだろう。太陽と月があるし、大分変形しているさそり座に見えなくもない星座もあるし、惑星の概念もある。天王星と海王星は教科書から消えていた。おそらくというのはこの世界に己以外の転生者がいることがほぼほぼ確定しているため、彼ら彼女らがそういう概念を伝えた可能性は大いにある。特に元居た世界に共通する文化や言葉は消えていたり、消えていなかったりするものもあるので、それらは大体、彼ら彼女らが持ち込んだものだろう。

云千年単位で変わらない星座までぴっちり合っていたらほぼ確なのだろうが、星座は明るくない。所詮、地方国公立程度の頭なのでさそり座っぽいなくらいしか分からない。

がらがらと建付けの少し悪くなった戸を開ける。和気藹々とは言い難い雰囲気の教室であったが、己が入ると一層雰囲気が悪くなる。

ひそひそとこの教室のリーダーとなる己を値踏みする声が聞こえる。そんな彼らを己もまた値踏みする。一目、うまく利用できそうな生徒をちらりと見まわす。すると、一人だけ知っている顔を相まみえた。

「ポテトヘッド!」

知った顔があって嬉しそうに彼のもとに歩を進める己とは対照的に、目立ちたく無さそうに目を覆う彼。

「嫌な愛称だな。別に坊主でもないのに……」

「故郷にミスターポテトヘッドっていう福笑い的なキャラクターがいるんだよ」

「へ~。確かにちょっと滑稽な法陣ではあるよな。結構便利ではあるんだけど」

「じゃあ、ミスターって呼ぶことにするよ」

「全人類の半分が当てはまる愛称をどうもありがとう」

「どういたしまして!」

皮肉たっぷりの謝辞に元気よく返事する。

「くっそ。ガキはやりづらいな」

「君が私たちのリーダー? また子供、どうなってるんだか」

ノアに声を掛けるのはメヌエットと対戦したリタ。

「メヌの所の奴か。良く合格したな」

「今年は生存者が少なすぎて、リタイア組にも席が回ってきた。あの子の組に振り分けられたときは絶望だったけど、弟にも回ってきたし、結果オーライ」

ミスターがきちんと使える駒だというのは既に知っている。リタという女もメヌの作り出した地獄を抜けてきた強者。比較、個性に癖もなく、実力も確か。駒としては悪くない。

「オリエンテーションは3日後。それまでに統率をまとめておけということだと思うけど、取り敢えず、ご飯でも行く?」

このオリエンテーションは戦闘力ではなく、カリスマ、上に立つものとしての統率力を図る試験。

ノアはシンプルに友好をはかりに、アーサーには歯向かうものなんてそもそもいない。ピットは統率を放棄、メヌエットは……。


31話


オリエンテーションは当日に発表され、当日に施行される。

今年の試験官はオズが務めることになったらしく、彼女が声高にルールを説明する。

「まず、先に行っていた通り、魔法を行使することを禁ずる。たかだか、オリエンテーションでそんな真似しないとは思うが、紳士に頼む。最悪、退学になるので、ルールの範囲内で戦ってほしい」

戦闘目的ではないので、魔法の行使は当然の禁則だ。

魔法がオーケーなら、インチキを競う戦いになる。

「早速、ゲームのお題を発表する。今年はチェスを執り行う」

前年は影鬼、今年はチェスか。

影鬼ならば、個々人の戦略や意思も図りやすいと思うが、チェスは一対一の頭脳戦、どのように全員参加の色を出すのか。

「チェスの基本的なルールはここでは割愛させていただく。クラスの友人にでも習っておいてほしい。今回、執り行うチェスも基本ルールは同じだが、一つ特徴的なのが、早指しということだ」

チェスか、チェスは苦手じゃないぞ。前世でレート1250くらいの実力はあった。

「チェスの自軍の駒数は16。キングは特待生が担当して、残りが15。それを総当たりできるように各クラス3つ用意してもらう」

15×3+1で46。46×4で184名ぴったりか。キング全てを特待生が担当するというので、若干数を誤魔化しているが、よく生徒数に合わせたゲームを見繕ってきたものだ。

「チェスの駒は生徒一名、一名が担当してもらい、一人頭3万円の小遣いを学園から入学祝いとして贈呈させてもらう」

46×3で138万円。いや、ルール的にキングは一人で9万円換算だろう。144万円を一クラスに贈呈してくれるのか、太っ腹だ。

「お察しの通り、相手の駒を取れば、戦力を削ぐのと同時に相手の所持していた金額をも奪い取ることが出来る」

性格の悪いゲームを思いつくなあ!

滅茶苦茶、楽しそうじゃないか。それにもっと性格の悪いのが。

「相手の所持していた金額、つまり取った駒が先に5つ駒を奪っていた場合、元々の3万円合わせて、18万円を一気に奪うことが出来る」

そうだろうな。

つまり、60万円所持ているポーンはクイーン、いやキングよりも価値が高い駒になるかもしれないということだ。一般生徒にとっては。

「基本のゲームフローはこの仕組みを利用して小遣いを奪い合う駒取り合戦。一応、勝利報酬も存在している。一クラスに勝つごとに該当クラスに10万円、最大で30万円を追加報酬として獲得できる」

10万円、意図しているんだろうな。ショボ過ぎる。

駒を3つ取ればほぼペイできる。

「大まかなゲーム性は説明し終えた。次は早指しといった詳細な仕様を発表する。一クラスに一時間半の持ち時間が与えられる。それを3つの戦場で適当に使用する。持ち時間が無くなった時点で当該クラスは即終了。持ち時間が先に無くなれば敗北というわけでは無いが、相手クラスとの戦況、持ち時間の差によって、教師側で勝敗を決定させてもらう」

相手の持ち時間切れを狙った千日手にはならないということ。早指しであるなら、そのゲーム仕様は当然の物だ。

「また一つだけ、特殊役としてジョーカーという役職を配置してもらう。ジョーカーは重複役でキング以外のどの駒にも配置できる。その役割はジョーカーを複合する駒が取られた場合に、それは戦力、金額、持ち時間10分を奪われるというもの」

これはきつい。

キングを取られるだけなら、その試合は負けだけで済むが、ジョーカーは他の2つの試合にまで影響を及ぼすどころか、10分奪われるということは、他のクラスにも迷惑をかけることになるな。

「そして、一番の重要ポイントは、キングもとい特待生はクラスメイトと相談するなりして、駒に動きの命令を下すことが出来るが、指示された当該生徒はその命令を拒否することが出来るということだ。また、その拒否に回数制限などは存在しない。棄却された場合、キングは何度でも次の手を命令し続けないとならない」

来たな。駒取り合戦と聞いた時からあると思ったそのルール。

このルールだけで、膨大な量の棋譜が消えうせた。

捨駒は多用できない、もっと言うなら、勝たせる気がないんだろ?

「最後に、この総当たりのチェスの勝敗によって総合順位が決定され、その順位によって特待生らはその授与される階級が決定されることを告げる」

やっぱり、勝たせる気がない。


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