不殺の証明 その2
この試験、生き残ればいいというものじゃない。
それは強者の思考だ。
同じような成績の凡人が幾人もいたとして、合格するのは最後まで生き残った方だろう。
誰も上位で受かろうとしているわけじゃない。
だから、名も知らぬ誰かと共闘するのは愚策じゃない。
そのように思考しているのはトマス・ロックベル。
入学して後、ノアからその法陣からミスターと愛称付けられるので、ミスターと呼称する。
だから、ビビった。
俺の法陣を通して、相方から助けを請われて向かったら、既に戦闘不能になっていたことに。
「3分も経ってないだろ……」
「あ~、お仲間?」
腸を避け、脇腹を剣で刺しているのは見た目、十歳行くか行かないか程の子供。
こちらに振り向き、悪魔みたいな笑みを浮かべている。
よく覚えている。
警戒していた。やはり、普通では無かった。
すぐに相方を見捨てて、逃げの体勢を取る。
「逃げないでよ」
第三位階魔法・不知火。
「無詠唱? 印もいつ結んだ?」
神秘的ともいえる発火するオーブの塊が、ノアを襲う。
「の割には、威力もなかなか!」
ノアはムラクモで飛来する火玉を掻っ切る。
あの氷と違って、紅孔雀も、九重も必要ない。
「良く逃げるもんだ」
ノアは素直に感心する。
ミスターは風魔法で推進力を得て、逃げている。
中途、中途方向転換などで細かな魔力操作を求められているはずだ。
己でも詠唱の後追いが必要なほどの緻密すぎる魔力操作。
印すら結んでいないとは、何か種があると見た。
「けどまあ、逃げるってことはそれまでの相手ということだろ」
また出た。
他者を低く見積もる、ノアの悪癖。
第六位、第三位にあれだけボコられてまだ直っていない。
自分より優れた強い人間は山ほどいるのに、弱者の牙も決して侮っていいものではないのに。
「砂塵」
第五位階魔法、半径十数メートルに砂嵐を起こすだけの魔法。
直接的な攻撃力こそないが、緻密な魔法コントロールをしているのに、周囲に他者の魔法で覆われちゃ、翅ももげる。
砂嵐が収まるころには。
「良く逃げた方だと思うよ」
少なくない体格差だが、ノアの右腕はミスターの喉を締め上げ、持ち上げていた。
「魔術師の弱点は喉か、肺だが」
喉を締め上げることで、彼が口元まで引き上げていた襟首がずり落ちる。
「口が無い!?」
よくよく見てみると、右耳も右手もない。
多分、先天性のものじゃない。
のっぺら坊のような、そういう能力か。
「面白い!」
新しい玩具を見つけたかのように年相応の無邪気さを見せる。
どこか、違うところに右手も口もあるのだろう。
そこで詠唱と印を絶えず行っているんだ。
ノアが考察もとい、絞殺に営んでいる最中。
「同直線上まで引っ張り出せた」
首を絞められた掠れた声でそう言った。
そこはノアと対面した場所と、建物一つ挟むことのない開けた空間。
ミスターは残った左手で結界の印を結ぶ。
そして、最初に残してきた右手でも結界の印を結ぶ。
結界は基本、防御に使用される。
だからこそ、それはどんな攻撃にも耐えるために、強く、固くならないといけない。
故に貫通力がある。
「取り敢えず、右腕は貰うぞ!」
右腕と左腕の同直線状に結界を展開して、ノアの右腕を断とうとする。
「ああ、言ってなかったね。僕も組んでるんだ」
目深にフードを被った碧眼が迫りくる結界を切り伏せる。




