第六の角 その2
話合いの最中に幻術を掛けられていたか!?
己が幻術にかかっていないのは、おそらくより面倒そうなピットにかかりきりだったからだろう。
「世界を焦がす禁忌の役杖。第三位階魔法・厄災の枝」
第三位階!?
普通に出来るタイプかよ。
目の前の男の手には炎の剣が握られており、それを振るうと摂氏500度はくだらない灼熱が襲い掛かってくる。
「八首の龍屠る一撃。第二位階・天羽々斬」
己も水で出来た剣を握り、振るう。二つの魔法がぶつかり合うが、位階が高く、それも炎に対する有利の水をぶつけられたからか、己の魔法の方が押し合いに勝り、炎を飲み込む。
息もつかぬ間に魔法使いでも、幻術使いでもない違う男が懐から何かを取り出し、こちらに投げてくる。
暗器!?
しかも、己のお顔どんぴしゃり。
第三位階魔法に、暗器。こんな小さな子供を相手に本気で殺しにかかってきているのが理解できた。
飛来する暗器を体を後ろに傾けることで回避する。飛来する暗器はもちろん、ひとつではない。
重心が後ろにかかることで体勢が崩れるのをそのまま、バク転をして正面に体制を整える。その際に、大袈裟に地を蹴り上げる。
霧湿る森ということもあって簡単に土砂を蹴り上げることが出来た。
「塵芥の盾」
舞う土砂は宙に固定され、その土砂を基点に簡易な結界を張り、続く第二射、三射を受け止める。
「仕方がない、来いムラクモ!」
小さい己の体では剣を持ち運ぶことはかなりの負担であるので、ムラクモは馬車の中に置いている。
所有者の呼び声に応える忠心の剣。
その特性を活かして、メヌエットらとの合流という選択肢も考えていたのだが、これで潰えた。
「妖す剣・九重」
「冗談、キツイ!」
己が亡きフラテルの技を使えることに絶句する暗器使い。
飛来する暗器は全部で6つ。内3つは既に対処済み。
残り3つと、横槍の火球で肆撃。
距離を詰めて、暗器の男との鍔迫り合いで参撃。
最後の弐回で彼奴へのダメージを与える。
浅い!
ほぼ袈裟切となってしまったすぐに、少しジャンプして鳩尾を蹴り飛ばし、自らの失態をカバーする。
被弾前提の体の逸らし方が初見のそれではない。
白眉と関係があったのは確かなようだ。剣主体で立ち回るのは不利か? それとも戦意を挫かせるのには好都合か?
先の魔法使いがもう一度魔法を行使しようとしているのが、目についたので先と同じように地を蹴り上げ、土砂を掬い、結界を展開する。
「塵芥の盾」
「芸がない! 鎌鼬」
塵芥の盾を砂を操る砂魔法と判断して、レジストに最適な風魔法で蹴散らしに来たか。その着眼点や良し。
しかし、己の魔法は単純な土魔法に属さない。己の土砂は結界で強固に固定されている。風魔法でのレジストが最適とは限らない。
「なんで!?」
鎌鼬が完璧に防がれたことに驚愕する魔法使い。
「今度はこっちから。砂朽」
これも己のオリジナル魔法。フラテルの重力魔法から着想を得たものである。
塵芥の盾で使用した結界の固定を解き、弾丸として再利用する。
一方向へ砂の雨を堕とす攻撃。
「痛いが、耐えられないほどじゃあ」
魔法使いは結界での防御が不得手なのか、諦めて腕で顔などの致命部分を防御する。
そう、人体の急所さえ守っていれば、耐えられないほどの攻撃じゃない。レジストが間に合わないなら彼の判断は至極正しい。
だが、今更そんな雑魚魔法使うわけもない。
「朽ちろ」
彼の体内に入り込んだ砂粒が己へと引き戻されていく。
砂粒ほどの大きさの物でも外から内ならまだしも、内から外はさぞ痛かろう。
とても気を保っていられる攻撃ではない。
「……厄っ災の枝ああ!」
「天羽々斬」
通用しなかった技を……。
そちらの方が芸がないと思ったが。
第三位階の厄災の枝と第二位階の天羽々斬が衝突すれば、基本天羽々斬が打ち勝つ。序列も属性、純粋な魔法使いの腕、すべてこちらが勝っている。
しかし、気を失い死を覚悟した奴の攻撃は天羽々斬に打ち勝った。
死への恐怖に打ち勝ちながらも、最後に魔法をひりだす勇気。
一時的な精神の高鳴りが魔法の火力にも影響を与える。
二つの魔法が相殺、水蒸気爆発、ただでさえ霧っぽいのに視界が完全に白一色。
やっとのことで視界の端に収めたのは幻術使いの男。
「しらこすぎ」
どうせ、幻術使い。この白い霧に乗じている。まず間違いなく、本体ではない。メヌとの模擬戦で身に染みている。
なら、移動距離からしてもその位置と左右対称位置。
「鎌鼬」
攻撃ついでに霧を切り裂く風魔法を選択。
ビンゴ。
彼奴はなんとか、即死、致命傷を免れるもあの出血ではもう立ち上がれはしまい。
これであと二人……、ではないんだよな。
「やあやあ、お疲れ様。残りは処理しておいたよ」
霧の中から、ピットが顔を出す。
近づいてくるピットとハイタッチをかます。
「あんな奴の幻術にかかる奴じゃないよなあ。明らかに精神力高そうだし、並みの幻術は効かなそう」
「そうだね。しかしながら、誤算だったのは間違いないよ。ボクの作戦としては止めを刺しに来る相手にカウンターで一気に仕留めようと思っていたんだけど、まさかちゃんとノアから潰しに来るとは」
幻術にかかったふりをしているのは、分かっていた。
その作戦も、なんとなく共有はしていた。
敵が己の幼い外見に惑わされず、敵としてしっかり対処してきたことが問題だった。




