killer crown
19話
「正直、楽しみだよ。お前をこてんぱんに出来るのは」
「お手柔らかにね」
久々の対人戦、しかも相手はピット、実力は未知数。オズより強くても違和感がない。オズは強いは強いが、余裕がない。しかし、ピットの余裕は何をしてくるかわからない恐怖もある。
「試合内容は殺傷禁止、場外アウト、時間超過の場合は勝敗は付けず、採用かどうかだけを判断」
ギルドの地下施設の闘技場、荒くれ者の冒険者が稽古や喧嘩などで使う模擬戦場なのだろう。
今回の試験は勝敗がどうというわけではく。負けても実力を示せれば良いのであって、勝ちにこだわる必要はないのだが、やるからにはな。
「では戦闘開始!」
「来い、ムラクモ」
スタートの合図とともに久々に相棒を呼び寄せる。場外から己の手に飛来してくる。
「ムラクモってあのムラクモかね。ウェイト家出身って話だったが?」
「幻惑剣・蜻蛉」
ピットとの距離を一瞬で大きく詰める。陽炎のように体は揺らぎ、気づいたときにはすでに懐へと忍び込む。魔法の如き技術を体術へと昇華させた一撃だが、その攻撃は彼の体に触れることは無く、宙で止められた。
「結界ね。妖剣・九重」
鋳造のガラスのような空間の歪が結界の証明。
一瞬九撃の攻撃は固い結界を破るのに向いている。
「へえ、割られるか」
「割れたけど、固ぇ」
九重の八つで割れ、最後の攻撃は軽く躱された。一撃一撃がそこまで重くはない故、最後の攻撃を躱されるのは構わないが、蜻蛉含め、9回の攻撃でやっとこさ割れるって、明らかにオズの結界よりは固い。彼女が結界をそこまで得意でなかったとしてもこの硬さは脅威だ。
「剣はしまうか」
マサムネを手放し、セロ狙いの徒手空拳かつ両手がら空きの魔術主体で攻めることにする。先も言った通り、この戦いは勝つことが目的ではなく、実力を示すことが目的だ。剣は戦いやすく、この三年間でかなり伸びたが、目に見えて分かりやすい技というのは先の二つだけ、紅孔雀は体得できなかった。横目で見て受付嬢の反応は良い。
「業火」
ぱちんと指を鳴らすと勢いよく炎がピットを襲う。
「防がれるのなら蒸し殺しだ」
結界で直接的な攻撃は防げても温度感までは防ぐことは出来ない。オズから教わった簡易結界対策だ。
「炎か、同系統ならボクの方が上だよ」
彼は爆弾に変えたカード数枚を放り投げるとそれらが爆発する。爆発に炎は飲み込まれ、爆風が起きる。目を開けていられないほどの強い突風だが、条件は相手も同じ。すぐさま、その場から離れる。
「うっそだろ。勘良すぎ」
逃げ込む先を予想されていたのだろう。進行方向にハートのクイーン。瞬間、カードが起爆する。
「塵芥の盾」
「いいの持ってんね」
爆風の中、無傷の己を見やると一言、感嘆を述べる。
塵芥の盾はオズのいない三年間で生み出したセロと同じくオリジナルの魔法、砂のような塵芥をその場から集め、得意の土魔術との混合で不出来な結界の強度を補強する。
「脆い結界を土魔術で補強するごり押しの力技、結界の特性を利用しているけど、ほぼほぼ土魔術の方が根幹をなしているね。弱点らしい弱点は視認性かな」
塵芥の盾は砂を結界に纏わせている以上、どこを守っているか、相手からの視認性が良すぎる。普通の結界なら無色透明、空間の歪で結界の守護を見極めるため、結界を張っていることは分かってもどこまで守られているかが不透明だ。
セロ同様、塵芥の盾もオリジナル魔法、位階で言うと二つとも三よりの二であろう。
両の手を合わせ、徒手空拳の構えをとる。セロ狙いの超近距離戦。
それに応えるようにじりじりと距離をつめるピット。
「蜻蛉」
素早い移動のみを落とし込んだ蜻蛉から繰り出される肘打ちを同じく肘で軽く止められる。
宙で静止した二人は睨み合い、ピットからの頭突きが繰り出される。
「っつ、響くな」
地についたノアは低い身体を活かしローキックを繰り出すが、ピットは軽くジャンプをするだけで一メートル弱も飛びそれを躱すと接地の瞬間にノアの頭を踏み台に階段でも降りるように静かに接地する。
「舐めるな!」
一段階以上戦闘のスピードが跳ね上がるノアの本気の格闘戦が始まってもピットは冷や汗ひとつかかずに軽くいなす。
ノアの戦闘は主に剣術主体であるが、その剣術も既にジェームズと同等以上のものであり、素手の喧嘩なら遥かに彼を凌駕する。荒くれ者の冒険者一人ぐらい嬲り殺せる実力があるはずなのにまるで歯が立たないピットの徒手空拳と羽でもついているかのような軽い身のこなしに驚愕する。
「さっきから一つ疑問に思っているんだけど」
息も絶え絶えのノアとは対照に、息を荒くもしないピットが全くの平時の声色で話しかける。
「近接主体に持ち込んで何かかましたいって魂胆は見え見えなんだけれど、ボクの能力忘れてない? ボクの法陣はカードを爆弾に変えるのではなくて、この手で触れたものを爆弾に変えることが出来る、だよ」
その言葉と同時にピットから手が伸ばされる。流石に血の気が引いたノアは蜻蛉を使い脱出を図ろうとする。最悪の手に触れられることは回避できたが、同時に繰り出されていた足蹴りを回避することは出来なく、鳩尾にいいのをもらってしまう。
「ちなみに今のは嘘ね。君やメヌエットを爆弾に変えることは出来ない」
蹴りを入れられて咳き込むノアを見やるピットは何かを決めたように頷いた。
「これ以上は蛇足かな」
「……まだ、やれる!」
ピットの言葉にノアは吠えるが。
「いいや、もう終わりにする。今度戦う時は君がボクよりも少し強くなった時だ」
瞬間、ノアの右肩から爆発が起こり、ノアは場外に吹っ飛ばされる。
勢いよく場外に吹っ飛ばされ壁に激突したノアはアドレナリンのおかげか爆発はともかくとして背中を強打されたが、特に痛みは感じず、気絶を免れた冴えた頭で思考にふける。
「最初、誘った時にか!」
最初、この試合をするために挑発されたとき、右肩に手を置かれていた。
「そうだよ。月並みだけれど、戦う前から勝負は決まっているっていうのはこういうことだよね」
軽いジャンプでノアのところへ数メートル移動してきたピット。
普通の人間の跳躍力ではない。魔法で浮いているのだろうなと考察する。
「衣服を爆弾に変えることは出来るけど、今回はカードを忍ばせただけ。なんならバレた方が良かった。敢えてカードを忍ばせるに留めたのは気づいてほしかったから。注意力散漫、ボクが相手じゃなかったら死んでいたよ。なんて言うのは酷かな」
「いや、いい勉強になったよ。あと肩が外れた。はめなおしてくれ」
ピットはノアの肩を治した後、肩を貸し立ち上がらせる。
「それでどうだった? この子なかなかやるでしょ」
二階席の受付嬢に声をかけるピット。
「そうですね。まだ子供ということもあって辛口に暫定Cランク冒険者の認定を授けます」
どうやらその実力が認められたようでノアはほっと胸を撫でおろす。
試合内容はタコ負けもいいとこだったんだがな。オズ相手でももっとやれたぞ。
「むしろあなたの方に驚きました。Sランクに上がりませんか?」
「パスで。あんまり目立ちたくないんだよね」
個人でSランクというのはオズやアルス並みの実力を認められたということなのだが、面倒くさそうに断るのは彼らしい。
「さて、次は貴女の番ですよ」
受付嬢はメヌにそう告げると、少女は黙ったままピクリともしない。
「……どうされましたか?」
そういい、メヌの体に受付嬢が触れると彼女の体は無数の蝶になって霧散する。
「!、……そういうタイプですか」
受付嬢が周囲を見渡すと、反対側の二階席で軽く食事を取りながら、焼き鳥でも食べながら野球観戦でもしているかのような様の少女がそこにいた。
「いいでしょう。二人ともにCランク冒険者の認定を下します」
メヌエットの方がスマートに認定を貰い、かっこいいなとノアが悪態ついたのは言うまでもなかった。
魔力
魔力の質や、魔力回復速度と多少なりと差は出るが、ここでいう魔力は純粋な
魔力総量を指し、最高峰評価のSはほぼ無限に等しい魔力量を持つ。
魔力が少なくとも強い者は多い、剣士は当然としてそれ以外でもだ。
この世界で魔力は絶対的な指針ではなく、立場を確約するものでもない。
また、魔力は幼少から増え、ある程度の年齢、大抵第二次性徴期くらいでその総量は決定する。
身長や体重のようなものだ。




