マリオネット
17話
「どうした? 食べないのか?」
「いや、もちろん食べるんですけど……」
ピットとメヌエットの眼前には彼女の顔以上の大きさの丸焼きがあった。
メヌエットは大きすぎてどのように食せばよいのか、固まっていた。
流石は冒険者の町、リベリオン。本当にこのギルドが一番栄えているのかと疑わしいほどに内装はいい加減、外装はそこそこ威厳もあったのだが。
出される料理も当然と言えば、当然なのだが、冒険者向けの料理で繊細さは微塵も感じられない。女性かつ子供のメヌエットにはどれも一人では食べきれないものばかりで、ピットと一つの皿をつつくことになった。ノアは諸々の挨拶や雑務やらで席を外している。
「遠慮しているのか?」
「遠慮してるわけじゃないです。というか、どっちのお金でおまんま食べてるんですかね」
金欠どころか、無一文のピット君は今日も今日とて10歳そこらの子供にご飯を食べさせてもらっていた。
「君もノアみたいなこと言うねえ。ルンペンキャラ定着する前にちょっと話しておこうかな」
ルンペン? あまりいい意味ではないようだけれど、どういう意味なのだろうか。
最近はノアも口が悪いようで、幼い私には意味が理解できないことが多々ある。
「ノアの首飾り、あれって鬼の角だよね? しかも幻の六本目ってやつじゃない?」
メヌエットは息を飲んだ。ピットの見立て通りのものである。
「あれ売れば一生遊んで暮らせるなんてレベルのものじゃないよね」
そんな貴重なものをノアがアホ面で首から下げているのには理由がある。
宿に残して盗難されないように肌身離さずやお守り、願掛けの理由もあるが、最たる理由は、王国随一の知識人であるオズですらノアから話を聞かされるまでその価値に気づかなかった点にある。
「良く知ってますね?」
メヌエットは否定や誤魔化しは不要であると考えた。
「学はあるんでね。まあ、言いたかったのは別に盗むつもりはないってこと。盗む気だったらわざわざ言わないでしょ?」
「そうですね。別にあなたが盗むかもなんてのはノアも考えてないと思いますけど」
「そうはいってもさあ、お金がない情けないやつみたいになってるし、前にスリ返しなんて芸当も見せたから一応ね」
それもそうかとピットの言葉に納得する。
彼も彼できちんとそういう根回しとか気を回すのは苦手ではないんだなと感じた。
お金を気前よく渡したり、結構な強さをしていたりでそういう些事は得意ではないのかと勝手に思っていた。
「……」
メヌエットはナイフで丁寧に肉をそぎ取り、口に入れ、少々大きかったので水で流し込む。
美味しくはあるが、塩コショウが利きすぎて味が乱雑、あまり好みの味とは言えない。
というか、この男、ノアに執心しすぎてやしないだろうか? 財布はこっち持ちであるが、エンベズラでのスリ返し然り、日常生活でもノアに気にかける。
気にかけるというか、先生や兄のように年長者としてこの世界で生き抜くすべ、気をつけるべきリアルについて教えてくれている気がする。
正直に言ってメヌエットはこの男のことが苦手であった。この男が来てからノアはこいつにべったりで自身との時間が少なくなったからだけでない。
いつでも薄ら笑いを浮かべ、こちらを見透かしてくるような目と、気味の悪い強さ、見えにくい腹の奥。総じて不気味だという印象を受けるのは自身だけではないはずだ。
それなのに、ノアはここのところ彼にべったり。ジェームズよりも懐かれているのではないのだろうかというぐらいには傍にいる。あの子は本当に強者に甘い。彼に師を見出し、なにかを盗もうとしている。
私としても頼りになるし、別に嫌いではないが。
「なんだかなあ」
結局、やきもち焼いてるだけなのかな。
鬼という種族について。
鬼は生まれがすべての格差社会。
鬼は生まれながらに、角を有する。
角の数は一から五本、当然多い方が強く、貴いとされる。
そして鬼王だけは生まれの角とは別に違う角が生える。それを六本目の角という。
だから、四本角の鬼が鬼王に選ばれた際でもその五本目の角のことは便宜上、六本目の角という。




