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ノアの方舟  作者: 望月真昼
霧隠れ編
21/51

大富豪

15話


「8切り、2からのQ。はい、上がり♪」

Qをこれ見よがしに見せつけ、もったいぶって上がるのは己ではなく、ピット。

行商の許可を得、同行していた。

「また、負けた。お前ばっか勝って。面白くない」

ノアは足をプラプラと不満を表す。

「大富豪は一人が勝ち続けるゲームだからなあ」

それにしても強すぎだ。こういう頭使うゲーム得意な認識だったんだがな。悉くを読まれる。ピットは間違いなく、出たカード全て暗記している。それに誰が出したとかをある程度頭に入れて相手の手札を読み透かしている。

参加者は己たち二人を含めて5人、最初の内はメヌも参加していたが、勝てないどころか。大貧民連続して萎えて己の肩で寝ている。

「じゃあ、次は地方ルール入れよう。なら、順位の変動も激しくなるだろ?」

好きなルールがあるんだと彼は言った。

ピットの提案は己だけでなく、ほかの面々も渋そうな表情をした。

「大富豪は飽きた。違うゲームはないのか? ポーカーとか」

長い旅路のために、このように初対面の者同士でも暇つぶしにトランプなど、遊びに興じることが多い。トランプ好きのピットが居なくとも同じ流れになったはずだ。

「ポーカーかあ。あれ賭けなきゃ、碌な読み合いにならないからなあ。賭ける?」

皆、首を揃えて首を振る。彼の大富豪のあの強さを見て賭けたいと思うやつはいない。本当、面白くない。

「金欠だから賭けたかったんだけどなあ」

「なんで金欠になったんでしったけねえ」

彼と最初に出会った町エンベズラで彼は路地裏育ちの少年少女にほぼ全財産をくれてやった。そのせいで今の彼は金欠、いろいろと金が入り用の時はノアが用立ててやっていた。

「お前、本当に金返せよ」

彼のおかげで財布が戻ってきた以上、金を貸してやるのは当然と言えば当然であるのだが、なんだか軽くないかと。態度も財布もなあ!

「ノア、君も随分と砕けたねえ。いくつ歳が離れてると思っているのさ」

「なあ~んで、債務者相手に敬語つかわにゃならんのだ。てめえこそ言葉に気をつけろ。ダボ野郎」

「はっ、違いないねえ」

彼は心底愉快そうに笑う。

年の離れた生意気な弟を好ましく思う兄のような懐の深さ。ただし彼自身が自身の複雑怪奇で面倒な本性を受け入れているように性格としては良くない。

「楽しいねえ。少しばかり刺激はほしいけれど」

彼の笑顔は今度はまじりっけのないような気がした。そして彼は指に自らのカードを挟み、スナップを利かせると鋭利なカーブが弧を描きながら物陰に隠れていた一匹のウサギの脇腹を抉り、爆発する。角ウサギは木っ端みじんに消し飛ぶ。血しぶきがこちらまでかかってこなかったのが救いだ。

「ありゃあ、アルミラージじゃねえか。ミンチになってもったいねえ。結構うまいのに、お前は狩りするな」

「悪いねえ」

同行の冒険者からなじられるも全く悪いと思ってなさそうなへらへら顔。今のが彼の法陣(ギフト)爆弾魔(ボンバー)。詳細は知らないが、最低でも無機物であれば触れたものを爆弾に変えることができる。しかし、アルミラージと言えば、懐かしいヘルハウンド帯レベルの魔物だったはず、それを一撃で屠るとはわかってはいたことだが、かなり強い。

軽口になじった冒険者も軽く、自身以上の力をみせるピットに若干引いていた。感知能力、攻撃能力ともに文句ない。

「それにしてもさすが学園を受けるというだけあって、三人とも今まで見てきた冒険者の中でも段違いに強いな。本当、頼もしい限りだよ」

行商が俺たちを褒める。行商の護衛ということで一般客よりもずいぶん安く相乗りさせてもらっている。最初は己たちのようなちんちくりんが護衛に申し出るなど怪訝な顔をしていたが、魔法で木でも消滅させてやると快く申し出を受けてくれた。

「今までの今の俺たちを前によく言うよ」

「ははは、そりゃあ悪かった」

他の冒険者の軽口に行商が悪かったと笑う。雰囲気良いのはかなりありがたいよなあ。

子供のノア達が輪にいることで雰囲気が良くなっているのは事実であった。

「まあ、いいけどよ。ここまでの才能を見ると、嫉妬もわかねえよ」

一人の冒険者はそういうと、ノアの頭を乱暴に撫でる。

「ほんと、将来が楽しみでたまらないなあ」

誰にも聞こえないような声でピットはそういった。張り付いた笑顔は財布を渡した時と同じくらい彼の本音を表していた。


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