盲目の王
11話
片膝をつき恭しく頭を下げる。傍らのメヌエットもそうだ。あれからほどなくして王一行が現着した。名のある盗賊団を壊滅させた功績を認められ、この場にいる。オズは結局自分は足を引っ張っただけで、それにかつての級友を殺めた功績なんてぞっとしないといって辞退した。
あくびのでそうな長ったらしい口上を終え、賞与の儀式。対面するのは現国王、目に包帯のようなものを巻いており、目前の様子があまり見えていないらしい。これが、フラテルの言っていた大したことのないという所以か。
賞与のために近づいた間際、ぼそっと「今後の活躍に期待している」と言われた。これはしばらくは剣を預けるという意味なのだろうと受け取った。
賞与の少し前、控室でメヌエットと少し二人きりで話をした。
「悪かったな。危ない目にあわして、そして心から感謝する。メヌエットが居なければこの結末はなかったよ」
己は深々と頭を下げる。それは後の国王に対してよりもだった。
顔を上げてと制止してくる。
「それはいいよ。でも言ったでしょ。危ないことには」
「近寄らない。欲をかくといいことなんてないな」
二十ほど年の離れた少女にこれ以上ないほどに速攻のフラグ回収、ほら言わんこっちゃないとばかりに叱られた。
「よくオズを連れてこようと思ったな。しかも滅茶苦茶仕事の早い」
「自分の命の恩人をみすみす死地に行かせるわけがないよ。一旦引いたふりして告げ口するのが最適というのは褒められるほどでもない判断だよ。助けに出た理由も同じ」
この少女、なかなかにクレバー。この歳で法陣を発現させた分、その内面もなかなか優れたものであろうことは予想していたが、この状況では己の方がこどもっぽい。
「本当は助けに出るか迷ったんだ。私なんかに何ができると。敵が殺すことを目的としていないと分かったから、勇気を出せたけどもし、そうでなかったら私は君を見捨てていたかもしれない。だから、君からの感謝は心がちくりと痛む」
フラテルに殺意も敵意もほぼほぼなかった。ただただ、修行をつけてもらっていた気さえする。フラテルの勝利条件は全員の生け捕り、そして俺たちはフラテルの殺害。雲泥の差の条件差だが、俺たちとの実力差は天地程あった。
「ふふ、それにしてもこれから謁見なのにそれでいいの?」
瞼は青紫に腫れ、歯も数本抜けている。幸いなのは乳歯だということだ。己の情けない外見を揶揄する。
「笑うなよ」
「ノア、遅いって……、どうしたの!?」
気絶したオズをメヌエットと二人で運ぶ只ならぬ姿にファイドは悲鳴を上げる。
「オズが起きたら説明する。今は少し眠らせてくれ」
泥に沈むようにその場に倒れこんだ。
あの後、やっと騒ぎを聞きつけた構成員が屋上へとやってきた。いや、実際にはもう少し早く事態には気づいていたのかもしれない。しかし、入ってくるなと命じられたことと、棟梁への絶対の信頼。棟梁が負けたことを悟った構成員はやっとのことで屋上に侵入してきた。当然、戦いにはなった。
気絶しているオズと直接戦闘の苦手なメヌエットを抱えての戦いでも楽勝であった。はじめに突入してきた数人の腕を鎌鼬で切り落とし、顔に業火で皮膚が溶けるまで焼いた。余裕のない状況であったために必要以上に痛めつけてしまったが、盗賊も実力差を痛感し、全面降伏をした。
「おはよ。あの後何があったか知らないけれど、何とかなったようだね」
オズが部屋から降りてきた。話さなくてはならない。どれだけ怒られるだろうか。
「話を聞いてるだけで生きた心地がしなかった」
己を胸に寄せ優しく撫でながら告げる。ジェイドも驚愕、難しい顔をしている。
「そうか、死んじゃったのか」
古くからの知り合いなのだろう。一応、山を乗り越えたというのに、その顔は晴れない。きっと己がこの歳で一線を越えてしまったこと、オズ自身のいう通り、思ったより頼りにならなかったこともあろう。
「フラテル、あの老人の目的はこの剣だったらしい。旧友の剣、形見?らしく、これ誕生日プレゼントじゃなかったんだな」
「そうだね。そも、そいつの存在を知らなかった」
ちょっといわくつきそう。
「これなんなんだ?」
「シラナイナ~」
知ってそう。あえて問いただすこともしないが。
「そうだったのか。なんであいつがこんな片田舎に出張ってくるのか不明だったけど、そういうことだったのか。相変わらず義理堅い」
しみじみとひとりごつ。今度の顔は晴れていた気がする。
「バカみたいに強かった。都会に出ればあんなんごろごろいるのか?」
「いるわけがない。あいつは私の知ってる手を出したらいけない奴の中でも特に手を出したらいけなかった奴。今のノアより強い奴なんてそうそういないはずだったのだけど、そういう意識というか、実力に見合うだけの自信をノアに持ってもらおうとしたけど、良くなかったみたいだ」
そこは反省だ。あんな高そうな剣をあんな小物に奪われたらムカッとするという理由、正直剣自体はどうでも良かったというわけでもないが、プライドの理由が大きい。
「でもそういう自信が無ければ今頃私は馬車か、船か」
今更ながらどうしてメヌエットを攫おうと思ったのか、身代金目当てだろうか。僕を身代金に使おうというのはちらりと聞いたが、メヌエットの場合は前提条件が違う。計画的犯行である。なぜなら、彼女は法陣を使用していたからだ。それにガキを金儲けに使うことに一人はあまりいい反応をしていなかった。つまり、メヌエットを攫ったのは別の理由?
「改めてありがとう」
可愛らしい良い笑顔だ。自分が脅威に置かれている時には実力を発揮できず、人がその立場にあれば万力を発揮する。そういう強さを持っているのだろうな。
「それで後処理はどうしてきたの? まさか放置してきたとか?」
「途中にあった自警団の人に後処理をお願いしたけれど、まあ放置と変わりないかもしれないね。ただ、かなり痛めつけてやった。この村に僕がいる限り、どうあったってどうにもならない。頭も死んでもう終わった組織だよ。情に薄い幾人かは逃げ出したのかもしれないけれど」
「そう、もう少しすれば巡礼の王族がここへ来る。本格的な処理は彼らに任せましょう」
一応の話し合いが済んだ後、これまで静観していたジェームズが重い口を開いた。
「結果は丸く収まったようだが、要らぬ欲を出し、要らぬリスクをその子とオズに強いた。選択を間違えたことは自覚しているな」
「む、元はといえば私の蒔いた種、そも剣を取り上げられたのは私のせい。私の過失が原因で彼だけが責められるのは居心地が悪いです」
「あ、えっと、ごめんなさい」
威厳のある父親を演じようとしていたのに、メヌエットの切れ味のある正論にたじろぐ。
こほんと咳ばらいを一つ。
「突き放した言い方になるけれど、君は赤の他人だ。君の過失については君の両親に叱ってもらうべきだ。俺は息子にしか目をかけるつもりはない」
叱るのも愛情ということか。メヌエットに庇ってもらえたのは嬉しいが、己もジェイドの発言に理があると感じた。
「そうですね。怒られてきます」
「それで話を戻すんだけど、どうしたらいいと思う? 躾なんてほぼ初めてだからどうすればいいか。一発いっとくか?」
「じゃあ、ありがたく貰っておきますか」
「それにしてもやりすぎだと思うんだよな」
今も頬がじんじんする。殴られたの右側なのに左側まで痛くなってきた。歯も抜けて、それはそれでファッションとしてありかもしれない。歯抜けってかわいいよね。
「見てるこっちが痛いくらいだよ」
ほんとやりすぎだと思う。選択を誤った自覚はあるが、結果オーライという側面はある。老骨の目的がムラクモである以上、己との衝突は避けられない。その時、父と母二人の足手纏いを庇いながら戦えない。メヌエット含めて最高戦力で戦ってこれだもんな。相対したところで彼が父母は見逃してくれた可能性も十分高いと思うが。
ま、なんだかむず痒くはあるが。
「一回くらいならこういうのも悪くないか」




