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ノアの方舟  作者: 望月真昼
盗賊団編
15/41

The orign of Noir その2

「居合・紅孔雀(べにくじゃく)

上空からの強烈な一撃を涼しい顔で白髪は受け止める。

「どっから湧いた? 鼠」

ひらひらと空から降りてくるのは当然、先生だ。しかし、助けに来てくれたという割には額に脂汗を垂らしている。

同調(アクセス・リンク)

「先生!」

これで勝つる! ピッタリすぎる登場のタイミングなんて気にもならなかった。

「おうこら、こちらの先生はな、王都の学院の選ばれし元冠位なんだぞ」

「やめて」

いつもならこんな風に持ち上げられると、気を良くするのだが。

「けちょんけちょんにされたくなかったらな」

「ほんとにやめて……」

「逃げ…た方が身の……ため?」

先生の額にえぐい脂汗、助けに来てくれたという割にむしろ、己とオズの表情は逆じゃないのか?

蜻蛉(かげろう)

先生が懐から巻物を取り出そうとした瞬間、目にも止まらぬ速さで接近、気づいたときには傍らのオズが吹っ飛ばされていた。

「奇遇だな、同窓会か?」

当然、すぐに刀を構え、迎えられる用意をする。無意味かもしれないが。

「吹っ飛ばされた方、安否確認には目もくれず、俺を警戒するのは正解だな。流石、戦い慣れしているように錯覚させられる」

「見てなかったし、今も見ようともしないけれど、殺したのか?」

己は若干、いや今にも泣きだしそうな震え声でそう問うていると自覚していた。

「いんや、流石に生きてるだろ。蹴っただけだし。それで死んだなら、腑抜けてたやつが悪い」

今更ながら、奴の脅威をはっきり確認したと思う。なんだか、気に入られたようでこうして胴が繋がっているが、油断や失敗が無くとも簡単に殺されてしまう相手なのだ。

「悪いというのならお前もだ。そこな見栄っ張りに何を期待しているんだ? 今のはお前が割って入って止めるべきだったろ。お前なら止められたと思うぞ」

終わったと思っていた。先生が来てくれた時点で勝負は決したと。頭の片隅にあった最悪の可能性、認めるしかないだろう。この老骨は先生よりも強い!

「しかし、なんだ? もしかしてお前、もう自分は御役御免と勘違いしたのか? まだまだまだまだ! 今度はちゃんとタンクをしないとなあ」

おそらく生きているだろう先生を庇いながら奴の攻撃をいなし、先生の攻撃の機会を作れということか。

「思い出話の一つでもしようかと思ったら、いきなりぶっ飛ばされるとはね。意識一瞬、飛んだんだけれど」

頭から血をたらたらと流しながらこちらへ歩いてくる。先の魔法で防いだのか?

「悪いが陰鬱なお前と楽し気な会話をした覚えがないんだが。思い出と言えるのか、強いて言うなら、ぼこぼこにした覚えしかない。お前と違って、こっち側のその小僧に今は興味がある」

ああ、そうか。

「先生、奴の詳細は……」

「必要ない。相手の一挙手一投足に注視して。私にはきっと見えないし、対応もお前の方が……」

「了解」

ちょうど良すぎる登場のタイミング、きっとほんの少し前から窺っていたんだ。自分では勝つのが厳しい相手だと分かっていて。己が白髪に付いていくならその方が安全で丸い選択。

でも、己はそれを分かっていて、なお断った。そのことを分かったうえで己の弟子の選択を尊重するために命を張って前線に出向いてくれたんだ。

誇り高いな。勝てなくとも、師匠としての責務を、旧友の子供をみすみす見殺しにすることは出来なかったのだろう。

「少し静かにしててもらおうか。ひれ伏せ」

白髪は再び眼帯を取り外す。重力魔法が来る。己はすぐにレジスト出来るように鎌鼬を準備しておく。

「魔法!?」

先生の体が沈む。

「聞いてない、こんなの!」

「だから言おうとしただろ!」

「ごめん!」

まさか、白髪と旧知みたいな雰囲気出しといて魔法使えること知らなかったのか。

「けど、この程度!」

「そんな暇はねえよ」

白髪はオズではなく、己に突進してきた。構えて剣を交えるが、明らかにさっきより。

「ダメだ! 競り負ける! 先生!」

「分かってる! 鎌鼬」

先生が己のサポートに回ることでなんとか迎撃が回る! 今まで本当にお遊びだったんだ! そして今も! オズがサポートに回ることでぎり回転するレベルの実力に合わせているんだ!

「化け物……」

「お前もこっち側に来れる才覚がある」

手招きするように柔和に笑う。左目が昏く輝く。

雨。

光劇(アンチ・フィクション)

己に降りかかるはずだった重力が光に飲み込まれる。

「ミッドガルド流弐の型、蒼龍」

「妖す剣・九重(ここのえ)

名の通り、正に九つの衝撃、二振りの己の攻撃は簡単に消し飛ばされた。妖狐の如く揺らめく緋色の灯。炎を温かみを錯覚させる。

「ほんっと、もう持たない!」

「そういうのは口に出すものじゃないぜ」

「何とかならないのか? 先生!」


何ともならない。一応、大技の準備は完成したけれど、如何せん奴とノアの距離が近すぎる。どれだけ指向性を持たせても奴に届きうるレベルの魔法、即ち第一位階魔法ともなれば、接近戦をしているノアにまでもろに直撃させてしまう。しかもそれは最低条件という話でこの魔法で奴を倒せるかというと怪しい。何はともあれ、ノアが奴から離れてくれないと話にすらならない

なのでオズはこういうしかない。

「どうにかして隙を作って」

「それ、無理。この状況で無理通すってなると先生の方しかない」

ですよね。いや、そらそうだ。一秒ごとに生と死の狭間を彷徨ってるノアよりこうして突っ伏して魔法ちょろちょろ打ってる私が無理利かせないといけない場面なのは百も承知だ。

教え子のピンチに駆けつけたはいいものの、ぼこぼこにされて突っ伏し、今やその教え子に守られて負担になっている。

情けない。なんで来たんだろ。

「何故反旗を翻した!? 冠位(グランド)の中では一番一般生徒との距離が近く、気性も最も穏やかという評価だったのに?」

私は問いかける。隙を作るためには対話しかないと自覚していた。

「反旗を翻したも何も、義理やら、金やらでずるずる残ってやっていただけで人を殺めて褒められる世界。流石に苦痛なのでな、人から奪って蔑まれる世界に鞍替えしただけだ。こう聞くと俺は何も変わっちゃいないことが分かるだろ?」

奴のいうことは正しい。間違っていることは一つもない。逆に奴が優等生であった所以、世間一般から見てもぶれていない価値観。だからこそ、変わっていないのに変わったように見えるのだ。

「いやあ、楽しくなって、っあぁ。いってーな!」

局面が転換する。


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