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ノアの方舟  作者: 望月真昼
盗賊団編
14/41

The origin of Noir その1

10話


なーんて呑気なことを考えながら、最上階の高台への扉を開ける。

開けた瞬間、今までに感じたことのないような悪寒が走る。ねっとりと絡みつくような妙な重さを感じさせる。悪意? 間違ってはいないだろう。善良ではない力の奔流。いうなれば蛇に睨まれた蛙。

「鼠一匹たりとも入れるなと言ったはずなんだがな」

そう言って振り返ったのは齢百はありそうな白髪の老人。片目に眼帯を巻いており、明らかに潜った修羅場が一つ、二つではないだろうことが察せられる歴戦の眉雪(まゆゆき)

「それでそこな小僧、なんの用だ」

老骨に問われ、はっと息を吹き返す。息すら忘れるほどに気圧されたってのか、己が!?

「いや、ちょっと拉致られて高台から逃げようかなって。見逃してくれますか?」

瞬間、戦う選択肢は却下した。敵意を見せてはならない。この場さえ逃げ切れればいい。ここまで来てだが、あれは諦める。

「はっはっは、そう縮こまるな。もしかするとこれが目当てか?」

立てかけてあった己の剣をひょいと持ち上げて見せる。マジか、己の認識では己以外で使用しようとするとロックがかかり、当人の筋力では使い物にならないくらい重くなるというものだったはずだが、上限を超えた筋力なのか。

「知らない。ちょっとした手違いでここへ来ただけなんだ」

認めるわけにはいかなかった。このままずるずる会話を長引かせるよりも早く帰らせてほしかったし、もしあの刀が主を殺すことで使用権を挿げ替えるタイプの得物だった場合、そういう展開になるだろう。ここはきっぱり手放す選択が吉と見た。

「手違いでネビルをのしたと?」

「そういうことになりますかね……。手違いでちょろっと」

「旧友からの命令だ。お前が本当にムラマサというのなら、持ち主のもとへ帰れ」

そう白髪が言うと、元気よく己のもとへと帰ってきてしまった。空気読めや。

「幻惑の剣・蜻蛉(かげろう)

瞬間、白髪の姿が消える。

「ミッドガルド流参の型、心眼止水(しんがんしすい)

奇跡的にぎりぎり目の端で捕らえられた残像からこれまた奇跡的に攻撃位置を割り出せ、奇跡的に的確にガードできた。120点の行動を取ったのに何故、己は吹っ飛ばされ、血反吐を吐いている!?

「寸止めするつもりだったんだが、受けられたか。初見で蜻蛉を見切ったのは長い人生でも多分、10人はいなかったはず。やるな! 本当は刀が目当てだったんだが、気に入ってしまった。少し様子を見るか」

ただしと白髪は付け加えた。

「この戦いから逃げようとすれば殺す。俺を満足させられなくても殺す。その刀に見限られても殺す」

気迫あふれる老鬼に股間がひゅんとなる。

受け止められたことで変に気に入られてしまった。やっべえな。悉く悪い方向に行ってる。

というか、ネビル? あれで№2とかふざけんな。奴の矮小な命、幾千重ねても奴の老鬼の首は取れない。

「ふぅ、すぅ、ふぃ、ふぃふぃ、ふぅ、はあ~」

「ミッドガルド流の弊害か。それに関しちゃ、人の急所を鍛えるのと同じことで経験や努力では解決できないからな」

若干の吐血が気泡に入り、咳き込む。ギア上げの代償、高くつきすぎた。白髪のいう通り、ミッドガルド流はギア上げの攻撃、陸と壱で技に大きな差は無けれど、数字の大きい技を使うには事前に予備動作、壱や弐の型から使用している必要がある。逆もしかり。別に陸から使えないわけじゃないが、今の己よりも酷い状態になる。

「落ち着いたか? 心配せずとも十中八九殺さんよ。腑抜けず、真面目にやればな」

やはりというか剣士か。剣士であることは意外ではなかったのだが。

「見たことも聞いたこともないような技、我流か」

「正解。この技はある魔法を模して作った技だ。体の使いようによっては魔法の如き剣技も繰り出せる。俺の技の中でも使用頻度ぶっちで一位だ」

ミッドガルド流を含む三大流派のどれにも該当しない我流、戦いづらいな。まあ、戦いづらいとかそういう次元でもないのだが。

「さあ、今度はそっちから来いよ」

挑発するようにくいっと剣をこちらに向ける。本来なら一か八か、尻尾巻いて逃げ出すような相手だが、一つだけこちらに有利な点、勝機がある。それは明らかにこちらを舐め腐っていることだ。奴の立場から考えたとき、舐め腐るような態度にも納得だ。手を抜かないと勝負にすらないないからだ。実際、己の剣術で奴に致命を与えることのできるほど、研鑽を積んだ技はない。ただ、それは奴が己のことを剣士として見ているからだ。己は剣士ではない。一つ、奴にも通用するかもしれない虎の子の魔法がある。オズにすら修得したことを黙っていた奥の手中の奥の手。それをぶち込む。

「ミッドガルド流壱の型、桜楼閃き(おうろうひらめき)

「パワーが足りんな。子供の馬力じゃ、俺には通じん。インパクトの時、刀に意識を遣れ。足りないパワーを補強してくれるはずだ」

距離を詰め、跳んで攻撃をするが、技も使わずに受け止められ、軽く説教をする間に力負けし、軽く飛ばされる。

「そんな機能があるのか」

「あったはずだ。俺もすべてを知っているわけじゃない。それにこの歳だ。忘れちまってることもあるだろうな」

口髭をさすりながら感慨深そうだ。

というかこの爺さん、己よりこの件に詳しいな。剣だけに。なんちって。

「ミッドガルド流弐の型、蒼龍(そうりゅう)

「マシにはなったんじゃないか?」

白髪のいう通りにしてみると、なるほど。先より随分とパワーが出た。これは今の己には必須級だ。それでも競り負けるのだが。

「良し。今から蜻蛉を使う! 今度のは寸止めとかはせん。防御できなければ本当に殺す。止めるコツはな、目だけじゃなく、体で感じろ。残像のように目は誤魔化せても移動に生じる風はそう簡単には偽装できん。早く動こうとすれば猶更な」

「相、分かった。贅沢言える状況じゃないしな」

己は全神経を集中させる。心眼止水、第三の目。心の目で相手を見切る。完全な防御技。先に壱や弐を使っておいて良かった。先のそれよりも状況は大分マシだ。コツも教えてもらった。先のまぐれを今度は実力で止める。

「ミッドガルド流参の型、心眼止水」

「幻惑剣・蜻蛉」

姿が瞬く間に消えるまるで魔法のようであった。高度に発達した技術は魔法と見分けがつかないとはこの世界で言えばよく言ったもの、否、当然のことだ。魔法が先にあるのだから。

刀と刀が交じり合い、火花が散る。一番重要なファーストタッチは防げた。後は万力の握力と刀に意識を遣る。競り負けるな!

「うぉおお、りゃああ」

「完璧だな。蜻蛉を止められるのなら余程な相手でもない限り、剣術で後れを取ることは無いだろう」

この短時間であの攻撃をきちんと止められるほどになったのか。今回は血反吐も吐いていない。先生より先生しているな。

「場にそぐわないけど、ありがとう。強くなれた。だから、もういい。そっち方面はな、今度はこういう趣向でいこう」

己は刀を手放し、思念で操作する。刃を白髪に向ける。不意打ちだが、あっさりと弾かれる。同時に相手の懐に潜り込む。

「なんかあるんだな!」

イメージするのは散弾銃やショットガン。有効射程の短い銃器。なんだかんだ言って有効射程50メートルくらいはあるらしいが。

土槍(セロ)

印を結んで白髪の腹に手を当てる。土槍を自分好みにカスタマイズしたものだ。正直、性能が違いすぎてほぼ別の魔法だ。

凄まじい爆音と熱気を含む煙に包まれた。樹齢百を超える大木を一撃で壊したほど強力な魔法だ。手を抜く余裕はなかった。これで死んでほしいようなそうではないような。

「あ~~、いってぇな」

「何なんだよ、お前。呆れた」

煙幕の中から姿を現した白髪は目立った外傷はなく、服が千切れているくらいなものだ。殺してしまったかもとは思ったが、まさか無傷とは。

「無傷とか人間やめてるだろ」

「人であることは随分昔に諦めた。それに無傷じゃない。ちゃんとダメージは入ったぜ。流石に内に響いた。俺も歳だ。拗らせたら死ぬかもな」

やりようはまだギリある。絶対に鍛えられない部位はある。今度は頭を狙いに、欲を言えば口内や目を直にセロを決めて、脳漿ひりだしてやる。

「それにしても本職はそっちだったんだな。だまされた」

でもなと白髪は冷酷に告げる。

「俺が魔法を使えないなんてことは一度も言ってないよな?」

片目の眼帯を外すとそこには黒い、まるでブラックホールのような眼がそこにはあった。義眼かと一瞬、思ったが生体反応がある。湿りがある。

「ひれ伏せ」

瞬間、己の周囲に雨が降り始めた。しかし、雨としてはおかしい。濡れない。水魔法ではないらしい。そんな、発動された魔法に対する一瞬の考察が悪手だった。

「っかっはっ」

次の瞬間、己の体は地に伏し、地を舐めていた。

「重い! 重力か?」

「当たり」

あの青い雨のようなものは過度な重力を発生させようとした際に起こった空間の歪か!

水魔法と判断して、最適なレジストを考えていたのが裏目に出た。

闇、光魔法? 知らねえぞ、こんな魔法!

「まさか、法陣(ギフト)じゃないよな?」

「それもまた当たりだな」

次から次へと法陣持ちばっか。えぐい剣技に法陣、恵まれすぎだろ!

「知らないか? 魔眼ってやつだ。半世紀とちょっと前に開眼した」

「旋風・旋毛風(つむじかぜ)

無形の魔法には同じく無形の魔法でレジストを行う。歪んだ空間をなぐ。

素早くたち、周囲を駆け回る。さっきのは一か所に留まっていたせいで喰らってしまったはずだ。駆けて目標を定めさせないようにするのだ。

駆けている最中、通ったすぐ後ろの方から空間が爆ぜる爆音が鳴り響いていてちょっと振り返りたくない。そして、当たりそうな攻撃は。

「鎌鼬!」

魔法でレジストする。いやいや、しかし、一撃でも喰らったら致命傷な強力な魔法だが、正直、さっきまでの剣技主体の戦い方よりずっと易しい。半世紀前に開眼したという割に、魔法に関しちゃ、相手はずぶの素人だな。視認してからの魔法の発動が遅い。連発もそう出来ていないことから魔力量も大したことない。おそらく、法陣という自身に最適な魔法しか使えないのだろう。魔法だけで戦うのなら勝てる。

「魔法だけで戦うなら負けてしまうだろうな。その派手な青い髪色、有名な貴族出身だろ?」

「けど、得意は水魔法じゃないぜ。土槍」

「ふうん。得意属性は土、さっきのセロ? から髪色が少しずつオレンジ色に変化してきているな。こりゃあ、きちんと育てれば俺以上になれるかもな」

なあ! と白髪が己に声をかける。

「俺と一緒に来ないか? 俺が死んだあとの次期棟梁に据えてやる。やりたい放題だぜ?」

「なんであんたが死んだ後の味噌っかすを世話せにゃならんのだ。やりたい放題したいのなら一人でやってる」

「正論だな! でも来てくれれば、俺の剣技余すことなく伝授してやれるし、一生遊んでも使いきれないくらいの財宝を継がせてやれる」

「今の生活割と気に入ってるんだ。意外にも気が沈まない。特にファイドは泣かせないかな」

「よく言った! 鎌鼬」

ここ半年すっかり馴染んだ声が宙から聞こえた。その時の己はその頼もしさに天使かと思ったが、数秒後には思い知らされた。目の前の男がどれほど高度な域に達しているのかを。


魔眼の種類は全てで四つ、最大7人の使用者が同時に存在できる。

白髪の魔眼は重力を操ることができる。本人に魔法の適性がないため、たいして活用できていないが所持しているだけで得られる恩恵もある。

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