opening その3
「この反応、頂上か」
念じることで刀の居場所を把握する。居場所は分かるのだが、相変わらず呼び寄せようとしても反応が無い。まるで意思を持っているようだ。
意外にも階を上がることで団員に見つかることは無かった。みんなしてどんちゃん騒ぎ、幼子一人逃げ出したところで気づく者はいなかった。気づかれたとしても、大丈夫だったとは思うが。
もうそろそろ頂上という時、初めて一人の構成員と対面した。
「ここはおチビちゃんの来るところじゃないぜ。内緒で家まで送っててやろうか?」
どうやらここから脱出するために屋上に来たと思われているらしい。
「その必要はありません。少しそこをどいていただければ自力で帰れます」
「ん~~、弱ったなあ。この先は誰にも通さないように言われているんだ。本当に家まで帰してやるから回れ右してくれないか? それとも頭に用なのか?」
「おそらく後者に該当するかな?」
「じゃあ、仕方ない。少し痛い目に合わないと分かってくれないらしい。許してくれよ。そうしないと俺がもっと痛い目に合うんだ」
対面する構成員が構えの姿勢を取る。しかし、相手は子供。まだ、侮りが見える。
派手な魔法を使うのは無しだな。最悪、塔が崩れる。さすがに塔が崩れたら己も危ないし、何より階下の団員はみな死んでしまうだろう。悪人だろうと殺すのは憚られる。メヌエットも己もまだ手荒な真似はされていないし、猶更だ。
相手は得物を使わない。服の下に隠し持っているだろうが、子供相手にそういったものを使わないのだろう。
殴る、蹴るではなく相手は己を捕らえてから痛めつけようと右腕を伸ばしてくる。それを回避する。回避することは難しいことじゃない。小さな体ではそれくらいしか利点はない。相手も驚きはしなかった。
己は出された腕を掴み膝を支えとして右腕を折る。ぼきぼきと鈍い音が鳴り響く。
「っ、ああ、がああ」
苦悶の表情を浮かべる彼だが、腐ってもその道の者、腕を折られたくらいで情けなく転げまわることをしない。瞬時に己が警戒しなければならない相手だと判断し、二歩下がる。
「何が目的だ! 普通のガキじゃない!」
「取られた刀を返してもらいに来た。そこをのけ」
「折られても通すわけにはいかないんだな。これが」
手負いの相手は簡単だ。負傷した右腕の方から攻めればいい。左側から回り込み、首筋を殴りつけ気絶させようと試みる。
しかし、思わぬところから反撃が来る。折ったはずの右腕から大ぶりのストレートが飛んできた。警戒していなかった己は防御態勢も取れず、小さな体が無様に飛ぶ。辛うじて受け身は取ったが。
「刀は諦めろ。痛み分けにしよう。俺も油断していた。ガキに不意を突かれたからといって、キレたりして報復はしない」
彼の姿をよく見てみると、右腕が完治していた。あんなチンピラ風情に一瞬で傷を治す優れた回復魔法なんて使えるわけがない。もし、使えるなら王国随一の魔法使い。一生遊んで暮らせる。
よくよく見てみると、代わりに左腕が故障している。しかし、傷の交換なんて摩訶不思議な魔法聞いたこともない。
「まあた、法陣か! 僕やオズが開花出来ていないものをこうも容易く使ってくれるものだな! 格下!」
「そうだよ、法陣だよ。傷の交換が出来る。悪くないだろ?」
「法陣なんてあるだけで御の字なのに、能力もそこそこ上等。その能力ならこんなしけた所にいなくとも楽に生きていけるだろ」
「自分ではなく、他者に能力を使うとなるとね。なかなか制約も多いんだ。単に実力不足で、法陣の真価を発揮できていないだけというのは分かっているんだが、それに頭には恩もある。心酔していると言っても過言じゃない。悪いことをする人だけど悪い人というわけでもないんだ。女子供を殺したことも片手で数えられるくらいと言っていた」
「ド屑じゃねえか!」
経験がある方がおかしんだよ。
悪いことをする人は悪い人だ。
この狭い通路、互いにリーチのある得物は使えないと判断したのだろう。相手は短剣を取り出した。ミッドガルド流に短剣を用いた技はない。そもそも技も公式には6つしかない分、普段使用していてもバリエーションの少なさに悩む型だ。特殊な技や型抜きで戦う故、地の勝負では図体の小さな己が不利と言えるが、いざとなれば魔法がある。
しかし、得物を取り出した以上、先のような損傷を入れ替えた攻撃は控えるだろう。ナイフまで瞬間移動するわけではないはずだ。損傷を入れ替えたら得物を落としてしまうからな。
ナイフの軌道をよく読み、合わせいなす。力で大きく劣る以上、いなすことくらいしかできない。相手のそれなりに洗練されたナイフをさばき続ける。
「このままなら」
「このまま続けばな」
見え隠れする勝機の糸にナイフ捌きが少し雑になる一瞬を狙っていた。雑になった一撃を気合を入れていなす。すると、若干ではあるが体制を崩し、ナイフはいつもの間合いより大きく外側に外れる。すかさず、キックを繰り出す。背の小さい以上、跳びもしない限り、負傷している腕に足技は届かない。必然的にローキックとなるそれを相手は軽く受け止める。
「?」
不可解という面持ちだ。拍子抜けするにはまだ早い。
「土槍」
予め、側面に仕込んであった魔法が発動する。軌道は真っすぐ、このままだと頭を貫かれてしまう。といっても腕は潰され、足も使わされている。回避は出来ないなら、どうするか。
「っったぁあああ」
相手は法陣を用い、負傷した腕を回復、その腕で土槍を防御する。槍が肉に突き刺さる嫌な音、骨を貫通したのかごりごりという音も聞こえる。
「チェックメイト。終わりだよ」
「ったああ、はあ、はあ。ちょんぼ。まだ終わってない」
驚くことに彼は立ち上がり、右腕の負傷が無くなっていた。
「マジか」
「これでも№2なんだ。根性見せないとな」
よくよく見ると、片足が負傷している。腕の負傷を足へ、同機能をもつ、左右対称の部位でなくとも成り立つのか。
「死ぬよ?」
「殺せよ」
「命は粗末にしない主義なんだ。羽虫相手でもね。見せかけの月」
メヌエットからもらった短剣で彼を突き刺す。夢を見せると言っていた通り、眠るように気絶したが、泡を吹いて倒れている。大丈夫だよな?
それにしても面白い敵だったな。実力は大したことなかったが、法陣がなかなか興味深い。あの口ぶりからして他者に術をかけることも制約付きで可能なのだろう。面白そうな使い方としては脳腫瘍や致命的な箇所にある癌等を足や手に移動させて切除することで完治させるなんて言うのも練度があれば可能そうだ。羨ましいなあ。




