opening その2
「ちなみになんで子供ひとりであんなところ入ったんだ? こういうことになるんだからダメだろ?」
「ごめんなさい。言い訳になるんだけど聞いてもらっていい?」
己が頷くと話を始めた。
「逆に防犯意識のためからなんだ」
「というと?」
「法陣って知ってる?」
「知ってるが、まさか」
オズでさえ開花しなかった才能がこんなおチビちゃんに宿っているのか。
「私は夜の支配者と呼んでいるんだけど、簡単に言うと風景にすっと溶け込める能力なんだ。お父さん、お母さんが言うには私の能力発動中は間違い探しをするようにじっと風景を疑ってもすぐに見つからないんだって」
「それはすごいな。でもあの二人にはすぐに見つかってたじゃん」
「それは能力発動前を見られてたからだと思う。いくつか制約というほどでもないけど、当たり前の注意事項があるんだ。能力発動前から注視されていたら、能力を発動しても見失うことはないとか、人数の多少によって見つかってしまうスピードも変わるし、時間経過もそうだし、暗闇の方が能力の効力が強くなるとかね」
確かに己も能力発動前から彼女を注視していた。となると、あの二人は元より誘拐しようと企んでいたわけか。
「なるほどな。吸血鬼故、くだらないいざこざに巻き込まれないようにというわけか。俺たちを遠巻きに見ていたのは能力の修行も兼ねてたか?」
「まったくもってその通りだよ。私の種族についてまでよく知ってるね。仲間に入れてほしくて能力の試し運転ついでに様子を窺ってた。恥ずかしい限りなんだけど、いざ声をかけられたらかけられたらでびびって逃げちゃうし。少しだけ同年代の子には苦い思い出も掠めてさ」
「実はちょっと鬱陶しいって思ってた」
「だよね……。ごめんね。陰気な性格で……」
己が素直な感想を伝えるとずうんと表情が沈む。素直で表情豊かで可愛らしいな。
「ここから出れたら仲間でもなんでも入れてやるさ」
「そうだね。今は目先のことを考えないと。私が今から能力を発動するから、ノア君が物音を立てて盗賊を呼び寄せて……」
「そんなことをする必要もない」
己は手を合わせると壁に手をつき幼子一人分の穴をあけた。
「外への直通の出口を開けた。こっから外に出れる」
「天才! 最高だよ、ノア君! 死ぬほどカッコよく見える」
そうでもある。
メヌエットが手を差し伸べてくる。
「なんだ怖いのか? それともただ単に僕と手を繋ぎたいとか?」
「や、ち、違う。夜の支配者は触れている物体にも効果が及ぶから」
「ああ、なるほど」
はっず。
「でも、ごめん。僕にはまだやるべきことがあるから」
「もしかして」
「刀を取り返しに行く」
「危ないよ。命あっての物種、巻き込んだ私が言えた義理じゃないかもだけど、欲をかくとろくなことにならないよ」
「あんな雑魚相手に負けないよ。数十人いっきにかかられてもね。一人で帰れるだろ? いい能力もあるんだし」
「帰れるけど……、ん、分かった。止めないけど。ちょっと待って」
そういった瞬間、彼女の目が紅く光る。能力発動の合図だろうが、姿が消えることはない。
「これどうぞ」
「なんだこれは?」
渡されたものは異様に黒い何か。
「私の能力で闇を切り取ったもの。普通のナイフと同等の切れ味がある。こうやって服の影に収納すればかさばることもない。もう一つ、相手を傷つけたくないときには見せかけの月といって精神に直接攻撃することも出来る。人によって必要回数は異なるけど」
「なんて可愛げのない能力。法陣の中でも上澄みの能力だろ。なんであんなチンピラに後れを取るんだ」
「どれだけ強力な力でも所有者がこんな味噌っかすなら有ってないようなものだよ。実戦経験があればもしかしたら勝てたのかもしれないけど。本当に死ぬって所まで追い詰められないと反撃なんてできないよぉ」
「なるほどね。正直、得物があるのは、助かる」
「ん、良かった。そのナイフもあまり私から離れると効力を無くすから。ぱってとってぱって帰るんだよ。変に後のために殲滅しておこうとか調子に乗ったらだめだからね!」
「了解」
「じゃ、ばいばい。本当、ありがとう。君に会えてよかった。助けられたというだけじゃなくて、これからもその……、よろしくしてね」
「出たらすぐに会いに行くよ。生存報告はしっかりする」




