続く平穏、眠りの時
〇豊崎・街並み(夕方)
あちこちに高層建築物が点在している。
〇佐藤家・拓真の部屋(夕方)
勉強机と椅子以外に家具の無い部屋の、埃を被った窓の天板の右側に、ハチ(16)が座っている。眩しそうに眼を細め、半開きになった窓から外を眺めている。
ハチの声「あいつが声で真似ていた鈍い機械音は最近になって聞こえなくなっていった。この街は、俺が来た時よりも随分と変わっていったらしい」
ハチの視線の先に、逆光で黒く映る高
い建造物が数棟見えている。
〇(回想)佐藤家・拓真の部屋(夕方)
ハチ(11)を抱きかかえる佐藤拓真(18)。
拓真「また会おうな。ここで……」
(回想終わり)
〇(元の)佐藤家・拓真の部屋(夕方)
ハチ(16)、天板を前足で軽く引っ掻く。
〇(回想)佐藤家・拓真の部屋
佐藤和弘(49)と佐藤真奈美(49)が、家具の
整理をしている。側をうろつくハチ(13)
を、和弘が抱きかかえる。
和弘「拓真が『今までありがとう』って。本当に、ありがとうな」
(回想終わり)
〇(元の)佐藤家・拓真の部屋(夕方)
ハチ(16)、顔を上げて左側に首を向ける。
ハチの声「結局、会えなかったな」
ハチ、佐藤家の前の道を見る。
ハチの声「あの眼鏡をかけたやつを見かけることも、自転車で通り過ぎていった二人組に声をかけられることも、もう無いのかもな。眼鏡の方は、何かと気にかけられていたな、そういえば」
ハチ、勉強机の方を見る。
ハチの声「あいつがいなくなっても、俺は相変わらずここから外を眺めては、視線の先の物事について緩く考えを巡らせている」
ハチ、窓の方へ再度向き直る。佐藤家の前の道を、幼い子供数人が叫びながら走り去っていく。
〇(回想)佐藤家・拓真の部屋(夕方)
天板上のハチ(3)の首元を撫でる拓真(10)。
拓真「猫って人間よりも歳を取るのが早いんだってね」
拓真、ハチの両脇をもって抱える。
拓真「ハチが先にいなくなるのは寂しいなぁ」
(回想終わり)
〇(元の)佐藤家・拓真の部屋(夕方)
ハチの声「ああ、さみしいな、拓真」
ハチ(16)、天板に寝そべり、左側を見る。
出窓の外を眺めている佐藤拓真(10)の横
顔が浮かび、ゆっくり消えていく。
ハチの声「そろそろ俺も寿命が近づいているようだ。だが、窓の外を眺めてばかりの生涯だったことに悔いはないし、これで終わるのも悪くない」
ハチ、窓の外を見る。視線の先には、夕日に染まった豊崎の街並みが広がっている。弱い風が吹いてきて、ハチの髭を揺らす。ハチ、ゆっくり丸くなる。
ハチの声「今もなお続くこの平穏な時間を、案外俺は気に入っている」
ハチ、ゆっくり目を閉じる。
(終)
「小説家になろう」初投稿作品です。
すでに出来上がっていたものなので、まとめてエピソードを投稿しました。
異世界モノやファンタジーとも関係なければ、小説ではなくシナリオ形式だったので、これまでずっと投稿するのをためらっていましたが、この機会にご一読いただけますと幸いです。
これからもシナリオ形式ではありますが投稿していきたいと思います。
感想などございましたら是非お送りください。お待ちしております。