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窓際の仲間

〇豊崎・住宅街

   殆ど高さが一様な一軒家が並ぶ。その側にクレーン車が数台停まっている。


〇佐藤家・拓真の部屋

佐藤拓真(10)、勉強机の椅子に座って出窓の天板に頬杖を突き、窓の外を眺めている。入り組んだ住宅の屋根やアパートの上階部分が外に広がっている。

ハチ(3)、天板に座り拓真の隣で一緒に窓の外を眺めている。

佐藤家の前の道を、子供数人が何かを叫びながら走って通り過ぎる。

拓真「(子供を目で追って)おー」

   身体を少し前傾させる拓真を見るハチ。

ハチの声「俺がこの家の飼い猫となって2年ほど経ったが、こいつはこうして、俺とともに窓の外を眺めていることが多い」

   首を前へ向け直して、遠くの方へと駆

け続ける子供たちを見るハチ。

ハチの声「今は隣で一緒に外を見ているこいつが、ああやって他人と馴れ合うところを見たことはある。でも、多くはない。この家の外で俺以外の誰某と仲良くしている様子を見るのは、ごく稀である」

   ハチ、拓真の方を見て鳴く。

ハチの声「お前はもっと、あいつらのようにここから出て遊ばないのか? 」

拓真、ハチに気付き小さく笑う。ハチの喉元を指でくすぐる。

拓真「お前は遊びに行かないのか? とか思ってんだろ? ハチさんよぉ~」

ハチの声「言葉は交わせないはずなのに。こいつは何かと勘がいいやつだ」

拓真、頬杖を突き直し、視線を再び出窓の外へ戻す。

拓真「さっきの、学校の同級生でさ。俺も遊ぶときは遊んでるよ、あいつらと。でも、眺めるのも遊びなんだよ、俺にとっては」

ハチの声「眺めるのも遊び? 」

   拓真、再び出窓の方向に向き直る。重

機の稼働音が鈍く響いてくる。

拓真「最近多いなぁ。近くに行ったらもっとうるさいんだろうな。ガガガガガって」

   少し目線を上げて遠くを見る拓真。

ハチの声「今、こいつが真似た擬音は、人間が操縦する大きな機械の音だ。猫が扱うには物理的に無理なものらしい。まぁ、俺は見たことすらないものだが……」

〇豊崎・住宅街・工事現場

   クレーン車が建築物を壊している。


〇佐藤家・拓真の部屋

ハチの声「猫の俺達にはできないが人間にはできることがある。もちろん、人間にはできないが猫にはできることもあるが」

   ハチ、丸くなって右後脚の股関節辺り

を舌で何度か舐める。

拓真「(ハチを見て)おお、股関節柔らけぇなぁ~。そんなところまで届かねぇわ」


〇豊崎・住宅街(夕方)

殆ど高さが一様な一軒家の並び。その

中にある、物件が取り壊されてできた

数か所の空き地に、夕日に照らされた

住宅の影が映っている。


〇佐藤家・拓真の部屋(夕方)

   ハチ、出窓の天板で丸まって寝ている。

半開きになった窓から弱い風が吹いて

きて、ハチの髭が揺れる。

男の子の声「じゃあな~! 」

   ハチ、目を開けて首を伸ばして外を見

下ろすと、拓真が家の前で手を振りな

がら玄関扉を開けている姿が見える。

数人の男の子が歩きながら振り向く体

制で拓真に手を振っている。

   ×     ×     ×

   拓真が部屋に入ってくる。天板に座っ

たまま拓真の方へ首を向けるハチ。そ

れに気づいて天板へと近づき、ハチの

首元を指先で撫でる拓真。

拓真「ただいまハチ。あ~、疲れたぁ」

   鳴き声を上げるハチ。

拓真「猫って人間よりも歳を取るのが早いんだってね。ハチは今3歳で俺は10歳だけど、人間の年で言うとハチはもう俺の3倍の歳らしいよ。そういやお父さんもそんなこと言ってたっけ」

   拓真、ハチの両脇をもって抱える。

拓真「人間と猫が一緒に暮らしてたら、猫の方が先に死んじゃう。今日みたいに友達ともできるだけ遊びたいけど、ハチが先にいなくなるのは寂しいなぁ」

   拓真、ハチの頬を指先でくすぐる。

ハチの声「俺たちが人間よりも成長が早く寿命が短いことは、以前暮らしていた場所で人間が話していたな、そういえば」

女の子の声「うえ~ん! 」

   拓真とハチ、出窓から外を見下ろすと、

幼女が母親に手を引かれ、泣きながら

佐藤家の前を歩いている。

ハチの声「寂しい、か。涙を流すとか、人間は猫よりも感情表現が豊かだ。それが特に羨ましいというわけではないが、興味深いとは常々思う」

真奈美の声「拓真ー! ご飯よー! 」

   拓真、部屋の扉の方に顔を向ける。

拓真「(声を張って)ほいほーい! んじゃ、また後でハチのご飯も持ってくるから」

   拓真、部屋を出ていく。

ハチの声「……あいつ、今日は寝転がらなかったな」

ハチ、天板から降りて絨毯を爪で掻く。

ハチの声「他の子供と別れて帰ってきた後は俺たちのように地べたへ横になるのを良く見るものだが」


(続く)

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