新たな始まり
〇豊崎・住宅街
背の低いアパートと一軒家が並ぶ。
〇佐藤家・外観
「佐藤」と表札の付いた玄関扉の横に、
シャッター付きのガレージがある。そ
の前に黒いワゴン車が停まる。
〇佐藤家・拓真の部屋
佐藤拓真(8)、扉を開けて部屋に入り、
そのまま入口で扉をおさえる。佐藤和
弘(38)が両手にペット用のゲージを抱え
て部屋に入ってくる。続いてきた佐藤
真奈美(38)が胸元にハチ(1)を抱えている。
拓真「おかあさん! 」
真奈美「はいはい」
真奈美、拓真にハチを抱き渡す。
和弘「で、何でハチにするの? 」
拓真「なんでって? んー、なんでだろ」
真奈美「(笑って)なんでだろってあんた」
和弘「猫にハチ、かぁ……んー、なんでかな、
でも俺も気に入ってきたな」
真奈美「拓真はあんたに似てるよね、やっぱ
り(和弘を見る)」
拓真「(肩眉を上げて真奈美を見て)え、そうなのー? 」
和弘「おいおい、喜べとまで言わないけどちょっとは表情にでもなんか出せよ」
三人、笑っている。ハチ、首を回して
部屋中を見渡す。
ハチの声「どうやら今日からの生活は、猫同
士で狭いところに集まって食べて寝て、を繰り返していた昨日までとは違うようだ」
真奈美「(ハチの顔を覗き込んで)里親を募集されてた子だから人間慣れしてるのは分かるけど、まだ1歳なのに大人しいわね」
和弘「犬とか猫は人間よりも実年齢が高いっていうしな。まぁ、こいつも他の同年代の子と比べたらませてるけど」
和弘、拓真の頭に手を乗せる。少しだ
け首を上げ頭上を見る拓真。
ハチの声「今、俺を抱えているのはタクマといったかな」
拓真「よろしくな、ハチ~」
拓真、ハチの両脇を抱えて頭上へとかかげる。ハチの鳴き声と拓真の笑い声を背中越しに聞きながらゲージを組み立てる和弘と真奈美。顔を見合わせる。
眉を下げて少しうつむく真奈美の肩を微笑しながら叩く和弘。
(続く)