「“手賀沼”で一体何が起きたの?テガヌマン!」
そう、彼の名は『テガヌウマ』。千葉県が誇る、かの有名な『手賀沼』の暮らしを守るご当地ヒーローとよく間違えられるのだが、本人も満更悪い気はしないし、一応“水中界の影武者”としてご年配の方々の間では“知る人ぞ知る”有名魚人ではある!…と堤防沿いの案内掲示板にそう書いてあった。この『テガヌウマ』の使命は勿論、雄大な手賀沼の平和と秩序を守るよう、水中大王様から水中パトロールを命じられ、日夜水中隈なく見張りをする筈が全然気乗りせず、というよりは嫌々渋々適当に暇潰しも兼ねてぶらついては、ナマズのPちゃんやブラックバスのトン吉らと駄弁る始末。職務専念義務を怠った残念なヒーローと言わざるを得ない。(悲しい現実だが)彼だって淡水魚の端くれ、下っ端魚人の成れの果て故、常に自由と放任を求めて自ら志願した訳じゃないから嫌が応にも士気が上がらない。水中大会議において外れくじ引いた運の悪さが祟っただけの話。「決める方もその程度かよ?」って話だけど…過度な期待はせず、ここはさらりと読み流して次へ進みましょう!(ナレーターは時々途中途中で“突っ込み”入れますから…ハイ!)
水中小学校、水中中学校(「言いにくいわ、これ!」)、水中水産高校を何とか無事卒業し、将来は水中大王の座にコネで就くのが夢だった彼は上級任官登用試験において筆記試験はヤマ感で鉛筆転がし(「え?水中でも転がんの?」)幸運にもパス!そして肝心の二次試験に当たる面接で得意のホラ吹き…(失礼!)弁舌巧みな黒話術(MR.マリックさんじゃありません!)が炸裂、まんまと十中にハマった試験官らが苦虫嚙み潰して札を上げる『一応合格!!』の前代未聞の不祥事!イヤ“過去まれに例を見ない白々しくもイヤらしい快挙”と揶揄される風潮にもめげず調子に乗った彼はもう心半分『大王様』になった気分。日に日に図太く成長を遂げ、ついに憧れだった水中大会議の席上にて持論を展開し、周囲の反発を物ともせず、思ったことは即実行に移し、決して悪事を働かず常に漁民目線で何事に対しても平等を主張しては改革断行を促していた。(「それって“漁民ファーストの会”?」)
「あの~皆さん!何度同じ議論したって事は上手く運びませんよ!今ここ水中世界で問題視されているのは人間達による水質汚染にドジョウの乱獲、水上バイク暴走族の即時撤退をどうするかってことでしょ?どうもさっきから聞いてるとやれ「今晩のおかずはエビフライがいいか、それとも焼き魚にしようかな?」なんてどうでもいい話ばっかり…もっと真剣に詰めて議論しましょうよ!
え?‟ギロッポン“なんて言ってません…って!…そりゃ好きだけどさ!…ちゃんと人の話を聞いてよね、全く…この長老幹部の重鎮アンコウ議員め‼」
「何言ってんだよ、ここは海じゃないんだぞ、“提灯アンコウ”って?
テガヌ…はて? 名前なんて言ったっけ?」
「手賀沼ジュン!イヤイヤ…もとい、テガヌウマです!つられて噛んじゃったじゃないですか!もう、全く…!」
~会議も終盤、本題へ~
「あ、そうそう…そろそろ水中パトロールの担当者決めよっか?」
と大王様から提案が…。
「さんせーーーい!」by出席魚人族議員一同!
「じゃ…例年だとちゃんと議論して決定するんだけど、今回めんどくさいのでくじ引きにしちゃいたいと思いま~す!じゃ、君から行ってみようか!テガ…何だっけ?手紙マン?」
「違います!って…郵便局員じゃありませんよ!テガヌウマです!」
「あ、そう…どうでもいいけど、さっさとくじ棒引いてね!みんな待ってんだからさ!」と大王!
「お、おめでとう!大当たりぃ~!」大王は思わず彼の手を握りしめ、
大会場の方を向いてそう言うと出席議員大勢が怒涛の大拍手喝采でスタンディング
オベイション!彼の出世を祝い、クラッカ―や紙テープが飛び交う始末!
(「ここって水中ですよね?くどいですけど…それも有り?」)
「は?う、嘘?ま、マジで…?」がっくり肩を落とす彼、テガヌウマ!
片やくじを一番に引かせた張本人の大王はそのくじを仕舞う際あることに気づく!
「あら?あらら、嫌だ!この私としたことが!これ、一昨年の忘年会で使用した全部当たりくじのやつじゃない!ど、どうしたもんか?…もう一回くじをやり直すにも役員全員帰ちゃったしなぁ、ま、いいっか!来年はちゃんと議論して決めればいいことだし…うん、そうしよう!」そう言うと大王は目にも見えない早業でそれらをバックに隠し、あっと言う間にその場から消えて行く始末。魚だけにシュッと水飛沫を上げ「はい、さようなら!」と彼に向って一言!でも何か、無責任極まりない政治家みたいなんだよなぁ?!「ぎょめんね!」って…さかなクンかよ、アンタは?(失礼!さかなクンは品行方正、優しく謙虚で誠実な客員教授、水中世界でも神的存在で~す!)
そんなこともつゆ知らずブルーな水中でブルーな気分に落ち込む我らがヒーロー、テガヌウマ!もういい加減、おうちに帰ったらどうなんだい?君に涙は似合わないぜ!水中じゃどれが涙かよく分かんないんだけど…!と、とにかく…負けるな、テガヌウマ!世の中って大体そんなもんですよ!『正直者が馬鹿を見る』というか人間界とちっとも変わらないこの水中世界!そんな中で手賀沼の水以上にきれいな心でぜひ困難に立ち向かって欲しい!皆が期待しているよ!正義のヒーローがその程度で挫けちゃいけないって!頑張れ、頑張って…テ,テガ…ん?あ、あれ?テガヌウマったら一体どこ行ったの?どこにもいないじゃないかよ?お、お~い、タガメウシ?どこよ、まったく…もう…俺、このナレーターの仕事辞めようかなぁ?合わないっつーか、いっつもこのパターンだもんな!明日職安に行って職探し…でも?
さっきまで暗くどんよりと沈みっ放しだったテガヌウマ!水中体内時計が夕方5時を示すと彼はそれに反応してすぐその場から居なくなってしまうのが彼の、ちとマズイところではあった!
ナレーター曰く…
「だ、だって非常事態が起きたらどうすんのさ?」(カツオ君的ボヤキ!)
「え?『働き方改革』でしょ、2021年も…って?」
「たまには残業しろよ、手抜きマン!」
「え?その件に関しては事務所通して言ってくれって?」
「御見逸れしましたぁ!俺もさっさと退勤しようっと!じゃあね!」
次回もお楽しみに!続きは
『湖沼血風録』第1章(シーズン1)になります! BY のがみつかさ