え?私と結婚する気だったんですか?
「おい。」
ここはアカデミーのエントランスホール。
「おい!」
帰りの時間はいつだって多くの人が行き交う。
「おいっ!!」
おいって誰だよ自分か?とみんなが振り向き出す。
かく言う私もその一人。
「あ、私でしたか。」
バッチリ目があったので私だったらしい。
「えっと?ポポーン王子、どうしてこ此方に?」
見知らぬ女の子の肩を抱いた某国の王子が顎をツンと上げる。
「式はいつだ。」
「はぁ…?」
「俺とお前の結婚式だ!」
私は友人と目をぱちくりさせた。
「……………え?もしかして私と結婚する気だったんですか?」
「ブッフぁっ!」
友人が盛大に吹き出す。
「ちょ、笑っちゃダメよラミィ。」
「だって、ンなもんとっくに、てかいつの話だよって。」
友人がヒーヒー腹を抱えて笑う。
声が届く範囲の人達もプフ、クスクスと堪え切れない様子。
「何なんだお前ら!不敬だぞ!」
真っ赤になったポポーン王子にラミィが呻る。
「あぁン?テメェこそ帝国第三皇女ヴィラミゥアラ様の御前ってわかってんだろうなァ?」
小動物がひれ伏すラミィの眼光に、傍らにいた女の子は逃げ出し、ポポーン王子の膝がカカカと嗤ったが、無謀にも王子が私に指を指す。
「ててて帝国は約束を破るのか?!」
私ははて?と首を傾げる。
「ポポーン王子が10歳のお誕生日に私の手を払った時点で、少なくとも結婚の話は流れてますが。」
気が合えば婚約と某国へお祝いに行った所、ダンスに差し出した手をベシっと払われた私の気持ちが分かるだろうか。
私では舞台を飾るには花が足りませんでしたね、とか何とか言ってやり過ごしたが、帝国はブチ切れ。コイツはねーわと、貼り付けた笑顔の下でこめかみをピキつかせた。
穏便に済ませてやれば、某国は何を勘違いしたのか、帝国の皇女も下がらせる王子スゲー、家の子大物スゲーになってニッコニコ。アホか。
何年か前に留学に来たらしいが、庶民向け誰でもカモンな学校に通っている時点でコイツの頭もお察しだ。
「おお王太子の俺を馬鹿にするのか?!下っ端王女の行き遅れが!」
いやいや末っ子で来年結婚ひかえてますが?
「ボコしますか?ヴィラミゥアラ様。」
「うふふ、お父様直筆の抗議文を外交官に持たせてあげましょ。それに今後こんな事が起こらないように徹底的に周知させなくてはね。」
某国関係者は何処へ行ってもクスクスされたらいいと思うの。
「ヴィラ、待たせてごめん。何事だい。」
後ろから私の結婚相手ジョシュアが講義を終えてやって来た。
「大した事じゃないの。ラミィ、アカデミーの警備を見直すように言っておいて頂戴、王子だからって不審者は入れては駄目よ。」
「かしこまりました。ぷふ、不審者には即刻お帰り願いましょう。」
「さ、私達も帰りましょ。」
私はジョシュアの腕を取って反転する。
「遅れるなんて珍しいわね、何かあった?」
「覚えてるかな、学者仲間のクロウが僕たちの結婚式に参列したいと手紙が来てね。」
「まあっ、あんな遠方から?宿の手配を急がなくちゃ。」
「だけど、西海の女王様の件もあるだろう?」
「ああ、それはね――――。」
勿論、某国の招待は無し。
大国の集まる席でのよい笑い話になるだろう。
ラミィと警備に、あんぐり口を開けたままの王子が踵を引きずりながら連れて行かれる。
「…ヴィラ?」
「ふふ、ちょっとだけスッキリしたって話。」