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目指すものは

彰は、眠らず彰が戻るのをベッドで待っていた紫貴の隣りへと入り、新も前世(まえ)の記憶を戻した事実を話した。

そして、自分達が去った後、新がどうやって死を迎えたのかも、聞いたままに話す。

すると、紫貴は涙を流して言った。

「…なんて寂しい想いをさせてしまって…。あの子は、誰よりも後に生まれてしまっていたから、皆を見送るよりなかったのですわ。」

彰は、頷いた。

新はそれ以上何も言わなかったが、最後の颯が死んだ後などを話している時には、紫貴は嗚咽を漏らして泣いていた。

彰は、紫貴を抱きしめて言った。

「…新にとってはつらい過去だったと思う。私も、自分の後を継いで欲しいとあんな年齢になってからあの子をたった一人残して、中途半端に長く生きてしまったばかりに、あの子は自分の事を省みる時間もなく…家族を持つ余裕もないまま放り出して逝ってしまったことを、後悔した。もっと、残されるあの子の事を考えて、結婚を勧めても良かったのにと悔やまれたのだ。」

紫貴は、頷いた。

「本当に。あの子が留まって欲しいと願っているからと、遅くにもうけた子でもあったし、不老不死の研究に協力して90歳を大きく超えて生きてしまいましたわ。もっと早くに逝っていたら、あの子も諦めて自分の事を考える時間も取れましたでしょうに。私達が死ぬ頃には、もう、家族を持つにも難しい年齢になってしまっていましたもの…。」

彰は、ため息をついた。

「本当に、可哀そうな事をしてしまった。あの子の気が済むのならと何も言わなかったが、もっと強く反対するべきだったのだ。他にやりたいことがあれば、そちらをやった方が良かったのに。」

紫貴は、言った。

「…それもそうですけれど、あの子が甘える人も居ない中で、淡々と自分の想いを胸に秘めたまま、皆を見送っていたのかと思うと…きっと、新は前世の分の涙を、今流していたのではありませんか。」と、起き上がった。「新は、もう寝室に?」

彰は、頷く。

「私がこちらへ戻る時に、寝室へ戻るのを見守った。ベッドに入っていると思うが。」

紫貴は、ベッドから足を下ろした。

「少し、慰めて参ります。置いて死んでしまったのは私も同じ。あの子には、本当につらい思いをさせてしまいましたから。」

彰は、回帰して結婚してから紫貴が傍を離れると寝付けないのだが、我が子の事なのだ。

なので、黙って出て行く紫貴を見送ったのだった。


紫貴が、そっと扉を開いて見ると、百乃、穂波、葵、宗太はまたぐっすり寝ていたが、新だけは、布団を被って眠っているような動きではなかった。

紫貴は、そっとそちらへ寄って行って、その布団の山をそっと撫でた。

「新?少しいいかしら。」

新は、布団の中で首を振ったのか、布団の山がふるふると揺れた。

「明日も早いですから。」

声が小さく震えている。

紫貴は、ため息をついて新のベッドに座ると、布団をスッとめくって新の隣りへと横になった。

こちらに背を向けていた新は、驚いたようにこちらを向いた。

「お母さんっ?」

紫貴は、フフと笑ってまだ7歳で小さな新を抱きしめた。

「シーッ。他の子達が起きるでしょ?いいのよ、さあ眠って。新が眠るまで傍に居るから。良い子ね、もう今は一緒に居るわ。何も心配しなくて良いのよ。」

新は、紫貴の胸の中でどうしようと思ったが、そう言われてハッとした。

自分は、今子供だ。

母も父も傍に居て、あれはもう終わった過去。

まだ、母に甘えてもいいのだ。

「…はい。」

新は、言って紫貴の胸の温かさに癒されながら、そして、そっと頭を撫でてくれる優しい気配を感じながら、安心して目を閉じたのだった。


新は、それから自宅学習に切り替え、図書館に通って時間と空間の本を山ほど借りて来ては、多くを読み漁り始めた。

どうやら、新には目標が見つかったようだった。

一方、彰はと言えば、まだやりたいことが見つからない。

他の子供達は、まだもっぱら学校を楽しんでいるだけで、特に何をやろうとは思っていないようだった。

とはいえ、研究所からは矢のような催促を受けていて、これ以上返事を遅らせるわけにはいかない。

彰は、堪らず紫貴に相談することにした。

「…どうしたものだろうか、紫貴…。研究所へ行かねば、手が足りないのでシキアオイの完成まで時がかかってしまう。だが、関東であるし、子達も転校させねばならないだろう。私達が暮らした、あの関東の屋敷に移らねばならないのだ。」

紫貴は、彰を見た。

「そうですわね…私はよろしいのです、あのお屋敷には思い入れがありますし。ですが、子達が何と言うか。お友達とも、別れて行かねばなりません。新は、もう学校に通っていないので何も言わないでしょうけど。」

彰は、ため息をついた。

「新からしたら、その方が都合が良いだろう。国立図書館にも通うことができるようになるしな。あの子達にしても、カリキュラムを見たらあの子達にとってはぬるい内容だ。もっと専門的な機関があちらにはある。無駄に時を過ごさせるよりは、そちらの同じような子供達と学ぶ方が益になるのは確かだ。とはいえ、まだ幼いからな。将来何がしたいのか、聞いた方が良いのかもしれないが…。」

紫貴は、答えた。

「それでしたら、もう百乃が。」え、と彰が紫貴を見ると、紫貴は続けた。「新が将来的に時空の研究をすると言い出したので、百乃も何をしたいのか自分に問うたようですわ。それで、子達の間で話し合いをしたようです。宗太は樹さんに懐いておりますでしょう。時々に来られると、病院での勤務の事などを聞いているようで、そちらの方へ行こうかと言っているようでした。百乃は、血が怖いのでそれは無理だと、最近では植物に興味を持っているので、そちらの研究をしたいと言っていました。穂波はまだ幼いから、特に決められないようでしたけど、お父さんと同じがいいと言って、結局医師の方向に決めようとしているとか。葵は、何しろまだ6歳ですから。でも、あの子は機械に興味がありますから、テレビを作るとか言っていましたわ。」

確かに葵は、家にあるテレビからラジオから片っ端から分解してしまって、彰とクリスとステファンで必死に組み立てて、元に戻したことがある。

ならば、機械工学の方へ行くのかもしれない。

百乃は世話好きの優しい性質なので、植物学も頷ける。宗太は、アメリカから帰って来て日本の病院に、医師として勤務している樹に懐いているので、そう言うのも分かった。

穂波は、パパっ子でとにかく彰にベッタリの子なので、それだけで決めているのだろう。

だが、あくまでも今の時点でなのだ。

あの子達は、まだこの世にある多くの職業を知らない。

彰は、ため息をついた。

「…実は、私は研究所に無理な条件を提示したのだ。だがそれでも、あちらは私に来て欲しいとそれを飲んで来た。」

紫貴は、首を傾げた。

「まあ。いったいなんですの?」

彰は、答えた。

「家族共々移り住めねば行かないと。」紫貴は、目を丸くした。「違うのだ、無理ならいいだろうと言ってみただけで。まさか了承してくるとは思ってもいなくて。」

紫貴は、息をついた。

「まあ…でも、あの子達のことを考えたら、それも良いのかもしれませんわね。」彰が驚いていると、紫貴は続けた。「何しろ、やはりあの子達は彰さんの子で。お友達とも、話が合わないことの方が多いようですの。でも、合わせて何とかやっているようで。そんなものだと思っているようですけれど、最近では何が良いのか分からなくなって来ていて。今は、あの子達もまだ何も決められておりませんが、やりたいことが見つかった時に、知識はとても重要です。学力があればどんな学校にでも入ることができるでしょう。研究所の方々と接することで、あの子達の時間が無駄にならずに理解が進み、やりたい事も早く見つかるのではないかと最近では思っておりますの。まだ幼いですし…彰さんがシキアオイを開発している間、あの子達も知識を蓄える時間に使ってはと思ってもいます。」

彰は、言った。

「では、良いのか?私と共に研究所へ行ってくれるのか。」

紫貴は、顔をしかめた。

「…はい。私はよろしいです。もちろん、下界の人達とも上手くやって欲しいのが本音ですが、新を見ていましたので。あなた方のような数パーセントの人類と言われる方々は、他の人類を助けるために生まれているのでしょう。ならば、何かが犠牲になるのも仕方がないことではないかと。」

紫貴は、前世とは違って彰や子達に対する理解が進んで、考え方が変わっているのだ。

前世は、とにかく普通の子供のように、過ごして欲しいとそういう生き方には否定的だったのだ。

彰は、頷いた。

「君がそう言ってくれるのなら。シキアオイの開発を最優先に考えて、とりあえずそれまでは研究所へ家族で移ろう。そこから先は…私も、まだ何をしたら良いのか定まっていないのだ。」

紫貴は、言った。

「…シキアオイができるまで、どれぐらい掛かりそうですの?」

彰は、答えた。

「計器も追い付いているし、恐らく5年以内には。自殺細胞を持つ細菌は見つけてあるし、ここからは前段階の薬品を粛々と作って行くだけなのだ。」

紫貴は、頷いた。

「でしたら彰さん。前回は専門ではないと言っていらした、あのウィルスの。今回は細菌学をなさったのでしょう。パンデミックに備えて、何かできるのではありませんか。」

言われて、彰はハッとした。

そうだ、あのパンデミック…。

「…あれは風邪なのだ。風邪に対する万能薬はない。とはいえ、あのパンデミックを引き起こしたウィルスのデータは私の頭に残っている。先に治療薬を作っておけと?」

紫貴は、頷いた。

「とりあえず対抗できるだけの何かを。あの時は、成す術なく皆が倒れて行きました。未知への恐怖に皆が引きこもって、大変なことになりました。治療薬とは行かないまでも、何か対策を立てられるように、手を打っておけるのではないかと思うのです。」

言われてみたらそうだ。

現場は大混乱で、そんな最中でも自分はひたすら癌の事ばかり考えていたのだ。

確かに、万能薬は作れない。

それに、あのウィルスの現物がない以上開発も難しい。

が、免疫の方向から考えてアタックして行けば…。

彰は、次の目標を、見つけたような気がしていた。

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