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私の転生記録

作者: 猫本屋

みなさんこんにちは。

私は…いえ名前は良いでしょう。

ギリシャ神話…には登場しないとある一女神ですとだけ。

その私が、明らかに自分の知らない女神様の前にいるのですがこの方はいったい…そして私はなぜここに?

頭の中が疑問符でいっぱいです。


「ごめんなさい!」

開口一番頭を下げられました。

神は軽々しく謝ってはいけない、そう教えられたと記憶していたのですが。

随分と腰の低い方のようです。

「あの…状況を説明していただいても?」

「…冷静なのですね。お若いのに…私も見習わないと」

それは良いのですが質問の答えになっていません。

あと、これでも一応二千年は存在しているのですが。

「どう言えばよいのか…つまりその…こちらの手違いで」

その時不意に頭に『異世界転生』の文字が浮かびました。

「手違いで私は死んだのですか?」

「理解が早くて助かります」

どうやら異世界転生あるあるのようです。

この知識は何なんでしょう?

「元の場所には戻れないのですね」

「…もしかして以前も同じことが?」

まさか!これが初めてのはずです。

はずです…よね?

「では転生先は…異世界…?」

すると見知らぬ女神様は

「私には異界へ渡る力など…」

と暗い空気をまとい始めました。

これはいけません、神の気分次第で人間界にどのような災いが起こるか…私は身を持って知っています。

「ですが人間に転生はしていただけるのですね?それはすごい事です」

「そうでしょうか」

良かった、表情が少し和らぎましたね。

「我が主上には転生の力はありませんので…。それでどの時代どのような場所へ」

「なにか希望はありますか」

「そうですね…」

ふと自分の髪を見ながら

「次は黒髪ロングのストレートが良いです」

今の容姿も気に入っていますが、どうせなら違う姿になってみたいというもの。

「わかりました」

目の前が暗転しました。


いつの間にか眠っていたようです。

なにやらわーわーと騒がしい声で目が覚めました。

剣戟も聞こえてくるような…?

目の前には凛々しい顔の女性が座っています。

黒髪ロングです。

私も黒髪ロング…になりかけでしょうか?

裳着前だから伸ばしている、という記憶が蘇ります。

どうやら私は後の世で『平安時代』と呼ばれる時代にいるようです。

それと同時に目の前にいるのが姉で、この騒ぎは城が攻められているのだとわかりました。

「姉上」

「戻りましたか」

目を覚ました人間にかける言葉ではありません。

今世の父もそうですが、姉も只者ではないのです。

私はただ静かに頷きました。

「姥やと共にここを立ち去りなさい」

そういうと私の手を取って立ち上がらせます。

「そんな…!姉上もどうかご一緒に」

「私はここを守ります。敵を引きつけるくらい私にもできます。それより…帝の狙いはあなたです。ここに居られては邪魔です。落ち延びていきなさい」

行きなさいでしょうか、生きなさいでしょうか…。

そんなことを考えながら姥やに手を引かれて抜け道を走ります。

「姫様…姉上様は姫様を守ろうと」

「わかっています」

その後は…父は帝に弓を弾いた謀反人として処刑されました。

切られた首が空を飛んだとか三大怨霊の一つとかいろいろな伝説が生まれましたが、私にとっては良き父でした。

私は仏門に入り静かに余生を送り、80を過ぎた頃静かに息を引き取りました。

…いや余生長過ぎませんか?70年近く余生ですよ?


気が付くとまたかの女神様の前にいました。

「どうやら満足しなかったようですね」

満足して生涯を終えるとこの転生の間には来ないそうです。

「長くは生きられましたが、ひたすら経を唱える毎日でしたので」

「そうですか…では次はどちらへ」

「髪も服も重かったので、次はギリシャ時代に似た容姿が良いです。料理も薄味だったので少し濃いものが」

「わかりました」

また目の前が暗転しました。


息苦しさで目が覚めました。

どうやら誰かがウエストを絞っているようです。

ふと目の前の鏡を見ると、ウエーブの掛かった金色の髪が目に入りました。

容姿もどことなくギリシャ時代に似ています。

そしてこのウエストを容赦なく締め上げているのは私のメイドです。

ここは後の世でいう『ルネサンス期』の先駆けでしょうか。

これから家族揃って観劇に出るようです。

私は新しく誂えてもらったドレスを着ていたのですが…もう少し先の時代だともっときついコルセットを着けられていたはずなので、まだ良かったと言えます。

…それでも十分きついですが。

「おお…なんと愛らしい。私の天使は今日も美しいな」

今世のお父様は伯爵です。

今日の観劇は近々陞爵するかもしれないと噂されているお父様の前祝いか何かでしょうか。

「今日はお父様のお知り合いのご家族もいらっしゃるので、お行儀よくするのですよ」

なるほど、お見合いでしたか。

道理で念入りに整えられたわけです。

馬車に乗り込み、お見合いのことより劇のことで頭がいっぱいでした。

…なので突然の惨劇に頭が追いつきませんでした。

馬車を降り劇場の入り口へ歩き始めると、ぱーん!という乾いた音がして目の前にいたお父様の体が地面へ崩折れ…暗くてよく見えませんが水たまりのようなものが広がって…。

悲鳴を上げお父様へ駆け寄るお母様も次の銃声で倒れました。

そして私も…。

お父様お母様と重なって地面に倒れ込み、新しいドレスが血で赤く染まっていくのをぼんやり眺めながら意識が深い暗闇へ――。


気が付くとまた女神様の前に。

「満足しませんでしたか」

「15歳でしたので…。」

「前回長すぎたというので短くしてみたのですが」

80から15は短すぎでは。

「…ところでお父様はなぜ暗殺されたのですか?」

「権力争いです」

…なるほど。

「次はどこが良いでしょう?」

なぜ少し楽しげなんでしょう…。

「もう一度平安へ」

すると女神様は意外そうなお顔をなされました。

「同じ場所ですか?」

「ええ。でも前回は中央に近すぎて大変な目にあったので、今回は少し外れた中級でお願いします」

「わかりました」

目の前が暗転しました。


三度目の転生です。

懐かしく、そしてどこか違う『平安時代』です。

海に浮かぶたくさんの小舟…女御や帝が乗っています。

…帝?!

まさかここは…海岸に目をやると武士がずらりと並んでいます。

『壇ノ浦』です。

こちらにいると言うことは…どうやら意識が戻った瞬間終わりのようです。

せめて苦しまずに逝けたら良いのですが。

ああ…弓の一斉射撃が始まりました。

私も矢を受け、海に落ちました。

水面を見上げ自分の髪や衣がたなびくのを眺めながら、いつぞやは新しいドレスが血に染まったけど今世では一張羅が水と血でだめになってしまうのだな…そんな事を考えていました。

誰かが私の名を呼びながら飛び込んで、抱きしめられたような気がします。

…死ぬときに一人じゃないのは心強いですね…。


さすがに四度目ともなると互いに開いた口が塞がりません。

「満足は」

「12歳ですよ?婿取りもまだなのに」

そういうと

「なるほど、では次は結婚までですね」

うんうんと頷きながらなにやら納得しておられますが。

私はもう時代を指定するのも容姿を選ぶのも面倒になったので

「他は全部任せます」

と少し投げやりに言いました。

「わかりました」

本当にわかっているのだろうか…一抹の不安を抱えながら目の前が暗転しました。


SNSで知り合い、意気投合した友人とやり取りしている最中。

これまでの記憶が蘇りました。

二回も平安を選んだからか日本人の、そしてもう姫は嫌だと思っていたので至極平凡な中流家庭の生まれです。

結婚もしています。

子供はいませんが、猫が三匹いるので毎日とても慌ただしく生きています。

経験上死の間際に記憶が戻ることが多いのですが、一応今の所まだ生きてます。

これまでの転生でなにか力を授かったとか魔法が使えるわけでもなく、本当に普通の平凡な主婦として。

時折頭を過ぎった謎の知識はここから来ていたのかとか、今世で満足するのかとか…ふと考えたりもしますが。

過去は過去。未来は未来。

とりあえずは精一杯生きようと思います。

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