そのおふだを直ぐに剥がせ!
「ほら、言い訳は署で聞くからサッサと乗りなさい」
廃墟に不法侵入していた男が同僚のパトカーに乗せられるのを見届けた俺達は、廃墟内にもう不法侵入者が残っていないかと見回りに戻る。
薄暗い廃墟内の部屋を一部屋ずつ見て回っているとき後輩が声を掛けてきた。
「先輩が貼ったおふだ、全く効果ありませんでしたね」
「まあ気休めで貼っただけだから仕方がないさ」
先月の末、警邏中にこの廃墟の前を通り掛かったら近隣住民の要望を汲んだ市が廃墟の周りに柵を立てているのに出くわし、柵を立てている工事関係者と立ち会いの市職員の了承を得て、妻の実家がある遠くの県に遊びに行ったとき購入したおふだを柵に貼らせて貰ったのだ。
貼りながら「気休めですがね」って言う俺の言葉に、工事関係者も市職員も笑いながら頷いていた。
ただ気になるのは、先月まで廃墟に不法侵入する輩は1週間か10日程の間に1人か2人程度だったのに、何故か今月は2日か3日毎に不法侵入者が現れるって事だ。
廃墟の内外をくまなく見て回ったあと柵の外に出た。
「ご苦労さん」
柵の外に出てパトカーに向けて歩いていた俺達の背後から声が掛けられる。
振り向くと何時もは署で指示するだけのキャリアの若い警部が立っていた。
俺達は敬礼して一緒に「「お疲れ様です」」と上司に返答する。
「また不法侵入する輩が現れたんだって?」
後輩がそれに返事を返した。
「そうなんです、先輩が気休めとは言えおふだを貼ったのに全く効果が無いんです」
「ほう、おふだを、どれ?」
「あれです」
警部に問われた俺は貼ってあるおふだを指差しながら答える。
おふだを見た警部が血相を変え叫んだ。
「そのおふだを直ぐに剥がせ!」
警部の剣幕に驚きながらも問返す。
「何故ですか?」
「お前知らないのか?」
「え? 妻の実家に行ったさい流行っている神社があったので、何の神様を祀っているのか知りませんがなんか御利益があるだろうと買ったおふだですが」
「その神社は商売の神様を祀っているのだ!
神社で売られているおふだを購入し店舗の前に貼っておけば、来店する客が増えると言われているのだぞ!」