表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

1日1回キスをする。それがこのループを抜け出す条件です。

作者: 棘 瑞貴


『今朝のニュースです。昨日、拳銃を持った30代程と見られる男性が──』


 僕は、歯ブラシを落とした。


 このニュース、昨日も見たぞ……?


 いやいや待て待て。

 同じような事件があったんだろう。

 

 一撃で僕の疑問を解消するには──


霧葉(きりは)!今日って何月何日だ!?」


 僕はキッチンで朝夕ご飯を作ってくれている、可愛い中学1年生の妹に、やや叫び気味に訊ねた。


 そして、妹の霧葉は恐ろしい事実を口にした。


「え、今日はクリスマスイブでしょ。ぼっちだからって忘れようとしたって無駄だよ?」

「……悲しい事実を伝えてくれてありがとう……ちょっと外出てくる……」

「ちょっと、朝ご飯は──てか、もう少しで──」

「……」

「……お兄ちゃん……?」


 霧葉が口にした日付、それは12月24日。

 昨日の日付──正確には僕から見た昨日である。

 今皆が感じているのは昨日でも何でもなく、ただ純然たる今日なのだろうな。


 ……なんで?


 僕、ラプラスの悪魔にでも魅入られたのか!?


 くそ……訳が分からないよ……きゅっぷい。


 駄目だ、完全にパニックになってるぞ僕……


 玄関でゆっくりと靴を履き、ドアノブに3度程手をかすらせながら4度目でドアを開けた。


 すると──


「おっす!オラ詩織(しおり)!準備は出来たかい少年!」

「詩織……?」


 僕の目の前に居たのは、桂 詩織(かつら しおり)

 所謂(いわゆる)幼なじみだ。


 黒髪をポニーテールで纏め、快活そうな見た目に巨乳を合わせ持つ、多くの層にクリティカルを決めそうな女の子。


「お前……何でうちに……?」

「はいぃ?怒るよ?じん君」


 玄関の前で、ぷりぷりと頬を膨らませている詩織は、腰に手を当てて僕を睨む。


 そうそう、じん君ってのは僕の事。

 高校2年生の朝日ヶ丘 陣(あさひがおか じん)、それが僕のフルネーム。


 まぁそれは良いとして、いや本当になんで詩織が──あ、そうだ。お一人様のクリスマスイブは回避しよう、とかそんなノリで二人で出掛ける事にしたんだ。


 昨日も詩織と色々街を彷徨いたじゃないか。


「……悪い、今日が楽しみで寝不足だったんだ。頭が働いて無いだけだよ」

「! そ、そう……楽しみ……だったなら仕方ないね」

「……ごめんな。っと、行こうか、デート」

「デ!? ねぇ……何か今日のじん君変だよ。いつもなら言わない事言ってる……」


 ……さすが幼なじみ。

 こいつは頭も切れるし、相談するには持ってこいなのだが……


 詩織からしたら1回目のデートだ。

 余計な事を言って今日を潰させたくはない。


 それに今日という日を楽しみにしてたのも本当だ。

 好きな奴とクリスマスイブを過ごせるんだ。

 これ程嬉しい事なんて他に無いだろう。

 

 ま、この気持ちを口にした事は無いがな。


 ……もしも、また明日が来ないなら、試しに告白してみて、詩織の気持ちを探れるのでは……?


 ──使える……!


 僕には明日が来て欲しい理由なんて無い。

 永遠に冬休みな訳だし、詩織と何回もデート出来る。


 ただ今日が終わり、明日が訪れた場合、告白が成功していれば良いが……

 失敗だったら詰むぞこれ。


 慎重に事を運ぶか。

 確か昨日は──


「詩織、悪いけど5分くらい待っててくれ。霧葉の朝ご飯をかけ込んでくる!」

「はいはい、じん君の事待つのは慣れてるからいいよ」

「ありがと!」


 僕はその後、出来るだけ昨日と同じようにクリスマスイブを過ごした。

 ウインドウショッピングは同じ所を周り、昼ご飯等も、きちんと記憶の限りを尽くした。


 少しだけ変わった事をしてみたのは──


「……あっ、手が……」

「ご、ごめん詩織……嫌だったか?」

「……ううん……ひひっ手繋ごっかじん君!」

「……あぁ」


 これくらいは許してくれよ、居るか知らんがタイムリープの神様。


 さて、いよいよ日も暮れ、木々に装飾されたイルミネーションの歩道を通っての帰り道。


 昨日はここで特に何も無く、帰ってしまった。

 

 もう1回があるかは分からない。

 ただ2回目のチャンスを棒に振るのは、勿体無さすぎる……!


 だから、例え失敗しようと勇気を持て、僕!!


「詩織、ちょっといいか?」

「うん?どったの?」

「……えっ……と……ぼ、僕は……」

「え、どしたのじん君……顔真っ赤だよ……?」


 ……こゆ時は察し悪いのね。


 くそっ、どうにでもなれ!


「詩織!僕は詩織が好きだ!ずっと好きだった!!僕と付き合ってくれ!!」


 何の捻りも無い、どストレートな告白。

 だっさいなぁ僕は……

 詩織もびっくりして全然何も言ってくれないし……


 1分程、詩織は目を見開いて固まっていた。

 え、死んでる……?

 

 長い長い1分後、詩織は見開いた瞳から涙を溢しながら──


「ずっと……ずっと待ってたよ。私を世界一幸せな彼女にしてねじん君……!!」


 ──僕達は抱き合ってちょん、とキスをした。





 そしてあっさりと明日は訪れた。


 詩織とは上手く付き合え、ループからも解放され、これ以上幸せなことなどあるだろうか──いやない!!


「ハハハ!!ありがとう神様!!もう一度チャンスをくれたんだな!!褒美だ年明けは諭吉をくれてやるーーー!!!」


 えぇ、それはもう完全に調子に乗っていましたよ。

 自分の部屋の窓に足を乗せ、ハイテンションで叫びまくった。


 だが、こんな事をしている場合じゃ無かったんだ。


 12月25日を迎えた僕は今日も詩織とデートをし、幸せなまま眠りについた。


 そして12月25日は訪れる──


「なんでだよ!?」


 自分の部屋の窓から僕は叫んだ。


 わ、訳が分からないよ……きゅっぷい。


 あぁ駄目だ、また頭がおかしくなっている。


 冷静になれ……24日を越えられた日との違いはなんだ!?


 詩織とは付き合えたから、これはトリガーじゃない。

 なら何だ……?


 ──1つの可能性にたどり着く。


「キス……?」


 そうだ、これじゃないのか……?

 昨日はキスをせず、普通に帰った。手は繋いだけど。

 ……チキった訳じゃないよ?


 そして疑心は確信へと変わった。


 ──プルルル……


 僕のスマホに電話が入ったのだ。

 相手は詩織だった。


「もしもし?じん君?」

「あ、あぁ……どうしたんだこんな朝から……?」


 この時、僕は気付くべきだった。

 昨日(・・)は詩織から電話なんか無かった。


「あ、あのさ。今から私が言うこと、頭がおかしくなったとかじゃないから、よく聞いてね──」


 曰く、詩織には昨日の記憶があり、僕と同じように昨日を繰り返しているという。


 ブルータスお前もか……


 いや待て。

 と言うことは、僕がキスをしたから、このループに巻き込んだんじゃ!?


「し、詩織……とにかく今から会えないか?R&ABCで待ち合わせしよう」

「わ、分かった!」


 R&ABC、これは僕の祖母が経営している喫茶店だ。

 よくこうして二人で話す時に昔から使っている。


 電話を切ってから15分後、僕達は店に集まり、テーブルに着いてから状況を確認した。


「いいか?僕達は今何かの条件を満たさない限り、このループから抜け出せない。そしてその条件とは──」

「キス、だね」

「!」


 さすがだな……ループに気付いてこの短期間でそこまで頭が回ったのか。


 なら話は簡単だ。


「詩織、下心があって言う訳じゃない。もし嫌なら断ってくれても構わない──」

「いいよ」

「え?まだ何も言ってない……」

「1日1回キスをしてくれって言うんでしょ。いいよ、私も……したいから……き、キス」


 頬を染めていじらしいことを言ってくれる詩織は、まるで天使のようだった。


 僕は天使の手を取り、真剣な顔で見つめた。


「結婚しよう」

「じん君、私の初めてを奪ってから言おうね?」

「初め……!?」

「ほら、今お客さん居ないし、顔近付けてよ」

「さ、さっそくですか!?」

「……何なら1回じゃなくていいんだけど」

「詩織さん!?」


 詩織は彼女になってからグイグイ来るタイプだった。

 ……お婆ちゃんも今キッチンだし、やるなら今か。


「はい、どーぞ」

「ず、ずるいって……ったく──」


 そして、付き合ってから2回目のキスを僕達は交わした。

 ……ホント、唇やわらかいなこいつ。





「12月26日だーーー!!!」


 僕はとうとうこのループのルールを把握した!!


 1日1回のキスでこのループは抜け出せる!!

 間違いない!!

 ハハハ!!僕は今究極のパワーを手に入れたのだーーーっ!!!


 理由なんてどうでもいい!

 これは使えるぞ……!!


 ……まぁ悪い事をすれば、全部詩織にバレるからそんなに使えないかもだけど。


 そんなこんなで僕は毎日詩織と会い、キスをした。

 幸せな日々だったよ。

 だが新学期を迎えた時に問題が起こった。


「朝日ヶ丘君、好きです。付き合って下さい」

「へ?」


 僕の目の前に居るのは同じクラスの、時岡 御幸(ときおか みゆき)さん。


 放課後に突然呼び出され、中庭なのに誰も居ない穴場スポットに僕は居る。

 鈍感という言葉とは程遠い僕は、この状況に一つの可能性を見出だした。


「いくら積まれた!?僕に告白してOKするかというゲームを行うのにいくら積まれたんだ!?」

「違う。本気。私は貴方を愛している」


 ……なんで?


 いや同じクラスだけど喋ったことあったっけ?

 名前と顔は分かる。その程度の仲だろう僕達。


 それに君、表情がずっと一緒で感情が何一つ伝わって来ないんだよ!

 はっきり言って怖いよ!

 何で告白してるのにそんなに無表情なんだ!!


「あ、あのさ、時岡さん。僕達ほとんど喋った事無いよね?なのにいきなり告白されても……それに僕、彼女いるし……」


 そうなのだ。

 僕には可愛い彼女が居るんだ!

 君と遊んでいる場合じゃ──


「関係ない。2番目でもいいし、体だけの関係でも良い。だから貴方の側にいさせて」

「ど、どうしてそこまで……」

「私の気持ち、伝わらない?だったら──」


 僕はこの日、油断大敵という言葉を、深く身に染み込ませた。


「ちょ、お前──」

「……ん……」


 僕の頭を優しく包み込んで、唇に唇を重ねられた。

 詩織よりも薄い唇だが、ひんやりと気持ち良いキスは、僕の思考を完全にショートさせた。


「もっとしたくなったら言って。また明日、同じ時間にここで返事を下さい。今日はこれで──」


 時岡さんはそのまま僕に背中を見せて走り去って行った。

 去り際の彼女の頬は、僅かに赤らんでいたような……


「な、なんだったんだ……」


 僕は、頭がパンクしたまま帰路へついた。





「じん君、遅いなぁ……」


 いつもなら校門の前で待ち合わせして、そのまま一緒に帰るのに……


 何かあったのかな?


 ──ブブッ


 お、スマホにメッセージが。


「じん君!」


 メッセージを開くと、じん君はどうやらクラスメイトに掃除を言い付けられたらしい。


 ……怪しい。


 今までそんな事あったっけ?


 友達の少ない彼が、クラスメイトと交流を持つなんて……

 いつものじん君なら、「知るか、僕は帰る」って言ってクラスの反感を買いながら、即私の元に来る。

 ……それが私はちょっと嬉しい。


 じゃなかった。

 そうだよ、このメッセージはかなり怪しい。

 んー……でも、あまりじん君の事は疑いたくない。


「仕方ない……今日だけだよ……じん君のバカ」


 私は少々待ち惚けを喰らったものの、じん君よりも先に家へと帰った。


 そして、最近あまりにも当たり前になっていた、二人の大切な儀式を忘れていた事に次の日の朝に気付く。


「あ!!しまった!キス!!!」


 昨日はキスをするのを忘れてた!

 と言うことは、また昨日が繰り返されちゃうんじゃ……

 何かの間違いで日付が進んでたりしないかな!?


 別に何か困る事が有るわけじゃないけど、同じ授業を受けるのは、正直かったるい……


「スマホ──」


 私はさっさと今日の日付を確認する為に、スマホの画面を見つめた。

 驚いたのはその時だ。


「え……明日になってる……」


 ……昨日は間違いなくキスをしていない。


 今まで、キスをしなければ明日が来ないのか、不安だからちょくちょく確認をしながら今日まで来てたんだけど……


 キスをせずに次の日が訪れる事は、一度足りとも無かった。


 ──フフフ……


 そう……そういう事……

 ……何かの間違いであって欲しかったよ……

 じん君……私は絶対許せない事があるの……


 ──私はスマホを手に取り、じん君へ電話を掛けた。


「もしもし!詩織?どうした?」


 あー……まだ気付いて無いんだね。

 おっけぇ……なら、戦争だね……!!


「じん君、だーいじなお話があります」

「え、う、うん……今、聞いてもいいか……?」

「もちろん!!」

「あ、ありがとう……それで……?」


 私は明るいトーンから一転、一気に声を落として、決定的な一言を告げた。


「じん君の浮気についてのお話だよ──昨日一体どこの女とキスをしたの……!!!」

お読み下さりありがとうございます!


☆☆☆☆☆に色を付けて頂けたりブックマーク等貰えましたら幸いです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] オチが最高でした(笑
[良い点] 設定が良いですね。 あと、詩織ちゃん察しがよすぎです! [気になる点] 浮気即バレ(事故ではあるが)したじん君のこの後はいかに(笑) [一言] おぅふ、Syu・Ra・Ba! 他の子のキ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ