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08 騎士団の演習視察も、だいたい何かあるよね?

 オーキン城の敷地内にある演習場では、辺境を護る騎士団と、王都を護る騎士団が剣を交えていた。互いに5人を選抜した1対1による対抗戦で、普段であれば、勝っても負けてもお互いを称え合う和気あいあいとした雰囲気のはずなのだが、昨日の晩餐会でエリスティアがアーヴァイン王太子殿下を拒絶したことにより、ピリピリとしたムードが漂っていた。


 一進一退で対戦は進み、勝敗は2勝2敗。勝負は最後の団長戦に委ねられた。


 流麗に剣を振るう王都の騎士団長の名はジャレンス。歳のころは20代半ばで、筋肉質だが細身でスタイルがいい。

 筋骨隆々でブンブンと剣を振り回すオーキンの騎士団長の名はゲイブル。武骨な30代だ。


 演習場を見渡せる兵舎の屋根ほどの高さの指揮台には、来賓とオーキン家の特別席が設けられていた。


「お姉さま、どちらも真剣勝負で、すごく盛り上がってますね」


 無邪気にはしゃぐエリスティアに、アリスティアは苦笑いを返すしかない。


「う、うん、そうね」


 誰のせいでマジになってると思ってんの!? と心の中で突っ込んだが、天使の笑顔には逆らえない。誰からも愛されて育った妹には、ちょっと天然なところがあるのだ。


 演習場に続く階段を挟んだ席には、アーヴァインとエルウィックの2人の殿下が並んで座っていて、アーヴァインは「いけ!」だの、「そこだ!」だのと、拳を振り上げている。


 アーヴァインの期待を乗せて、王都の騎士団長ジャレンスの剣が鋭く斬り込む。


「殿下に対してあのような態度、許されるものではない!」


 斬りつけられた頬や肩口からわずかに血が流れたが、オーキン騎士団長ゲイブルは構うことなく剣で振り払った。


「何を言う! 我らが天使姫を迎えるなら、相応の礼儀があろう!」

「くっ!」


 力任せの剣にジャレンスは体勢を崩し、喉元に切っ先が突きつけられた。


「非礼なのがどちらだったか、よく考えるがいい」

「おのれ……」


 ジャレンスは、ガックリと膝を屈した。


「勝ったぞーっ!」


 演習場のオーキンの騎士たちが歓声を上げた。エリスティアも立ち上がって拍手を送る。付き添いできているグレゴリオは、王太子殿下の機嫌をさらに損ねないか気が気でない。

 案の定、アーヴァインはつかつかと階段を降りていった。


(ちょっ、何する気!?)


 嫌な予感しかしないアリスティアだが、アーヴァインは演習場の中央に歩みを進め、ゲイブルの前に立った。


「辺境の騎士もなかなかやるではないか。だが、余興はこれまで。俺と勝負しろ!」


 アーヴァインが腰の剣を抜いた。切っ先を突きつけられたゲイブルは戸惑い、指揮台のグレゴリオに目を向ける。

 そこには、あたふたと立ち上がり、おかしな身振りで止めようとするグレゴリオがいた。そんな父の姿を遮って、エリスティアの元気な声が飛ぶ。


「ゲイブル団長、しっかりーっ!」


 その声援に、アーヴァインの機嫌がさらに悪くなった。


「ゲイブルとやら、さぁ、かかってこい!」


 どうしたものかと、ゲイブルがもう一度観覧席に視線を移すと、グレゴリオは諦めたのか、頭を抱えながらうなずいていた。


「……では、お相手いたしますが、失礼を承知で1つよろしいでしょうか?」

「何だ? 申してみよ」

「エリスティア姫様の気を引きたいのであれば、私を打ちのめすのは逆効果では?」


 ゲイブルのもっともな申し出を、アーヴァインは鼻で笑った。


「フン、何を言う。私の剣技に惹かれぬ女はおらぬ。現に王都の女どもは、私が剣を抜くだけで黄色い声を上げるぞ?」


 ――ああ、何を言ってもダメだ。ゲイブルの目から光が消え、死んだ魚の目のようになった。


「かかって来ぬなら、こちらから行くぞ!」


 ハアァッ! アーヴァインが剣を振るいながら迫る。


 むっ! ゲイブルはかろうじて剣で弾いた。構わずアーヴァインは、2撃、3撃と剣を重ねていく。


 後ずさっていくゲイブルを見て、グレゴリオが大げさに驚いた。


「おお! さすが王太子殿下! 見事な剣技ではないか!」


 チラッとエリスティアを見るが、むーっと頬を膨らませている。


(殿下、エリスティアの機嫌が、どんどん悪くなっておりますぞ)


 グレゴリオはもう半泣きだ。


「それ! それそれっ!」


 意気揚々と剣を振るう王太子を見て、ふくれっ面の娘から一人言が漏れた。


「……悔しいけど、鋭い剣筋ですね」

「そうね。小さいころから、ものすごく鍛錬したんじゃない? ……ちょっとは、認めてあげれば?」

「…………」


 エリスティアは少し考えてから、ぶんぶんと頭を振った。


「ダメです! お姉さまを侮辱した方を認めるなんて!」

「私が貴族令嬢にあるまじき太さなのは事実なんだから、気にすることないのに」

「イヤです! 内面を見ない男性はキライです!」


 はぁ……すっごく嫌われてるんだけど、どうすんの? 王太子殿下。


 アーヴァインが後ろに跳ねて距離を取った。剣を受け続けたゲイブルは、2戦目ということもあり、すでに肩で息をしている。


「我が剣をよくぞ受けきった。だが、これで終わりだ」


 アーヴァインは王家に伝わる剣を、かっこつけて――つばで顔を斜めに隠すように構えた。はらりと垂れた前髪が、顔立ちの良さを際立たせる。


「“軍神の威光”!」


 つばに飾られた魔石が赤く輝き、アーヴァインの全身から威風堂々たるオーラが放たれる。


「う……ぐぐ……」


 ゲイブルの体が萎縮したかのように、固まった。


「どうだ? 動けまい? 我が恩恵は千の軍を威圧し、硬直させる力がある」


 ゲイブルは鍛え抜いた体を動かそうともがくが、微妙に震えるだけだ。

 アーヴァインはニヤリとほくそ笑むと、ゲイブルにゆっくりと歩み寄り、喉元に剣を這わせた。


「私の勝ちだな」


 ゲイブルの頬を冷や汗が伝う。体の自由を奪われては、いかに鍛えた剣技があろうと為す術がない。


「……ははっ。王家の力を示して頂けたこと、ありがたき幸せ」

「うむ」


 アーヴァインが満足したように剣を納めた。


「お姉さま……あの恩恵ちからは……」


 戦いを見守っていたエリスティアの顔が青ざめている。


「うん……動けなくするなんて、女の敵ね。触りたい放題じゃない」


 王族が座る席から、ぷっと吹き出す息が聞こえた。


「気になるのはそこですか? アリスティア姫」


 アリスティアとエリスティアが揃って顔を向けると、エルウィック殿下がクスクスと笑っていた。気性の荒いアーヴァインとは違い、穏やかな眼差しが優しさを感じさせる。

 エリスティアが顔を真っ赤にして、アリスティアに振り返った。


「そ、そうですよ、お姉さま! 私はそういうことが言いたいんじゃありません。あれでは、どんな騎士も敵わないじゃないですか。それこそ……お父さまだって……」


 それは……そうかも。ゲイブルは力だけなら、お父様に次ぐ力を持ってる。それでも体が動かせないなんて……。


 エルウィックは、まだクスクスと笑っている。


「兄上は見ての通りの方ですが、女性にあの恩恵ちからを使うことはありませんよ。国を統治するための威光ですから」


 グレゴリオもたしなめた。


「その通りだぞ、アリスティア。アーヴァイン殿下が、あの恩恵ちからを乱用するわけがなかろう!」


 ん? もしかして不敬に当たる? それはまずい。アリスティアはすっと立ち上がって、頭を下げた。


「申し訳ありません、エルウィック殿下。失言をお詫びいたします」

「いえ、僕の方こそ、淑女レディの話を耳にしてしまうとは失礼しました。あまりに楽しかったもので」


 エルウィックは、あくまで微笑みを絶やさない。12歳とは思えぬ分別のある振る舞いに、アリスティアとエリスティアの中で王族の印象が爆上がり――なのだったが。


 演習場の真ん中から、全てぶち壊しにする声が発せられた。


「グレゴリオ! いいことを思いついた! これから俺と勝負しろ! 俺が勝ったら、エリスティア嬢を我が婚約者とする! よいな!」


 グレゴリオが横目でチラリとエリスティアを見た。愛しい娘はこれでもかと頬を膨らませている。


 はぁ……なぜこうもアーヴァイン殿下は、エリスティアの気持ちを逆撫でるのか。


 アーヴァインの意向と、エリスティアの気持ち、2つの板挟みになってうろたえるグレゴリオに、アリスティアはやれやれと息を漏らした。


(嫌がるエリスをアーヴァイン殿下に差し出すわけにもいかないし、ここは私の出番かな?)


 よっこいしょっと――。脂肪がMPマジックポイントの最強魔法使いが、ついにその重い腰を上げた。

次回更新は、ちょっと空きますが4/4(月)に『転生少女の七変化キャラクターチェンジ ~病弱だった少女が病床で作った最強7キャラで、異世界をちょっと良くする物語~』をアップ予定です。

https://ncode.syosetu.com/n2028go/

もしくは画面上の、作者:イリロウ のリンクから

どちらも読んでもらえるとうれしいです!


【大切なお願い】

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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